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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■

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異譚37 避難完了

 木の山羊の群れの数を減らしながら、イェーガー達は徐々に戦線を下げていく。


「クソッ。全然減った気しねぇ……ッ!!」


「激しく」


「同感」


 イェーガーだけでも優に百体は倒したはずだ。それなのに、数は一向に減る事が無い。むしろ、時が経つごとに増えているような気さえする。それくらい、数の圧が消えないのだ。


「息が詰まりそうッス! てか詰まってるッス!!」


 木々を薙ぎ倒し、木の山羊の侵攻の邪魔をするヴォルフ。範囲攻撃を持っていないヴォルフは少しずつでしか数を減らせない。


 一瞬も気を緩められない、息が詰まる程の緊張感。


 全員が必死に戦い、必死に数を減らす。


 だが、その時、全員の目に見たくないモノ(・・)が飛び込んでくる。


 じりじりと戦線を下げているその時、足元に何かが転がっている事に気付いた。


「――ッ」


 イェーガーは一瞬足元のモノに視線を取られるけれど、直ぐに視線を敵へ戻す。


 全員が気付いた。全員がその目にソレを捉えた。


 そこら中に転がるのは無残に傷付けられた人間の死体。


 一般人、魔法少女、男、女、大人、子供。関係無く踏み(にじ)られ、無残にうち捨てられている。


周囲には人間の死体だけでは無く、木の山羊の死体も散見出来る。イェーガー達が抑えている木の山羊の群れ以外にも、別の方向から来た木の山羊の群れに襲撃されたのだろう。


「全員、背後も気ぃ付けろ! 挟み撃ちにされたら洒落になんねぇぞ!」


 終わりが見えない木の山羊の群れと相対しているイェーガー達とは違い、恐らく数の底が見える群れと接敵したのだろう。


「ヴォルフ! 後ろの音聞こえるか!?」


「聞こえてるッス! こっちよりは少ないッス!」


 ヴォルフの耳は背後から聞こえてくる戦闘音を捉えているけれど、こちらよりも圧倒的に敵の数が少ない。それでも、十分に脅威足りえる数である。人を護りながらとなれば尚更だ。


 こちらより少ないのであれば、このまま相手の勢いを抑える事に徹した方が良いだろう。


 だが、思った以上に死体の数が多い。この敵の数では全員を護り切る事は不可能なのは分かっているけれど、それにしたって数が多い。もうすでに、護り切れていない可能性も出て来ている。


「っそ……!!」


 戦線を下げて合流したとしても、一般人の逃げる速度など高が知れている。合流してイェーガー達が足止めに加わったところで、その場に押し留める事は不可能だ。今のように、戦線を下げながら戦う他無い。そうなれば、避難をしている一般人の元まで戦線が下がるのは時間の問題だ。


 ヘンゼルとグレーテルだけでも一度向こうに合流して貰って、少しでも数を減らした方が良いかもしれない。そうすれば、避難の脚も早くなるはずだ。いや、どのみち自分の脚で歩くしかないのだ。最高速度は変わらない。


 間引けば安全にはなるけれど、ヘンゼルとグレーテルが抜ければこちらの下がる速度も速くなる。この場にはヘンゼルとグレーテルしか自由自在に(・・・・・)絨毯爆撃が出来る魔法少女はいない。現状、多数の間引きは二人に頼るしか無いのだ。頼みの綱の二人が一時的であったとしても抜けてしまうのは大きな痛手だ。


 かといって、イェーガーも抜ける訳にもいかない。代理とは言え一応はリーダーだ。この戦線から離れる訳にはいかない。


 イェーガーが判断に苦慮しているその時、衝撃波を伴う暴風に襲われる。


「――ッ!! 致命の大剣(ヴォーパルソード)か!?」


「「致命の大剣(ヴォーパルソード)――――――!!」」


 イェーガーの言葉に、風にあおられながら空を飛ぶヘンゼルとグレーテルが答える。


 衝撃波の伴う暴風を出せる者など限られているので下手人など確認しなくても分かる事ではある。今回のメンバーで言えば、それが可能なのはアリス以外に居ない。


 暴風に煽られ、木々が揺れるけれど、木の山羊達にとっては大した風では無い。変わらず、人を害するために前に進む。


 風に乗って吹き飛んでくれれば良いものをとは思うけれど、そうなってしまえば魔法少女である自分達は平気でも一般人が耐えられずに吹き飛んでしまう。


 数秒。もしくは数十秒。


 随分と長く放たれた致命の極光の余波に苛まれながら、何とか全員戦闘を続ける。


 致命の極光の余波が止んだところで、戦況が一変する事も無く、イェーガー達は戦線を下げなら木の山羊達の群れの数を減らす。


「――っ! イェーガー先輩! 避難完了したっぽいッス!!」


 そうして、ヴォルフの報告によって一時間以上に渡る遅延戦闘にようやっと終止符が打たれる。


「全員撤退!! 全速力で走れ!!」


 イェーガーの命令の直後、全員が踵を返して全力で走りだす。


 走りながらイェーガーは上空に短銃を向ける。迷いなく引き金を引けば、短銃からは空色の照明弾が放たれる。


 見ているかどうかは分からない。これだけ木々が生い茂っていれば、見えない可能性も十分にある。


 だが、見えなくとも音は届くはずだ。


 空色の照明弾は放たれた瞬間から、ひゅうっと甲高い音を上げている。そして、天高く伸びきった後、轟音と共に空に大輪の花を咲かせる。


 異譚に不釣り合いに咲いた花は夏の風物詩――花火である。


「来いよ天使(英雄)。仕事の時間だ」


 花火が上がって数秒後――


「あっぶね!?」


 ――イェーガー達の背後に致命の極光が落ちる。


 威力の落とされた致命の極光。経験則で言えば、恐らく致命複合ヴォーパルコンポジット五剣(ファイブソード)だろう。


 五剣とは言え、致命の極光が直ぐ傍を直撃すればその余波は無防備なイェーガー達の身体を軽々吹き飛ばしてしまう。


 ふわりと浮いた身体を空中で制動し、何とか着地してから即座に走り出す。


 致命の極光が落ちた地点にアリスが降り立つ。


 イェーガーの予想通り五剣を両手に持っているけれど、それを確認している暇はイェーガー達には無い。


「……数が多い」


「そうね~」


 アリスの背中にぴったりくっつきながら、アシェンプテルが頷く。


「ちょっと、手荒くやる」


 両手に持った五剣を振り、致命の極光を乱発する。


「おー、こえ~」


 一度だけ背後を振り返り、致命の極光を乱発するアリスを見てぽつりとこぼす。


 致命の極光に呑まれて消し炭になる木の山羊の群れを確認した後、イェーガーは振り返る事無く走り続ける。


 本当であればアリスと一緒に戦うべきだろうけれど、木の山羊の群れが避難する人達を追って異譚の外に出ているかもしれない。予備戦力は展開されているだろうけれど、一騎当千のアリスを手伝うよりも、そちらを手伝った方が良い。


 本音を言えばアリスと一緒に戦いたいけれど、アリスからの評価が下がるような事はしたくない。


 普段の態度が悪いだけに、こういうところで点数を稼がなければいけないのだから。


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