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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■
282/489

異譚20 土下座

 春花は両手にエコバッグを持ちながら歩く。


「えへへ。来てくれて嬉しいッス!」


「キヒヒ。タダ(メシ)なら頂かないとね」


 春花の頭の上でのんびり答えるチェシャ猫。


 あの後、瑠奈莉愛にご飯に誘われた。


「今度はウチでご飯を食べて行って欲しいッス! 皆喜ぶッス!」


 うきうきと楽しそうに春花を誘う瑠奈莉愛。しかして、春花は距離を保つ事に決めたのだ。申し訳無いけれど今回は断ろう。


 そう思ったのだけれど、膝の上からチェシャ猫が勝手に返答をする。


「キヒヒ。良いよ」


「やったッス! じゃあ、春花先輩の上がりの時間に迎えに来るッス!」


「キヒヒ。それなら、七時に迎えに来ておくれ」


「了解ッス!」


 ビシッと敬礼をして、さっさと事務室から出て行く瑠奈莉愛。


 喜びながら出て行く瑠奈莉愛を見送りながら、春花はチェシャ猫に言う。


「なんで勝手に了承するの」


「キヒヒ。人の好意は素直に受け取っておくべきさ」


「……こっちの気も知らないで」


 少しだけ眉間に皺を寄せる春花。


「キヒヒ。アリスは気にし過ぎだよ」


「チェシャ猫が気にしなさ過ぎなだけだよ」


「キヒヒ。そうかもね」


 楽しそうに笑ってから、チェシャ猫は春花の膝の上で眠る。


 回想終了。


そんな一幕があり、春花はチェシャ猫と一緒に上狼塚家へと向かう事になったのだ。


 因みに、チェシャ猫が菓子谷家に同行しないのは、お婆さんが動物が苦手だと聞いたからだ。チェシャ猫が純粋な動物かと聞かれれば首を傾げるところではあるけれど、動物が苦手なのであれば連れて行くわけにはいかない。


 それに、春花もいつもチェシャ猫と一緒という訳では無い。最近は、童話のカフェテリアで他の魔法少女達と一緒にお喋りをしたり、お菓子を食べていたりしている。


 最近少し太ったのか、ちょっとだけ頭が重い。


「流石に、料理は手伝うよ」


 一応、今日も割烹着を持って来ている。というか、既に着ている。


 最初から料理を手伝うつもりだったけれど、瑠奈莉愛はきっと休んでて欲しいと言うだろうと春花は考えた。なので、最初から割烹着を着て料理をする気満々であると示せば、瑠奈莉愛も断らないだろうと考え、瑠奈莉愛が迎えに来る前に着込んでいたのだ。


「じゃあ、一緒に料理するッス!」


 だが、春花の思惑とは裏腹に、瑠奈莉愛は嬉しそうに一緒に料理をする事に賛成する。


 予想外の反応だったけれど、春花としては都合が良い。今日はアリスとして来た訳では無いので食費を持つという事はしなかった。春花はただの学生であり、アリスのようにあり得ない程稼いでいるというイメージは無いのだから、奢る方がかえって瑠奈莉愛を恐縮させてしまう。


 なので今日は一緒に料理をするに留める。チェシャ猫には、子供達と一緒に遊んでいて貰う。


 スーパーマーケットから少しだけ歩いて、上狼塚家へ到着する。


「ただいまッス!」


「お邪魔します」


「キヒヒ。お邪魔するよ」


 靴を揃えて家に上がれば、今から子供達がやって来る。


「あっ、春花ちゃんだ!」


「一緒にご飯食べるの? 嬉しい!」


 やいのやいのと子供達に囲まれる春花。


「チェシャ猫も一緒だ!」


「ほんとだ!」


「キヒヒ。久し振りだね」


 チェシャ猫はぴょんっと春花の頭から飛び降り、廊下を歩いて居間へと向かう。


 何人かはチェシャ猫に付いて行くけれど、春花の周りにはまだ子供達が残っている。


「ちょっと~、姉ちゃんが疎かッスよ~。まったく」


 ぷんぷんっと怒った様子を見せる瑠奈莉愛。けれど、少し拗ねているだけなので子供達は気にしない。


「荷物持ちますよ」


「ありがとう」


 長男の立夢(リズム)が春花から荷物を受け取る。


 春花が薄く微笑んでお礼を言えば、立夢(リズム)は少しだけ頬を赤くして、照れたように視線を逸らす。


「あ、立夢(リズム)照れてる~」


「て、照れてねぇし!」


 次女の依溜(エル)にからかわれ、立夢(リズム)は顔を真っ赤にして居間へと逃げていく。


 手が空いた春花はちびっ子達と手を繋いで居間に入り、そのままチェシャ猫の元へと連れて行く。


 チェシャ猫は撫でられながら子供達とお喋りをしており、かなりもみくちゃにされているけれど気にした様子は無い。


「いたいいたいしちゃ駄目ッスよ~。依溜(エル)立夢(リズム)ちょっと、見といて欲しいッス」


「は~い」


「うーい」


 依溜(エル)はそのまま居間に残り、立夢(リズム)は台所に荷物を置いてから居間へと向かった。


「よしっ。それじゃあ、レッツクッキングッス!」


「うん」


 食材をエコバッグから取り出して、今日使う物以外は冷蔵庫に仕舞う。


 今日のメニューはカレーだ。付け合わせにサラダも作るけれど、どちらもそう手間のかかるものでは無い。


 二人は慣れた手付きで調理を進める。


「ほえ~。春花先輩、包丁使うの上手ッスね~」


「教え込まれてるからね。前より上達したかも」


 お婆さんには包丁の扱いも教えて貰っている。春花も上手な方だけれど、お婆さんの方が包丁捌きは上だ。危なげなく、慣れた手付きで食材を切っていく姿には、思わず春花も憧れてしまう。


「春花先輩は良いお嫁さんになれるッスね」


「僕がなるならお婿さんだよ」


「あっ、そうだったッス。てへへ。この間の動画を思い出しちゃって、つい……」


 この間の動画とは、新妻風春花の動画の件だろう。


 色んな人から感想が届いて、挙句リクエストまでくる始末。特に、詩とシャーロットからのリクエストが異常に多い。毎日何かしらリクエストが届く。因みに、チェウォンからは続きは無いのかしら? と何故か続きを急かされている。


 皆が自分に何を期待しているのか知らないけれど、このまま要望に従うと後が怖いので『しないよ』と一言伝えている。伝えているのだけれど、何故かリクエストは止まらない。


「ただいま~、ワタシの可愛い子供達~!」


 料理の準備をしていると、玄関から安姫女(アンジェ)の声が聞こえてくる。


 安姫女(アンジェ)をお出迎えしに子供達は居間から出て行く。因みに、チェシャ猫は抱きかかえられているので強制的にお出迎えに参加している。


 やいのやいのと玄関先から楽しそうな声が聞こえて来て、思わず頬が緩めていると、唐突にどたどたと慌ただしい足音が聞こえてきて、安姫女(アンジェ)が慌ただしい足取りで居間へと入って来る。


 そして、春花を見るなり、安姫女(アンジェ)は即座に頭を下げた。


「この度は、うちの子供達、ひいては上狼塚家が大変ご迷惑をかけしました!」


 頭を下げて謝罪をする安姫女(アンジェ)に、春花は思わずぽかーんと口を開けてしまう。


 何せ、いらっしゃいと言われるかなと思っていたのに、唐突に謝られたのだ。思わず呆けてしまうのも仕方がないだろう。


「……大変、大変申し訳ございませんでした!!」


 しかし、安姫女(アンジェ)の謝罪は止まらず、頭を下げた姿勢から更にその場に膝を付いて春花に土下座をしだした。


「え、ちょ、や、やめてください」


 流石に調理を中断して止めに入る春花。


 だが、安姫女(アンジェ)は譲る事無く頑なに頭を下げ続ける。


 そんな安姫女(アンジェ)になんとか頭を上げて貰うために、春花にしては珍しくおろおろしながら言葉を尽くした。頑なに頭を下げ続ける安姫女(アンジェ)が頭を上げてくれたのは、暫く経ってからの事だった。


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