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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■
322/489

異譚60 再創生

祝350万PVです。ありがとうございます!!

 幾つもの星が瞬き、狼に飛来する。


「くそっ! なんでこんな事に……!!」


「嘆いてる暇なんて無いですよ! 気持ちは分かりますけど……!!」


 星が弾け、幾つもの流星となって狼を襲う。


「なんで……なんでどうして! どうしてあの子が異譚支配者なんかに……!」


「分からんけどぉ、うち等のやる事は一つやし。今は、倒さなあかんよぉ……」


 極大の流星が狼に降り注ぐ。


 少女達の混乱は収まらない。何せ、目の前で魔法少女が異譚支配者となったのだ。動揺するなという方が無理な話だ。


 人間が異譚支配者に成る事は、情報統制のために外部には漏れていないけれど、階級が上の魔法少女にはその話は伝わっている。星の魔法少女であれば一等星以上には知らされており、この場の五人もまたその事実を知る側の人間であった。


 だが、知ってはいても、目の前で実際に異譚支配者になる所を見るまでは半信半疑ではあったのだ。


 人間が異譚生命体に成る事は分かっていた。実際に、異譚生命体に成った人間を殺した事もある。けれど、異譚生命体に成る前の人柄を知らない事の方が多い。


 人であった頃の姿を知らない方が戦いやすい。知識として知っているのと、実際に見て理解するのとでは、事態に対する解像度が違う。


 人であった頃の姿を知っているからこそ戦いにくい。もっと言えば、殺しにくい。


 それでも戦わなければいけない。今は何も考えず、ただ目の前の敵を倒す事に集中する。


「「ぼんぼこ、ぼーん!!」」


 星の魔法少女達に続くように、爆発性のキャンディケインが飛来する。


「『触手は真っ二つ』です!」


 軍刀で触手を切り付けながら、『猫の二枚舌』を使って触手を斬り落とすシュティーフェル。


「む、無理しないでね、シュティーフェルちゃん」


 シュティーフェルの肩に乗って補助魔法をかけるサンベリーナはシュティーフェルを案じるように声を掛ける。


「大丈夫です……! 私達が、やらなくちゃですから……!!」


 葛藤が無いわけでは無いのだろう。その言葉は苦し気で、その事実を口にするのすら嫌だというシュティーフェルの気持ちがありありと感じ取れた。


「全員邪魔!! コイツはアタシ一人でやるから、アンタ達はすっこんでなさい!!」


 全員が、覚悟を決めて狼と戦おうとしている。そんな覚悟知らぬとばかりに、ロデスコは手を出すなと声を上げる。


「途中参戦のくせに偉そうにこくなよ。てめぇこそすっこんでな」


 ロデスコにそう返し、イェーガーは長銃で狼の円錐形の頭を撃ち抜く。


『ガアアアアァァァァァァァァアアアアアアアアアアア――――!!』


 獣のような悲鳴を上げる狼に、イェーガーは苛立たし気に顔を顰める。


「んでだよ……!!」


 間髪入れずに、イェーガーは両手に持った長銃を連射する。


「なんで手に取ったんだよ……!!」


 イェーガーの精密射撃から逃れるように、狼は木々を薙ぎ倒しながら暴れ回る。


 それでも、一心不乱に暴れ回る狼だけれど、イェーガーの精密射撃から逃れる事は出来ない。


「なんで全部諦めちまったんだよ!! ばか野郎!!」


 あの時、赤い服の女から鍵を受け取った時、ヴォルフは全てを諦めてしまった。家族はもう救えない。それは、イェーガーにも分かった。家族の事は、諦めるしか無い。


 それがどれだけ辛い決断なのか、イェーガーには分からない。何せ、イェーガーは捨てられた側であり、家族など最早居ないモノであると最初から諦めていたからだ。


 だから、イェーガーにはヴォルフの心痛具合は計り知れない。家族の居ない者に、家族を失う痛みなど分からないのだから。


 それでも、仲間を失う事の恐ろしさは分かっているつもりだ。


 本当なら、鍵を受け取る前にヴォルフを撃つべきだった。あの鍵がまともでは無い上に、邪なモノだと言う事は一目見て分かった。それを受取ろうとするヴォルフの腕を撃ち抜くくらい、イェーガーには訳無い事だった。


 ヴォルフの腕を撃ち抜いて吹き飛ばし、鍵を取れないようにするべきだった。例え腕を失ったヴォルフに恨まれようとも、こんな事態になるよりはずっとマシだったはずだ。そのはずなのに、それが分かっていたのに、撃てなかった。


 あの時、イェーガーの胸中を占めていたのは、焦燥でも混乱でも無い。それは、確かな恐怖。


「あたし達が、いるじゃねぇか……!! 家族じゃねぇけど、独りじゃ無かったじゃんかよぉ!!」


『うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい!! 家族が全てだった!! 家族が生きる意味だった!! 家族だけが自分の全てだった!! お前には分からない!! 家族を持たず、友達を持たず、一人で居る事を選んで、他人を見限って、他人を拒絶し続けて、人との関りなんていらないと切り捨てるお前には、人と関わるのが怖くて誰とも繋がれないお前には、お前なんかには……自分の気持ちなんて分からない!!』


「――ッ!?」


 確信を突く狼の言葉に、一瞬動揺が生まれる。


「イェーガー!!」


 その一瞬で、狼には十分だった。


「ぉっ……!?」


 鋼鉄製の触手が横薙ぎにイェーガーに叩き付けられる。


 鋼鉄の触手の直撃を受けたイェーガーは、木々をぶち折りながら吹き飛ばされる。


「チッ。あの馬鹿……!!」


「アシェンちゃん!! イェーガーちゃんのとこ行ったげて!!」


「わ、分かったわ~!!」


 後方で支援をしていたアシェンプテルは、アシェンプテルの護衛をしながら遠くから狼を射抜いていたまゆぴーの指示に従って、吹き飛ばされたイェーガーの元へ走る。


「りぃちゃん!! せりりん!! アシェンちゃんの援護お願いにぇ!!」


「了解!!」


「任しとき~!!」


 りぃちゃん、せりりんが戦線離脱し、攻撃能力の無いアシェンプテルの援護に回る。


「こっち寄せゆよ~!! しゅーてぃん……すたー!!」


 魔力を溜め、極大の矢を放つまゆぴー。


 だが、見え見えの攻撃であったため、狼は難無く極大の矢を避ける。


「ぼんばー!!」


『なぁっ!?』


 狼が矢を避けたその瞬間、極大の矢が大爆発を起こす。


 爆発は狼の身体を飲み込み、その巨体を抉る。


『ぐ、うぅ……ッ!! このぉ……なんでこうも、邪魔ばかり!!』


 痛みに呻くも、狼の身体はみるみるうちに再生する。


 身体を再生させながら、狼はまゆぴーへと触手を伸ばす。


「やばばっ!?」


 目標が自分に移り、まゆぴーは慌てて走りだす。目論見通りとはいえ、近接戦闘は苦手なので近付かれれば不利なのはまゆぴーの方なのだ。


「アタシがやるって言ってんでしょうが!! ったくもう!!」


 触手を掻い潜り、ロデスコは燃え盛る具足で蹴り付ける。


『邪魔。邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!! 邪魔ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああッ!!!!!!』


 狼が苛立つように遠吠えを上げる。


「――ッ!? マジか……ッ!!」


「うっ!?」


「わわっ!?」


「くっ……!!」


「なっ……!?」


「にょわ~!?」


「「うわうわ!! お菓子の家(スウィートハウス)!!」」


 遠吠えは木々を粉々にし、大地を割る程の衝撃波を生む。


 即座にヘンゼルとグレーテルがお菓子の家(スウィートハウス)を展開してロデスコ達を保護するけれど、遅かった。


 サンベリーナとアシェンプテルの防御の補助魔法が掛かっていたとはいえ、ヘンゼルとグレーテル、まゆぴー以外の全員が数瞬とは言え衝撃波の直撃を受ける。


 そして、衝撃波を受けてお菓子の家(スウィートハウス)もまた吹き飛ばされる。


 遠吠えは森を割る。


『全部、全部消えれば良い!! 消してやる!! この世界全部!! そうすればやり直せる!! もう一度、創り変えてやる!!』


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― 新着の感想 ―
[一言] まじで展開が辛すぎて泣ける ヴォルフとかちょっと前に救われたばっかやのに
[一言] 強いな異譚ヴォルフ。
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