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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■
298/489

異譚36 死んじゃった

 アシェンプテルを背負い、空を駆け抜けるアリス。


 途方も無い巨人の周囲では下から上に向かって風が吹き上がっている。


 アリスのような魔法少女であればその風に巻き上げられる事は無いけれど、一般人であればそうはいかない。


 風に巻き上げられ、身の凍える程の極寒の上空へと投げ出される。巻き上げられる風によって極寒の上空に留められる。常人に、逃れる術は無い。よしんば逃れられたとして、先程アリス達の目の前で起こったように、雨のように上空から地面に叩き付けられるのが落ちである。


 巻き上げられればそれで終わり。生きて帰る事は出来ない。どうあれ(・・・・)、生き残れない。


 だがそれは、魔法少女が居なければの話だ。


 アリスは上空に投げ出された人達を助けるべく、幾つもの大きな鳥を生み出す。


 大きな鳥は空に投げ出された人達を掴み、風をかき分け(・・・・・・)て地上へ向かう。


 途方も無い巨人は、周囲に巻き上げられた人達が地上に運ばれるのを見てから、空を飛ぶアリスに視線をやる。


 遠目には見えていたけれど、此処で初めてアリスは途方も無い巨人の全容を把握する。


 その姿は途方も無く巨大だけれど、輪郭は人に酷似している。ただ、その巨大さも含めて、人とは決定的な差異がある。


 戯画化されたような顔には鮮紅色(せんこうしょく)に輝く双眸に、水掻きの付いた足で地面を踏みしめている。


「最初から本気で行かせて貰う」


 即座に、アリスはその姿を変える。


 髪は黒く短く、肌は焼けたような褐色へ。空色のエプロンドレスは白色と見紛う程に薄くなり、袖が無くなった代わりに腕には黄金に煌めくバングルがはめ込まれる。


 黄金と宝飾の込められた髪飾りと襟飾り。左目の下まぶたから黒い線が伸び、その少し横から先の丸まった黒い線が伸びる。


 アリス・エンシェント。致命の大剣(ヴォーパルソード)を無限に撃ち続ける事が出来る、反則的な力を持つ姿である。


「ほえ~、これがアリス・エンシェントちゃんね~。生で初めて見た~!」


 アリスの背後で呑気に場違いな感想を述べるアシェンプテルを無視して、アリスは途方も無い巨人よりも上へ高度を上げる。風に巻き上げられているので、高度を上げるのは簡単である。


 途方も無い巨人はアリスを見やりはするけれど、特にこれといって攻撃をしてくる訳では無かった。


 その様子に違和感を覚えながらも、アリスは致命の大剣(ヴォーパルソード)を振り上げる。


「はぁッ!!」


 即座に、躊躇い無く、アリスは致命の大剣(ヴォーパルソード)を振り下ろした。


 途方も無い巨人の真上から致命の極光を浴びせる。


 致命の極光が直撃するまで、途方も無い巨人は動く事は無かった。だが、致命の極光を浴びて、慌てたように手足をばたつかせる。


「……? なんか、おかしい気が……」


 その様子を見ていたアシェンプテルがぼそりと呟く。


 アシェンプテルの呟きにはアリスも同意だけれど、相手は異譚支配者だ。倒す以外の選択肢は無い。


 アリスは止める事無く、致命の極光を浴びせ続ける。


 途方も無い巨人はアリスの致命の極光を止めようと、じたばたさせていた手を致命の極光を遮るように伸ばす。


 手のひらで致命の極光を止めようとする。通常形態のアリスが放つ致命の極光であればダメージを負いながらも防ぐ事は出来ただろう。


だが、アリス・エンシェントであればほぼ無限に致命の極光を放つ事が出来る。頑丈なからだけで防げるほどアリス・エンシェントの放つ致命の極光は甘くはない。


 致命の極光は途方も無い巨人の手のひらを貫通し、顔に直撃する。


 なんとか致命の極光を防ごうともう片方の手で遮るも、致命の極光は瞬く間に手を破壊し、再度途方も無い巨人の顔を穿つ。


 途方も無い巨人は致命の極光から逃れるように一歩二歩と下がるけれど、アリスはそれに合わせて致命の極光の角度を変える。


 呻くように、悶えるように、途方も無い巨人は身動ぎをする。


 途方も無い巨人は顔を上げ、ぼろぼろになった腕をアリスに伸ばす。


 腕を伸ばすけれど、致命の極光に削られてアリスに届く事無くぽろぽろと崩れて消滅する。


 やがて致命の極光は途方も無い巨人の身体を縦に(つんざ)いた。


 アリスは致命の極光を放つのを止め、アリス・エンシェントから通常形態へと戻る。


「……おかしい」


 身体と共に核を貫かれ、重力に従って地面に倒れる途方も無い巨人を見て、アリスは言葉を漏らす。


 途方も無い巨人は抵抗を見せた。だが、反撃は一切しなかった。それどころか、途方も無い巨人からは敵意すら感じなかった。こちらを害する気配が一切無かったのだ。


「……何かがおかしい」


 言いようの無い気持ち悪さ。明確な理由は分からないけれど、何か、自分がしてはいけない過ちを犯してしまったような、そんな気分。


「どうする、アリスちゃん?」


「……次に行く」


 例え違和感が在ったとしても、アリスの結論は変わらない。異譚支配者を倒し、異譚を終わらせる。それが、アリスの役目なのだから。


 アリスはそのまま空を移動する。


 現状、木の山羊の群れが猛威を振るっているのであれば、その数を減らして避難をしやすくするのがアリスの役目だ。その間に、異譚支配者と遭遇すれば異譚支配者を倒す。


「アシェンプテル、ナビをお願い」


「了解よ~」


 アシェンプテルを背負ったまま、アリスは自分の責務を果たすべく空を飛ぶ。


 気持ち悪い違和感が晴れる事は無かった。







 死んじゃった。


 死んじゃった。


 私の可愛い子供。一番背が高くて、優しい息子。


 死んじゃった、死んじゃった。死んじゃった。


 悲しい。寂しい。虚しい。


 死んじゃった。死んじゃった。死んじゃった。


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。死んじゃ嫌だ。でも……。


 死んじゃった。死んじゃった。死んじゃった。


 アタシ(・・・)の、アタシだけの、可愛い子供が。


 死んじゃった。







 死んじゃった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] まさかの変異体……? 話の流れ的に春花にドキドキしてた長男君か……? て事は白い異譚支配者がお母さん??
[一言] 人の心とかないんか?
[一言] ウワァー これ異端支配者じゃなくて正体きっと・・・ 死んじゃった
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