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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■
310/489

異譚48 一番幸せな道

「断る」


 安姫女(アンジェ)のおねだりを、アリスは一刀両断に斬り捨てる。


「どうして?」


「言わなければ、分からない?」


「ええ、分からないわ。だって、わたしがこの惑星(ほし)の母になれば、世界中幸せに暮らせるのよ? 誰も彼も、皆が我が子。喧嘩すればわたしがこらって叱って、良い事をしたらよしよしって褒めてあげるの」


「それはつまり、貴女が絶対的な支配者に成る事に他ならない。そんな世界、誰も望まない」


「わたしは望むわ。だって、この世界にもう異譚支配者(わたし達)の居場所なんて無いもの」


 アリスの言葉に、安姫女(アンジェ)は光を感じさせない眼でアリスを見つめ返す。


 異譚支配者となってしまえば、この世界に居場所は無い。異譚支配者は世界の敵だ。この世界から爪弾きにされた存在。


 世界の敵たる異譚支配者を、世間は受け入れてはくれない。


「なら、わたし達が過ごしやすい世界にしようと思うのは当然でしょう?」


「何も言わず、異譚を閉じるという選択肢は無いの?」


「無いわ。だって、異譚支配者が存在する限り、異譚は閉じられないモノ。勿論、例外は存在するけどね。残念だけど、わたしはその例外じゃないの。だから、こうして異譚を広げて、わたし達の世界を作り上げるしかないの」


 アリス達が生きるためには異譚を終わらせなければならず、安姫女(アンジェ)達異譚支配者が生きるためには異譚を維持するしかない。


 互いに、互いの主張を受け入れる事は出来ない。受け入れると言う事はつまり、互いの死を意味する事に他ならないのだから。


あの人(・・・)から鍵を貰った時は、また余計な事をしてくれたって思ったけど……今はすっごく感謝してる」


 あの人が誰かは分からない。けれど、その誰かがろくでも無い事をしでかしてくれたのは確かである。


「わたし達みたいに弱い人間は、あの世界じゃろくに生きられない。弱ければ搾取されて、強い人達の食い物にされてしまう。この世界なら、そんな事は許さない。皆が弱者になれば、一方的に搾取される事は無い」


「でも、この異譚(世界)では貴女は強者」


「そうよ。でも、わたしは誰も支配はしない。皆が良い子にすれば、わたしは優しい母親で居られるの。皆が良い子に暮らせば良いだけ。皆に優しく、皆を思いやって、皆のために助け合って生きていくの。難しい話じゃないでしょ?」


「その優しさの基準を決めるのは誰? 貴女でしょ。貴女の匙加減で、『優しさ』か『厳しさ』かが決まる。それは真に優しい世界じゃない。貴女にだけ優しい世界」


「そんなの何処に行ったって変わらないじゃない。皆、自分の優しさだけが基準でしょ? 人によって優しさは変わる。それで傷付く人が居るなら、わたしが優しさの基準になるわ。そうすれば、平等でしょ?」


「残念だけれど、基準を決めたからと言って不平不満が無くなる訳では無い。だって、感じ方は人それぞれだから」


 同じ状況に陥ったとして、皆が皆同じ感想を抱く訳では無い。


 人には個性があって、差異がある。考え方も違えば、喜怒哀楽の感じ方も違う。優しさに基準を設けたところで、その者にとっては納得しかねる事だって出て来るはずだ。


「貴女のやろうとしている事は、優しさの押し付け。そんな世界、直ぐに破綻する」


「大丈夫よ。何も問題無いわ」


 アリスの辛辣な言葉に、しかし安姫女(アンジェ)はにこにこと笑みを浮かべて返す。


「優しさの最低ラインに達しない人に生きる価値は無いもの。そんな人達は全員死んで貰うわ。だって、誰のためにもならないでしょ? 優しくも無ければ、思いやりも無い。そんな人達が生きていて何になるの? 誰かを傷付けるしか出来ない。誰のためにも生きられない。そんな人達に生きる価値は無いわ」


「そう……」


 安姫女(アンジェ)の紡ぐ言葉を聞いて、アリスは気を落したように言葉を漏らす。


 異譚支配者を倒さないという選択肢は無い。それは、魔法少女としての責務だ。だが、知り合いとして、ヴォルフの先輩として、安姫女(アンジェ)と言葉を交わし、最後の別れの挨拶をする時間を作ってあげたいと思っていたのだ。


 だが、安姫女(アンジェ)は引くつもりは無いようだ。この世界を異譚で覆い、自分の理想の世界を作り上げるつもりだ。


 以前の安姫女(アンジェ)からは考えられないような思考。いったい、安姫女(アンジェ)の身に何があったのかは分からない。それも含めて、本来であれば問い質さなければいけない事なのだろう。


 けれど、もうそんな時間も余裕も無い。


「なら……私から言う事は何も無い」


 アリスは致命複合ヴォーパルコンポジット十剣(テンソード)を構える。


 異譚支配者が復活し続けるのであれば、これ以上時間を割くわけにはいかない。戦いが長引けば長引く程、アリス達の方が不利になる。


 なにより、これ以上ヴォルフをこの異譚で戦わせてはいけない。


 一秒でも早く、この異譚を終わらせる。ヴォルフが安姫女(アンジェ)と再会してしまう前に。


「大人しく、死んで欲しい」


「それは出来ないわ。わたしはね、もう嫌なの」


 安姫女(アンジェ)の姿が雲のような肉塊の山羊へと変貌する。


『子供達に悲しい思いをさせるのは、もう嫌。だから、何が何でも、この惑星(ほし)は貰うわ。こうなってしまった以上、それが一番幸せな道なのよ』


 雲山羊の多眼がアリスを見据える。


『だから、邪魔をしないで』


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