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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■
311/489

異譚49 中央突破

すみません。今週ちょっと疲れ果ててたので間が空きました。申し訳無いです……。

 纏う風の影響か、ゆっくり、ゆっくりと落ちる途方も無い巨人。しかし、ついにその巨体は地面に堕ちる。


 その瞬間、アリスは地面を蹴り付け、安姫女(アンジェ)――雲山羊へと肉薄する。


 自身の感知出来る範囲に仲間や一般人の気配は無い。であれば、存分に戦える。


 十剣を振るい、致命の極光を放つ。


『ワンパターンね、アリスちゃん』


 致命の極光を避ける雲山羊。避けた先にアリスが無数の大剣を射出しているけれど、地面が隆起して大剣を阻む。ただの土塊であればアリスの大剣を阻む事は出来ないけれど、隆起した地面には魔力が込められているのか、大剣がほんの少し食い込むくらいで止まってしまっている。


「それは心外」


 隆起した地面に刺さった大剣が突如として大爆発を起こす。


『――っ』


 隆起した地面を抉り、表皮を焼く程の熱風が雲山羊を襲う。


「私程、自由に戦える魔法少女はいない」


『くっ……』


 追い打ちをかけるように致命の極光を放つアリス。


 熱風に肌を焼かれながら、雲山羊は致命の極光を避ける。


 地面を蹴り付けて、アリスは雲山羊を追う。


 空から槍の雨を降らせ、意趣返しのように地面を隆起させて進路を遮り、一瞬の停止を狙って致命の極光を放つ。


『……此処までとはっ』


 焦ったような声を漏らしながら、雲山羊は致命の極光を何とか回避する。


 回避した先には次の攻撃が仕込まれており、それを回避したとしてもまた次の攻撃が待ち構えている。


 雲山羊としては回避をするのに手一杯の状況であり、反撃を考える暇すらない。


「なら、速度を上げる」


 水、風、土、氷の龍を生成する。四属性の龍は木々の間を縫いながら雲山羊を追う。


 上空には百を超える槍を生成し、その穂先は上空に待機したまま常に雲山羊を追っており、少しでも隙を見せれば即座に上空から高速で射出される。


 更に、幾つもの竜巻、追尾する爆発する虎や鳥、地面からは巨大な杭が唐突に出現し、いつの間にか設置されていた罠を踏み爆発する。


 そして、十剣(テンソード)を二本握り、隙あらば致命の極光を放つ。


 たった一人で生み出す、数の暴力に圧倒される雲山羊。


 顔色一つ変えずに魔法を行使し続け、アリスは雲山羊を追う。


焦りは無い。ただ、覚悟を決めたというのに、攻撃するたびに心が痛む。だが、心の痛みを押し留めて、アリスは雲山羊に苛烈に攻撃を仕掛ける。


 絶対に倒さなければいけない。倒す以外の選択肢は無い。だから、心を殺して本気で挑む。


 業を背負うのは、自分だけで良い。





 アリスが雲山羊と戦闘を繰り広げている頃、増援として異譚に突入したスノーホワイト、サンベリーナ、シュティーフェルの三名もまた、戦闘を行っていた。


 群れを成す木の山羊達。その群れに対し、スノーホワイトは真っ向から進んでいく。


「足元、滑るから気を付けてね」


「了解です!」


「わ、分かったよ。……な、なんちゃって」


 えへへと笑うサンベリーナ。サンベリーナはシュティーフェルの肩の上に乗っているので、足元を気にする必要も無い。


 サンベリーナなりのシュティーフェルの肩の力を抜くための冗句なのだけれど、真面目なシュティーフェルは『確かに!』と納得しているだけである。


 スノーホワイトは背後をちらりと気にした後、直ぐに視線を前に戻す。


 優雅に歩いてはいるけれど、ただいま、絶賛戦闘中。


 氷の礫を飛ばし、近付いて来る前に氷漬けにする。氷の礫が衝突した木々は凍てつき、氷の領土を広げていく。


 少し戦うだけでフィールドを支配してしまう。場所や敵の相性もあるだろうけれど、大抵の相手であれば時間が経つにつれてスノーホワイトが優勢になっていく。雑魚であれば尚更だ。相手が炎や熱を持つ敵であれば、相性的にスノーホワイトが不利になってしまうけれど。


 だが、此処は森で、相手は熱を持たない生物。であれば、スノーホワイトの凍てつく世界で生き残れるはずも無い。


 木の山羊達は進むごとに凍てつき、後ろから押し寄せる仲間によって砕かれる。砕かれた身体もまた世界を凍てつかせる一因となる。


 凍てつかせる物体が多ければ多い程、スノーホワイトの凍てつく世界が広がる。


 最初の編成ではスノーホワイトもメンバーに入っていたのだけれど、チーム以外の魔法少女や巻き込まれた一般人が氷漬けになる可能性を考慮して待機に回されていた。理由としてはロデスコと一緒の扱いである。


 だが、異譚支配者の復活と時間経過による被害者の生存率の低下を考慮して、スノーホワイトが増援として投入された訳だ。ロデスコが投入されなかった理由は、多対一の戦闘効率がスノーホワイトの方が高いからだ。


「予想以上に数が多いわね」


「聞いてた以上ですね」


 報告では百から二百とあった。だが、異譚に入って交戦してから既に三百以上の木の山羊に対処している。一度の邂逅での報告だったので、それ以上いる可能性も勿論考慮してはいたけれど、こうも止めどなく来られると上限なんて無いのではと考えてしまう。


「み、皆、大丈夫かな?」


「大丈夫ですよ! 皆さんお強いですから!」


「それでも、何が起こるか分からないのが異譚だよ。嫌な事言うようだけど、最悪の事態は想定しておいてね」


 目の前の敵を処理しつつ、スノーホワイトは冷静にシュティーフェルに冷静に言葉をかける。


 スノーホワイトだって、本当ならこんな事を言いたくはない。凡百の異譚であればそんな心配はしない。だが、イレギュラーが起こっている異譚であれば話は別だ。それも、異譚侵度Aともなれば尚更だ。


「……そんな想定、したくないです」


 しょんぼりと肩を落とすシュティーフェル。


「気持ちは分かるけどね。でも、何事も楽観視だけはしないようにね」


「……了解です」


「わ、わたしも皆が死んでるだなんて思いたく無いよ。で、でもね、異譚だからそうなる可能性もある訳で……えーっと……そ、そうならないように、全力で頑張ろうねって事だよ!」


 良い風に話を纏めようとしたサンベリーナだけれど、まったくまとまらずに無理矢理それっぽい事を言って纏めようとする。


 スノーホワイトは慣れない事をしなければ良いのにと思うけれど、優しく真面目で純粋なシュティーフェルは落としていた肩をシャキッとさせて、キラキラ笑顔でサンベリーナを見る。


「そうですね! そうですよね! そうならないように頑張るのが一番ですよね! えいえいおーですね!」


「うっ、ま、眩しい……!」


 純粋なシュティーフェルを見て、眩しそうに目を細めるサンベリーナ。


「二人共、集中は切らさないでね。氷漬けにしてるとはいえ、敵の群れのど真ん中(・・・・)なんだから」


「了解です!」


「だ、大丈夫だよ!」


 三人は強引に群れを突っ切るように進んでいる。氷漬けにしながら進んでいるので、今のところ危険は無いけれど、それでも油断は出来ない。


 強固体、つまり、異譚支配者が現れれば安定して進むなんて事は難しいのだから。むしろ、ピンチに陥ると言っても過言ではない。


 木の山羊達を凍らせながら三人は強引に中央突破する。この状況で異譚支配者を相手には出来ない。酷いようだけれど、他の強い面々が相手してくれる事に期待するしかない。


 まぁ、だからと言って、異譚支配者と戦えない訳では無いのだけれど。


 ひとまず考える事は、露払いをしながらアリス達との合流だ。


「少し速度を上げるわ。漏れがあったら、お願いね」


「了解です! びしびし行きます!」


「が、頑張るよ!」


 しゅしゅっと軍刀を振るシュティーフェルと、顔の下辺りで両手の拳を握り締めるサンベリーナ。


 多少戦力に不安はあるけれど、有事の際は虎の子を使えば良い。そういう事態にならない事を、祈るばかりだけれど。


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