異譚40 自己紹介すゆよ~!
「それじゃあ自己紹介すゆよ~!」
銃口を突き付けられながらも笑顔を振りまき、仲間を紹介すべくイェーガー達から離れる真弓。
「即席チームなんだし、呼び名だけで良いだろ」
「え~? そんな寂しい事言わないれ~!」
少し離れた位置で立っていた四人を紹介するように変なポーズを取って四人に注目するように促す。
「時間がねぇんだよ」
イェーガーは立ち上がり、真弓を無視して異譚の方へと歩き出す。
そこそこ時間を消費してしまった。ある程度魔力も戻って来たので、これ以上此処に長居する理由は無い。
「救助で一番の敵は時間だろ。なら、ちんたらしてねぇでとっととついて来い」
両手にショットガンを持ち、即座に臨戦態勢を整えるイェーガー。
「あたしはイェーガー。指示があればそう呼べ」
イェーガーに続いて、ヘンゼルとグレーテル、ヴォルフが立ち上がって異譚へと向かう。
「唯はヘンゼル」
「一はグレーテル」
「自分はヴォルフッス!」
ヘンゼルとグレーテルは「びーす」と言いながらピースサインをし、ヴォルフは礼儀正しくぺこりとお辞儀をしてからイェーガーの後を追う。
「にぇ~!? もっとちゃんと自己紹介しよ~よ~!」
「いや、彼女……イェーガーの言う通りだね」
「時間無いし、呑気に自己紹介してる時間は無いぞ」
「救助は時間との勝負。うんうん、正論過ぎてぐうの音も出ないわね」
「せやね~」
真弓の仲間達もイェーガーの言葉に賛同を示しながら、異譚の方へと歩き出す。
「にぇ~!? じゃ、じゃあ、歩きながらしよ~? にぇ? にぇ? 良いでしょ~?」」
悲しそうに眉尻を下げながらも、とととっと皆を追う真弓。
真弓はイェーガーの隣に並び、後ろ向きに進みながらチームのメンバーを紹介する。
「一番でっけぇショートカットの子がりぃちゃん!」
「おいでっけぇ言うな。というか、渾名で紹介するんじゃない」
でっけぇと言われて眉間に皺を寄せる一番背の高いショートカットの少女――りぃちゃん。
「りぃちゃんは一等星だよ!」
「いや聞け」
星の魔法少女にも魔法少女としての等級がある。花の魔法少女であれば芽、蕾、花と等級が上がる。
星の魔法少女であれば三等星、二等星、一等星、星座となる。花の魔法少女よりも等級の数は多いけれど、花の魔法少女とは違い三等星からスタートする者も居れば、二等星からスタートする者も居る。
ただ、蕾から花になるのが難しいように、一等星から星座まで上がるのは難しい。それでも、一等星になるのにも並々ならぬ努力と経験が必要だ。星座に届いていないとはいえ、その実力は折り紙付きだ。総合力で見ればヴォルフよりも上で、ヘンゼルとグレーテルと同等の実力を持っている。
「うちで一番いけめぇんなそよぷー! 一等星でーす!」
「イケメンかどうかは分からないけど、そよぷーです。ま、本名は追々、ね」
真弓いわく、チーム一のイケメン少女――そよぶー。
「一番巨乳! 羨まぴーなまーぴー! 実力の方も一等星~!」
「ねぇ恥ずかしい事言わんで!? こっちは気にしてるんだから!」
恥ずかしそうに胸元を隠す巨乳少女――まーぴー。
「関西のおっとりお姉ちゃん! せりりん! これまた一等星~!」
「よろしくな~」
おっとりとした声音の関西弁の少女――せりりん。
「以上! チームまゆぴーのメンバーだよ~! あ、まゆぴーの事は、まゆぴーって呼んでにぇ?」
「もう異譚に入る。ちゃんと前向け」
「ドライ! イェーガーちゃんドララライだよ~!」
ひーんと泣き真似しながらも、しっかりと前を向いてその手に弓を持つ真弓。
森の中でも取り回しやすいような短弓。だが、シンプルな構造では無く、ゴテゴテとした構造のコンポジットボウである。
「そっちなんだな」
「うぃ! こっちのがかっちょいいかやね~!」
見せびらかすようにイェーガーにコンポジットボウを見せる真弓。
イェーガー達のように武器を使う魔法少女は、現代的な物を極力使わない事が多い。現代的な物は結果を想像しやすく、また物理法則を逸脱しないと言う事実に囚われやすい。
魔法はイメージだ。魔法少女にとって事実とは厄介な固定観念であり、その固定観念に囚われてしまうと魔法の威力も自由度も劇的に減衰する。
だからこそ、固定観念の薄い古めの武器や実際には存在しない物を武器として選ぶ者が多い。イェーガーであればアンティーク調の銃。ヘンゼルとグレーテルであれば巨大なお菓子。
アンティークの銃で精密射撃は難しいし、お菓子で空を飛んだり、お菓子が爆発するなんて事は無い。
だが、本来では在り得ない事象を引き起こすのが魔法である。
例えそれが不可能であったとしても、魔法であれば可能にする事が出来る。
まあ、要するに自分が一番イメージしやすい武器を使うのが一番なのだ。自分が想像力を働かせられて、自分の力を最大限引き出せる武器。そう考えた時に現代の武器は結果を知っているがためにイメージがしづらいという話だ。
他の魔法少女であれば出来るだけ装飾を付けたゴテゴテした武器を使ったりして、現実に寄らないようにしている事の方が多い。
そんな中、真弓が現実的なコンポジットボウを使っているのは意外感がある。見た目がド派手なふりふりゴスロリであるだけに、尚更である。
「イェーガーちゃんのもかっちょいいにぇ! ソードオフショットガンだしょ? しかもすいへー二連式! しび~!」
「敵の核の位置がバラバラだからな。一発で倒すってなったら散弾が一番手っ取り早い」
「分かゆ! まゆぴーもねしゅばばばぶわー! って矢を撃ち込んでたよ!」
「見てたから知ってるよ。でもあれ効率悪ぃだろ。一本の威力十分なんだから、数とサイズ抑えろよ」
「にぇ~? でもでも、貫通力あゆよ~?」
「それで無駄に消耗してたら意味ねぇだろ。貫通力だったら一回撃ってたどでかいので十分だろ。あれなら、雑魚でも核でも張り合えんだし」
「あれ魔力消費おっきいよ~! そんなぽんぽこ撃てないにぇ~!」
「じゃあやっぱり調整しろよ。ここぞで確実にどでけぇ一本撃てるようじゃねぇと困るんだよ」
先頭を歩きながら、イェーガーと真弓は互いの戦術の調整やすり合わせを行う。
しっかりとすり合わせを行っているイェーガーを見て、星の魔法少女達は意外感を覚える。
先程は人を煽るような発言をしていたし、童話、星、花の間では確執とまでは言わないけれど、明確な壁がある。真弓達は別段そこに拘りは無いので、誰とでもしっかりとコミュニケーションを取れるけれど、イェーガーが童話以外の魔法少女に対して当たりが強いと言うのは有名な話ではある。
何せ、数は少ないが精鋭揃いの童話の魔法少女だ。しっかりと功績も上げているので、よく話題にも上がる。
だが、今のイェーガーは噂で聞いていたよりも冷静に物事の判断が出来ている。口は悪いけれど、しっかりと戦うための要望を伝えている。
失礼だが、意思の疎通に難儀しそうだなと思っていたけれど、今の様子を見る限りその心配は無いように思えた。
だが、実際に一つのチームとして戦えばどうなるかは分からない。安心して全てを任せるのではなく、個々がしっかりと己の役割を自覚して行動すべきだろう。




