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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■
301/489

異譚39 矢羽々真弓

 アリスの言葉には素直に従い、人々は従順に避難を行っている。


 不貞腐れたように座り、頼んでおいた野戦食糧(レーション)を食べるイェーガー。適当なところに座って、異譚の方にしっかりと注意を払いながらも、魔力を回復させるために肩の力を抜く。


 ヘンゼルとグレーテルやヴォルフも同じように座り、微妙な味わいの野戦食糧(レーション)をバクバクと食べている。


 野戦食糧(レーション)を食べながら、遠くなっていく人々の背中に一度視線をやる。


 誰がなんと言おうともパニックから抜け出せなかった人々が、アリスの言葉には素直に従った。


 別に、自分の言葉に従って欲しい訳では無い。あんな言葉で誰かが従うだなんてはなから思ってもいなければ、自分の言葉に影響力があるとも思ってはいない。それに、自分は言いたい事を言っただけだ。


 自分達の出来る事をしないで、ただ文句を言って、まだ何も終わっていないのにぎゃーぎゃー騒ぎ立てる。周りには死にそうになってる人が居るのに、自分の事しか見ていない馬鹿な連中。少し横を見れば、そんな事をしている場合では無いと気付けたはずなのに。そんな姿に無性に苛立ちを覚えた。


ただ、イェーガーは自分の性分を理解している。他の魔法少女のように諭す事も出来なければ、自分を押し殺して職務を全うする事だって出来ない。


 アリスのような英雄という実績も無ければ、広報活動をして名が知れている訳でも無い。


 どうしたって、イェーガーには取り繕ったような言葉は出せない。取り繕い(そんな事)をしている場合では無いのだから。


 だから、想いのままに言葉を吐いた。無意味に噛み付いて来るなら、それ相応の態度と言葉で返す。噛み付いて来た事を後悔させる程の正論をぶつけてやる。


 だって、こっちは命を懸けて助けているのだ。どうでも良いぼんくら(・・・・)共のために命を懸けているのだ。その仕打ちがあの態度であるのならば、こちらが譲歩する理由は一つだってありはしない。


 それが、その場の対応として間違えていると分かっていても、イェーガーには止められなかったのだ。


「ふぅ……」


 野戦食糧(レーション)を食べ終わり、一息付く。


 相当魔力と体力を消費していたのか、袋の中身を全て食べ終えてしまった。


「ヴォルフ。甘いの食うか?」


 ただ、糖分補給用のソフトキャンディは食べなかった。フルーツ等のさっぱりした甘さであればイェーガーも食べるのだけれど、こういうべっとりとした甘さの物は苦手なのだ。


 というのは建前だ。魔力の回復もそうだけれど、頭を働かせるには適量の糖分も必要だ。常であれば自分で食べるけれど、ヴォルフも相当に消費している。まだ家族が見つかっていないという事もあって、体力面だけでは無く精神面においても消耗しているはずだ。


 イェーガーなりに気を遣ってヴォルフにお菓子を譲ろうとしているのだ。


「い、いいんッスか?」


「ああ。あたし甘いの苦手だし」


 ぶっきらぼうに見せながら、イェーガーはヴォルフにソフトキャンディの入った袋を投げ渡す。


「ありがとうございますッス! いただくッス!」


 イェーガーからソフトキャンディを受け取ったヴォルフは、袋を開けてソフトキャンディをばくばく食べる。ヘンゼルとグレーテルはその様子を羨ましそうに眺めるけれど、後輩に強請(ねだ)る程卑しくはない。


「しっかし、どうすっか……」


「「何が?」」


「今戻ったところで、あの山羊の群れの相手をしなくちゃなんねぇ。核を倒さなくちゃなんねぇのにあの数の雑魚を相手にすんのはクソ(だり)ぃ。アリスが削ってるつっても、限度があるしな」


「それに、数も見えないしにぇ~」


 イェーガーの言葉に返したのは、ヘンゼルとグレーテルやヴォルフでは無く、四人の頭上に立つ(・・・・・)人物だった。


 四人は揃って自分達の頭上を見上げる。四人が背もたれの代わりに使っているブロック塀の上に立つ一人の少女。


 ブロック塀の上に立っている少女は、先程一緒に戦った星の魔法少女だった。


 ブロック塀の上に立つ星の魔法少女は、にこっと輝かしい笑顔でイェーガー達を見下ろしていた。


「ぴょうっ!」


 変な掛け声共にブロック塀の上から飛び降りる星の魔法少女。


 くるりと空中で回転し、華麗に地面に着地する。


「はじめましてこんばんにゃ~! 星の魔法少女・射手座の矢羽々(やはば)真弓(まゆみ)だにょ! よおしくね~!」


 四人の前に着地した星の魔法少女――矢羽々真弓はアイドルのように輝かしい笑顔ではじめましての挨拶をする。


「ああ、うん」


「よろ」


「しく」


「よろしくッス!」


 イェーガーは適当に答え、ヘンゼルとグレーテル手を上げて返し、ヴォルフは元気良く返した。


「にふふ! よおしくね! それと、さっきはあいあとにぇ~! すっごい助かったよ~!」


 お礼を言いながら、真弓はイェーガー達の真ん前まで歩き、一人一人手を握ってお礼を言う。


 ふわふわとした声と喋り方。同じようにふわふわとウェーブのかかった髪に、柔らかく優しいけれど眩い程に輝かしい笑顔。


 彼女は詩と同じように魔法少女として活動しながらもアイドルとして活躍している『魔法少女アイドル』である。


 歌やダンスのセンスもあり、ふんわり不思議な雰囲気の虜になる者が多い。


「んで、何?」


 だが、イェーガーにはその笑顔も対応も通用しない。興味関心も無く、面倒臭そうに訊ねる。


「そうそう! あんにぇ、まゆぴー(・・・・)達と一緒に戦わにゃい? 手数が足りにゃいのはお互い様だし、協力しあえたら異譚支配者を倒すのも楽だと思うんにぇ。ど? ど? どー?」


 イェーガーの前に座り込んでずいずいと詰め寄る真弓。


 イェーガーは煩わしそうに真弓の額に短銃を突き付けて押し戻しながら、真弓の提案についての是非を考える。


 実際のところ、イェーガー達だけでは手数が足りないのは事実。先程の戦いで消耗もしているし、一応は互いの戦い方は知っている。


 感情論で言えば童話以外の奴の手を借りるのは癪に障る。こちらが手を貸すのは気分が良いが、その逆は自分が劣っているようで気分が悪い。


 それに、増援を頼むのであれば対策軍で控えている白奈やみのりを呼びつけた方が良い。同じ童話の魔法少女で互いの戦い方を良く知っているので連携も取りやすい。


 だが、そんな事を言っている場合では無い。ヘンゼルとグレーテルやヴォルフの家族の安否は不明なのだ。ヘンゼルとグレーテルのお婆さんとは出会えたけれど、無事に異譚から脱出出来ているかは分からない。気丈に振舞っていようとも、内心ではずっと不安と焦燥に駆られているはずだ。


「……分かった。協同(・・)って事で。よろしく」


「うぃ! あいあと~! 一緒に頑張ろにぇ~!」


 イェーガーが頷けば、真弓は嬉しそうに声を上げる。


 なお、その間もずっと銃口は突き付けたままなのだけれど、真弓は一切気にしている様子は無い。


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