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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■
277/489

異譚15 優しい手付き

短めですわ。おほほ

 子供達が遊んでいる間に、春花とお婆さんは料理を進める。一回、瑠奈莉愛が手伝うかと聞いて来たけれど、お婆さんが『お客さんなんだから座ってな』と言って居間に帰した。どうやら春花はお客さんでは無いらしい。


 まぁ、料理を教えて貰うために来てはいるので、別段お客さん扱いをして欲しい訳では無いし、気を遣って欲しい訳でも無い。


とんとんとんっと軽快に包丁で食材を切り、ぐつぐつ食材を煮込んで、じゅうじゅうと食材を焼く。


 春花はお婆さんに言われた通りに作っていく。


「ふん。中々手際が良いじゃないか」


「たまに作るので」


「たまに、ね……そうは思えないけどね」


 料理は出来ると聞いていたけれど、春花はお婆さんが思う以上に手際が良かった。


「ママ、夕飯まだ?」


「パパ、夕飯まだ?」


 二人が料理を作っていると、唯と一が春花の背後からお夕飯はまだかと急かしてくる。


「まだかな。あと、服引っ張らないで、危ないから。皆と一緒に良い子で待ってて」


「「ほーい」」


 春花の言葉に双子は素直に返事をしてから、居間へと戻っていった。居間では子供達がゲームに興じており、わーきゃーと楽しそうな声を上げている。


「……冗談でも、あの子達がパパとママだなんて言うとは思って無かったさね」


 料理をしながら、お婆さんがぽそりとこぼす。


「さっきの夫婦、あんたも見たんだろう?」


 夫婦と言うと、菓子谷家から出て来た男性と女性の事だろう。


 確かに春花達は時間をずらして訪問していない。遭遇していたと考えても不思議では無いだろう。


 隠すつもりが無いのか、春花であれば話しても良いと思ったかのどちらかだ。


「はい」


 春花も隠す事無く頷く。


「あの二人は、あの子達の両親だよ。育児放棄してたくせに、あの子達が魔法少女になったと知ってから、あの子達を育てるだなんて言い出してね……多分、あの子達の方にも話は行ってるだろうね。最近様子がおかしいからね」


 お婆さんの言葉で合点が行った。唯と一が元気が無い理由は、今更になって両親が一緒に暮らそうと言ってきたからだろう。


 唯と一の心が決まらずに、悩んでいると言ったところか。


 無関心だった両親の関心を引きたいと考えるのは子供としては自然ではある。その関心が向いた今、両親との同居を選ぶかお婆さんと暮らし続けるか、二人にとっては悩ましい所なのだろう。


 と、そこまで考えて、果たして本当にそれが正解なのかと違和感を覚える。


 育児放棄をした両親に、果たして心を動かされる事があるだろうか? 育児放棄とはつまり、子供に無関心と言う事だ。状況や程度はあれど、虐待では無く放棄であるならば、双子に関心が向けられた事は無いはずだ。


 いつから育児放棄をされていて、いつまでそれが続いたのかを春花は知らない。それに、他人の気持ちの機微に疎い春花では、二人の心境を推し量る事は出来ない。


 二人は今更その関心が欲しいのだろうか? 両親との記憶が無い春花には分からない。


 違和感は在るけれど、そこから答えを紡ぎ出す事は出来ない。春花と双子はそこまで深い仲では無いのだから。


「あの子達が二歳の頃から育児放棄をされてて、あたしがあの子達を引き取ったのが五年前。当時は、十歳だったかね……。酷く痩せ細っててね。言葉だってろくに喋れなかったんだよ」


「そうなんですね……」


「そんな相手に、どうして今更あの子達を預けられるんだい。あの二人があの子達に愛情を教えてあげられるとは思えないさ。……今のあの子達に必要なのは、周りからの十分な愛情さね」


 お婆さんの言葉に、思わず春花は調理の手を止める。


 周りからの愛情が必要だという状態には春花も覚えがある。何せ、自分が通った道なのだから。


 自分にどんな過去があるのかは、未だ不透明な部分が殆どを占めているけれど、自分が心を閉ざす原因の一端は海上都市で知る事が出来た。


 その閉ざされた心を開いてくれたのが、白奈の母親である黒奈の愛情だった。


「……」


 少し止まった調理の手を再度動かす。


 少しの停止だったけれど、お婆さんはしっかりとその様子を見ていた。


「……あんた、悪いけどあの子達の事気に掛けてやってくれるかい? あたしに言えない事もあるだろうしね」


「分かりました。出来る範囲にはなりますけど」


「それで十分さ。ありがとうね」


 元々、珠緒に頼まれていた事ではある。依頼人が増えるだけなので、春花としての労力は変わらない。


「でも、良いんですか? 出会ったばかりの僕に此処まで話してしまって」


「良いさね。あんた、随分優しい手付きで料理を作るからね。そういう子は信用できるのさ」


「そうでしょうか……」


 別段、手付きに気を遣った事は無ければ、自分の料理の手付きなど気にした事も無い。別段、優しい手付きで料理をしているとも思っていない。


 だが、お婆さんには優しい手付きに見えるらしい。


「そういうもんさ」


 それだけ言って、その後はお婆さんは特にその話題を出す事は無かった。


 時折、料理に口を出したり、他愛の無い話をしたりはしたけど、先程の話をする事は無かった。


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