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魔法少女異譚【書籍化決定】  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■

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異譚13 どうしよう、どうしよう、どうしよう

「おいおい、これっぽっちしか用意出来なかったのか?」


「頼むよ。これじゃあ俺、食いっぱぐれちまうよ」


「パパが死んでも良いのか? ん?」


「俺は悲しいよ。娘がパパの事どうでも良いと思ってるなんてなぁ……」


「次はもっと持って来てくれよ? パパはお前が居ないと生きていけないんだからさ」


 お金を貰った事にお礼も言わず、自分が伝えたい事だけを伝えて去っていく龍彦。


 場所は以前と同じファミリーレストラン。お金を受け取る前に食べた食事の代金は勿論払っていない。


 今回入ったお給料の半分以上を渡した。普通に考えれば中学生では稼げるはずの無い金額だし、ぽっと他人から受け取れるような額でも無い。それを、なんの良心の呵責も無く受け取った上で足りないと文句を言い、食事の支払いすらしない。


 有り体に言って最低な行いだし腸が煮えくり返る程の怒りを覚えるけれど、家族を護るために瑠奈莉愛は従うしかない。


「何してるッスかね、自分……」


 命を懸けて戦って得たお金を、自分が心底どうでも良いと思っている相手に渡す。これほど無意味で、無価値な行動は無い。


 自分で稼いだお金は自分のために使いたい。自分のためと言っても、自分自身のためではない。自分が納得できる使い方をしたいのだ。


 龍彦に渡したお金で姉弟達に美味しいご飯を食べさせてあげられる。いつもよりおかずを多く作ってあげられる。それに、新しい服だって買ってあげられる。他を少し我慢すれば、ゲームだって買ってあげられる。きっと取り合いになっちゃうだろうけれど、皆で楽しくゲームが出来るはずだ。


 他の皆が過ごしている普通の暮らし(・・・・・・)に近付けるはずなのだ。


 それなのに、そのはずだったのに、自分の納得していない形でお金が消費されていく。きっと、瑠奈莉愛達が節制している事も考えずに使い果たし、また何の良心の呵責も無く瑠奈莉愛に金の無心をするのだろう。


 こちらの苦労を知りもしないで。


「……っ」


 自然と涙が溢れる。


 こんな所で泣いてはいけないと思っていながらも、溢れる涙は止まらない。


 紙ナプキンで涙を拭いながら、涙が止まるのを待つ。


 悲しくて、悔しくて、腹立たしくて、暫く涙は止まってはくれなかった。


 時間が経ち、ようやく涙も止まったところで瑠奈莉愛はファミリーレストランを後にした。


 色々、色々考えた。


 どうすれば龍彦を家族から離せるか。どうすれば龍彦が金の無心を止めてくれるか。


 幸い、瑠奈莉愛の稼いだお金の管理は瑠奈莉愛自身で行っている。そのため、通帳を安姫女(アンジェ)に見られる事は無い。暫くは安姫女(アンジェ)にこの事が知られる事は無いだろう。


 だが、長くは続かない。中学、高校、大学。進学にあたってお金は必要になる。制服、鞄、靴、入学金、修学旅行の積立金、給食、その他、言い出したらキリが無い程お金が必要になる。


 こんな事に使っている場合では無い。


 大きくお金が入用(いりよう)になる時は必ず来る。今のままでは貯めようが無いし、その時が来れば安姫女(アンジェ)にも知られる事になるのは明白だ。そのための費用を貯金していると安姫女(アンジェ)には伝えているのだから。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 頭では色々考えを巡らせているのに、一向に答えらしい答えが見当たらない。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 相談する? 誰に? こんな事相談しても迷惑だろう。何せ身内の事だ。他の人には関係の事なのだ。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 自分でどうにかするしかない。自分以外ではどうにも出来ない。自分しか家族を護れない。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 そのはずなのに、自分は未だ答えを見付けられていない。


「……あ、そうッス……お買い物しなくちゃッス……」


 たまたまスーパーマーケットが目に付いて、そう言えばお買い物をしなければいけない事を思い出す。


 今は、今日のお夕飯の食材を買って、帰ってお夕飯を作って、それから、それから、今後の事を考えよう。


 瑠奈莉愛はスーパーマーケットに入り、籠を持ってお夕飯の食材を買うために店内を歩く。


 だが、考えがまとまらない。いつもであれば何を作るのかはパッと浮かんで、迷う事無く食材を買えるのに、今日は何も思い浮かばないから食材にも手が伸びない。


「……どうしよう」


「どうしたの?」


 瑠奈莉愛がぽそっと呟けば、思いもよらず返答があった。


 声の方を見やれば、そこには買い物かごを持った春花が立っていた。だがおかしなことに春花は何故だか割烹着に身を包んでいる。


「春花先輩……」


「大丈夫? さっき、どうしようって言ってたよね。何かあったの?」


 春花が小首を傾げて問う。


「あ、いえ……なんでもないッス。ちょっと、お夕飯に悩んでただけッス。春花先輩こそ、どうしたんッスか? それ割烹着ッスよね?」


 暗くなっていた自分を心の内に押し込んで、笑みを浮かべて春花に返す。


「ああ。僕はお買い物。今日は、菓子谷さんの家でご飯を食べるから、その買い出し」


 今日はお婆さんにお呼ばれした日だ。お婆さんと一緒にご飯を作る約束もしていたので、そのための買い出しをしている最中である。


「一回菓子谷さんの家に寄ったら、お婆さんが僕の分の割烹着をくれたから、そのまま着て来たんだ」


「そ、そうッスか……」


 普通、年頃の男の子であれば割烹着を着て外に出る事を躊躇うとは思うのだけれど、春花は微塵も気にした様子が無い。むしろ、違和感が無い程に似合っているし、何故だかスーパーマーケットに溶け込んでいる。


 因みに、前髪も可愛らしい花の髪留めで留めている。これもきっと、菓子谷家のお婆さんが寄こした物なのだろうと勝手に判断する瑠奈莉愛。


「決まらない?」


「え?」


 春花の言葉に、一瞬ドキリと心臓が跳ねる。


「お夕飯、決まらないの?」


「あ、ああ……そうなんッスよ! 全然決まらないんッス!」


 一瞬だけ、龍彦への対処の事かと思ってしまった。そんな事を、春花が知る訳も無いのに。


「……そう」


 少し悩んだように目を伏せ、暫くしてから瑠奈莉愛に視線を合わせた。


「皆お家に居るの?」


「はいッス」


「そう」


 一つ頷いて、春花は携帯端末を取り出してどこぞへと電話をかける。


「……あ、もしもし、有栖川です。すみません、一つお願いがあるのですが、友人を連れて来ても良いでしょうか? はい。友人です。……幼稚園生くらいの子から中学生までです。八人になります。必要な分のお金は当然僕が出しま……いえ、払わせてください。僕の我が儘なので。え、いえ、そういう訳では………………分かりました。頑張ります。はい、ありがとうございます」


 電話越しなのに頭を下げた後、春花は通話を切る。


「じゃあ、食材買ったら行こうか」


「え、ど、どこにッスか?」


 いきなり話を進める春花に戸惑いながら、瑠奈莉愛は何処に向かうのかを訊ねる。


「菓子谷さんの家。皆連れて来て良いって。一緒にご飯、食べようか」


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― 新着の感想 ―
魔法少女関係の大人ならとか思ったけどそんなに関係は深くないか…
[一言] イャンガルルガ
[一言] このサイコオヤジはともかく婆さんのほうまで近々死にそうな予感
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