表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女異譚【書籍化決定】  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

306/499

異譚44 復活

 上空から異譚を俯瞰し、この異譚を構成する異譚支配者を捜すアリス。ある程度上空に留まっていても、アシェンプテルが居るため正確に索敵する事が出来る。


「どう?」


「……だめ~。上手く隠れてるみたい~」


「そう」


 異譚支配者はあまり隠れる事は無い。


 多くの異譚支配者は真っ向から絶大な力を保有しているので、隠れる必要が無い。例外は居るけれど、異譚侵度が高ければ高い程その傾向は顕著である。


 今回の異譚侵度はA。これくらいの異譚になれば、異譚支配者は隠れる必要が無いくらいの実力は持ち合わせているはずだ。その異譚支配者が魔力を抑えて隠れていると言う事は、何か表に出ない、あるいは出られない理由があるはずだ。


「ロデスコが居れば……」


「ロデスコちゃん? 索敵は得意じゃないと思うけど~……」


「森を全部燃やせるのに」


「そんな放火魔的な理由で~!? と言うか、それだとアリスちゃんでも全然出来るよね~!?」


「私は放火したくない」


「ロデスコちゃんだって嫌だと思うけど~!?」


 珍しく冗談を言うアリスに律義にツッコミを入れるアシェンプテル。


「冗談。そんな凶行は取れない」


「うんうん。そうだよね~。まだ生き残ってる人が居るかもしれないからね~」


 心にも無い事、とまでは言わないけれど、アシェンプテルの言葉は気休めである。正直もう一般人の生き残りは居ない可能性の方が高いと言う事は、二人共分かっている事だ。


 あれだけの大行進。森中練り歩いてなお、常人が生きているなんて可能性は殆ど皆無と言って良い。


 分かっていても、思っていても言葉にはしない。それは、魔法少女が言ってはいけない事だから。


「また間引きながら捜してみる~?」


「そうする」


 アシェンプテルの提案に頷き、アリスが高度を落そうとした、その時――





 いっぱい死んじゃった。いっぱい死んじゃった。


 あの子も、あの子も、あの子も、死んじゃった。死んじゃった。


 でも、でもでも、大丈夫。大丈夫。


 私の世界だから。私の、私達の世界だから。大丈夫。産み直す。産み直す。


 何度死んでも、何度消えても。もう、家族を失わない。もう、家族を奪わせない。


 さぁ、もう一度、産声を上げて。





 ――世界が、産声を上げる。


「「――ッ!!」」


 異譚内部の魔力が高まり、大地が揺れる。大地の震動は音を上げ、木々のみならず空間をも揺らす。


「な、なにこれ~!?」


「分からない。けど……!」


 良くない事が起こっている事は確かである。


 アリスはいつでも対応出来るように、致命複合ヴォーパルコンポジット十剣(テンソード)を手に持つ。


 アリスの準備が整うと同時に、その異変は二人の目前に現れた。


 突如として地面に亀裂が走る。


 亀裂は異譚の三分の一程の長さまで広がり、徐々に何かに押し広げられるように穴が広がる。亀裂からは身も凍る程の暴風が吹きすさぶ。


そして、亀裂の中からそれは姿を現す。


 亀裂から二本の腕が伸びる。伸びた腕はジタバタともがきながら亀裂を広げ、地面に手を置いて亀裂の中から出てこようとする。


「――ッ! まさか!!」


 慌てて、アリスは亀裂の元へと向かおうとする。


 だが、亀裂から引き出た暴風に煽られて上手く前に進めない。それに、背負っているアシェンプテルの事を考えると、強引に前に進む事は難しい。だからと言ってアシェンプテルを下ろしている時間も無ければ、戦闘力の無いアシェンプテルを一人にするわけにもいかない。


 アリスがもたついている間にも、暴風の助けもあってかその者は、腕、頭、胴体、脚と、ずるずると亀裂から這い出てくる。


「え、嘘……」


 完全に這い出して来たその者を見て、アシェンプテルは言葉を失う。


 それは、天を衝くほどの途方も無い巨人だった。


 そう。アリスが倒したはずの、途方も無い巨人がどういう訳か再度姿を現したのだ。


「天丼は勘弁して……!」


 辟易したようにアリスは愚痴を漏らす。


 アリス・エンシェントで使う致命の大剣(ヴォーパルソード)であれば余裕をもって倒す事が出来る。


 だが逆に言えば、無限の魔力を使った致命の大剣(ヴォーパルソード)を使わないと余裕を持つ事が出来ないと言う事だ。


 今この異譚に居る面々で途方も無い巨人に確実に勝てる者はアリス以外に居ない。ロデスコやアーサーでも居れば違うのだろうけれど、無い者強請りをしても仕方が無い。


 アリスは即座にアリス・エンシェントへと姿を変える、暴風吹きすさぶ中途方も無い巨人目掛けて飛んで行く。


 上空に飛び上がって再度致命の大剣(ヴォーパルソード)を撃ち込もうとするアリスだけれど、途方も無い巨人は即座にアリスを捕捉する。


 途方も無い巨人はアリスに向けて腕を伸ばす。ただ伸ばしただけでは無い。その行動には、先程までは無かった確かな害意があった。


 だが、どれほど敵意に塗れていようとも、途方も無い巨人の伸ばす腕を躱すのは容易い。アリスは途方も無い巨人が伸ばした腕をするりと除け、上空へと飛び上がる。


 腕を躱された途方も無い巨人だけれど、そのまま何もせずに諦める訳では無かった。


 触れれば凍傷になるほどの凍てつく風が下から上へと吹き上がる。


「――ッ!!」


「任せて~!!」


 アリスが何も言わずとも、アシェンプテルは補助魔法で自分達の周囲に目に見えない防護壁を展開する。


 凍てつく風は防げるけれど、暴風に煽られて上空で体勢を崩してしまう。


 下から上へと吹きすさぶ暴風。だが、それは一方通行では無かった。右から左、左から右、上から下、右斜め上から左斜め下。少し移動しただけで風の方向が変わる。


「これは……!!」


 少し移動しただけで風の向きが変わる。この現象に、アリスは憶えがあった。


 異譚侵度S。風の異譚支配者が支配していた時に異譚内部で起こっていた現象と同じである。


 縦横無尽に吹きすさぶ凍てつく風。その規模は徐々に徐々に広がっていく。


「面倒になる前に倒す……!!」


 凍てつく風が異譚全体に広がれば、それだけで魔法少女側は動きづらくなる。


 そうなる前に、確実に倒せるアリスがこの巨人を倒さなければいけない。


 吹きすさぶ暴風の中、アリスは無理矢理に進んでいく。


 アリスは目の前の敵に集中している。アシェンプテルもアリスの補助をしようと集中する。


 だから、気付かない。


 復活したのが途方も無い巨人だけでは無い事に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ