表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第2章 三本の剣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/491

異譚6 財布で荷物持ち

 瑠奈莉愛と一緒にスーパーに寄る。瑠奈莉愛はショッピングカートにカゴを乗せてから、チェシャ猫を見やる。


「……チェシャ猫さんは、ペットに入るんッスかね?」


 食品を扱うお店は基本的にペット禁止である。チェシャ猫は正体不明の喋る猫だけれど、見た目は完全に猫なので、客観的に見ればペット扱いである。


「店員さんに聞いてみる」


 アリスは視線を巡らせ、近くに店員を見付けると近寄って声をかける。


「すみません」


「はい、なんでしょ――ひぇっ!?」


 アリスが声をかければ、店員は驚いたように裏返った声を上げる。


 アリスとして外に出れば他人から驚かれるのは最早慣れているので、アリスは気にせずに訊ねる。


「チェシャ猫は出禁ですか?」


「キヒヒ。アリス、その言い方は良くないよ」


「あ、え、あ、ね、猫ちゃんですか……? えっと……ちょっと、猫ちゃんのご入店は御遠慮願えたらと……」


「チェシャ猫、ハウス」


「キヒヒ。アリス、(ぼく)の扱いが酷いね」


 にんまり笑顔で姿を消すチェシャ猫。


「お手数おかけしました」


「あ、い、いえ……」


 店員に頭を下げてから、アリスは瑠奈莉愛の元へと戻る。


「じゃあ、買い物しようか」


「はいッス」


 からからとショッピングカートを押しながら、二人は店内を練り歩く。


「アリスさんは、好きな食べ物とかはあるんッスか?」


「特に無い」


 アリスは、食事は食べられればなんでも良いと考えてしまう。特にこれといったこだわりも無ければ、月一で必ず食べると言うほどの好物も無い。


 笑良は美容と健康に適した食事。朱里は肉体を作るのに適した食事。菓子谷姉妹は甘い食べ物等々、食事にこだわりを持っている者達を見ると『面倒臭そう』と思ってしまう。


「じゃあ、適当に買うッス! あ……」


 意気揚々と食材をカゴに入れようとした瑠奈莉愛は、気まずそうな顔でアリスを見る。


「アリスさん……」


「なに?」


「いっぱい買う事になるんッスけど……」


 申し訳なさそうに言う瑠奈莉愛。その後に言葉は続かなかったけれど、目は『買って良いッスか?』と訴えかけてきている。


「構わない」


「あ、ありがとうございますッス……」


 ご馳走するつもりが奢ってもらう事になってしまったので、気まずそうに瑠奈莉愛は食材をカゴに入れていく。


 幾ら相手がお金を持っているからと言って、奢ってもらう事に対して申し訳なく思ってしまう。


 が、それはそれとして、瑠奈莉愛にも多くの食材を必要とする理由がある。


 食材を吟味する瑠奈莉愛を見つつ、アリスはからからとカートを押す。


 暫く会話も無く店内を練り歩いた後、上下にたんまりと食材の乗ったカートをレジへと運ぶ。


 お会計の際にアリスがポケットからお札を取り出すと、瑠奈莉愛も店員さんも少しだけ微妙そうな顔をした。


 マイバッグを持参していた瑠奈莉愛がバッグに食材を詰めた後、そのバッグをアリスが軽々と持ち上げてさっさと歩いて行ってしまったので、瑠奈莉愛は慌ててアリスの後を追う。


「あの、申し訳ないッス。自分も持つッス!」


「良い。魔法少女の身体なら、これくらい重くもなんとも無いから」


 魔法少女に変身をすると、個人差は在るけれど身体能力が向上する。食材が一杯入ったバッグを持つなどおちゃのこさいさいだ。


「キヒヒ。財布で荷物持ちだなんて、出世したねアリス」


 いつの間にかアリスの頭の上に乗っかっていたチェシャ猫が、面白がりながらアリスに言う。


「あ、あわわわっ、そ、そんなつもりじゃ……!」


「気にしなくて良い。チェシャ猫は戯言が九割だから」


 大慌ての瑠奈莉愛だけれど、当の本人はまったくもって気にしていない。チェシャ猫の戯言は今に始まった事ではないし、アリスを馬鹿にしているというよりも瑠奈莉愛の反応を見て楽しんでいるだけなのだ。


 あうあうと狼狽える瑠奈莉愛をチェシャ猫が楽しそうに眺めている間に、どうやら目的地に到着したらしく、瑠奈莉愛が慌てて話題を変えるようにそれを指差す。


「あ、つ、着いたッス! ここが自分()ッス!」


「ここが……」


 瑠奈莉愛の指差す家を見やるアリス。そこには、お世辞にも綺麗とは言い難い、ともすれば人の代わりに幽霊でも住んでいるのではないかと思われる程におんぼろな平屋が建っていた。


「キヒヒ。ぼろぼろだね」


「こら」


 思慮の欠片も無い言葉を諫めようとするアリスだったけれど、それより先に瑠奈莉愛がたははと笑ってチェシャ猫に言う。


「よく言われるッス。ささ、どーぞ入ってくださいッス! 狭いところできょーしゅくッスけど」


 アリスに入るように促しながら、がたがたと建付けの悪い引き戸を引く瑠奈莉愛。


 家の中も外観と違わずおんぼろであり、何度か張り替えたのか床の色が違う所が幾つか見受けられる。


「ただいまッスー! ねーちゃんが帰ったッスよー!」


 家に入るなり瑠奈莉愛が声を上げれば、どったどったと荒い足音と共に子供達が顔を出す。


「ねーちゃんお帰りー!」


「おかーり、ねーちゃ!」


「おー! ただいまッス~! 良い子にしてたッスか~?」


 幼児達が瑠奈莉愛に抱き着き、瑠奈莉愛も満面の笑みを浮かべて抱き上げる。


「お帰り姉貴……って、アリス!? うわっ、すげっ! 本物だ本物!」


「わー、アリスだー!」


「すごぉーい! かわいいー!」


 幼児達の後から来た小学校高学年から中学生くらいの歳の子達がアリスを見て興奮したように声を上げる。


 どったどったと驚くほどに子供が出てきて、アリスが少しだけ驚いたように眉を上げる。


 出て来た子供達は全部で七人。


「……託児所?」


「自宅ッス! 自分、八人姉弟の長女ッス!」


「キヒヒ。大家族だね」


「にゃんにゃー!」


「ねこー!」


 アリスの頭に乗ったチェシャ猫を見て、幼児達が興奮したように声を上げる。


「はいはい、お姉ちゃん達が上がれないッスよ。皆居間に戻るッス!」


 瑠奈莉愛の言葉に、妹弟達は『はーい』と返事をしながら居間へと戻っていく。


 が、一番小さい子だけはジッとチェシャ猫を見ていた。


「チェシャ猫」


「キヒヒ。仕方ないなぁ」


 チェシャ猫はアリスの頭から降りると、とってとってと歩いて子供達について行く。そんなチェシャ猫を、一番小さい子がよたよたと追いかける。


「アリスさんは料理が出来るまで居間で待ってて欲しいッス! なんも無い(ウチ)ッスけど、寛いで欲しいッス!」


「分かった」


 靴を脱いで家に上がり、アリスも居間へと向かう。


 居間は畳張りの床になっており、真ん中に大きめのちゃぶ台が置いてある以外、特に物の置いてない部屋だった。


 ただ、子供達のランドセルや教材などは散らばっており、まったく生活感が無い訳ではなかった。むしろ、生活感だけで言えば、アリスの部屋よりもあるだろう。


 子供達にもみくちゃにされているチェシャ猫を横目に、アリスはちゃぶ台の前にちょこんと座る。


 そんなアリスを、高学年の子供達がじっと興味深そうに見やる。


「なぁ、本物だぜ。握手とか、サインとか貰えないかな?」


「無理じゃない? アリスのサインとか、見た事無いよ」


「じゃあ握手はいけるかな?」


「塩対応のアリスが握手なんてする訳無いよ」


 ぽそぽそと本人に聞こえていないと思っているのか、内緒話をする子供達。


依溜(える)~、ちょっと手伝って欲しいッス~!」


「あ、はーい!」


 依溜と呼ばれた少女は台所から瑠奈莉愛に呼ばれて立ち上がる。


「あ、こら虹空(にあ)! 猫食べちゃ駄目だって! ぺっしなさい! ぺっ!」


或叶(あると)! 猫ちゃんの毛引っ張っちゃ駄目! いたいいたいでしょ!」


「キヒヒ。助けて、アリス」


 幼児達に弄ばれているチェシャ猫を見て、アリスは少しだけ口角を上げるだけでチェシャ猫からの救援を無視する。


「ぎゃー!? 姉ちゃん、また床が抜けたー!」


 悲鳴と共に聞こえて来たバキッという嫌な音。言葉の通り、床が抜けたのだろう。


「はぁ!? 今月何回目ッスか!? いつの間にそんなにおデブったんッスか!」


「ちょっ、姉ちゃんサイテー! 太って無いしー!」


 廊下の誰かと壁越しに瑠奈莉愛が言い合う。


 まだ少ししか家の様子を見ていないけれど、瑠奈莉愛が魔法少女になった理由が少しだけ分かった気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ