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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■

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異譚8 双子、悩む

 両親は自分達の事を調べていた。


 探偵に依頼して、双子の給料の管理を祖母が行っている事や、リフォーム工事が行われ、家電を沢山買い替えている事も知っていた。


「母さんはね、貴女達のお金が目当てなのよ。ほら、魔法少女ってかなり稼げるんでしょう?」


「好き放題に家電を買ったりリフォームしたり、贅沢をするためにお前達を育てたんだよ。最近やたらとお前達の機嫌を取るようになったとか、妙に御飯が贅沢になったりとか、身に覚えは無いか?」


 両親に言われ、双子にも思い当たる節はあった。


 よくケーキやクッキー等のお菓子を作ってくれるようになったり、お夕飯が少し豪勢になったりしている。


 二人だって馬鹿じゃない。リフォームをしている事や、家電を買い揃えている事はおかしいと思っていた。二人が魔法少女になるまで、家電を買い替える事は殆ど無かった。壊れたら買い替えるけれど、良い物が出たから交換と言う事はなかった。


 一度だけならそう言う事もあるかと納得できる。けれど、二度三度と続けば訝しんでしまう。


 二人の沈黙をどうとらえたのかは分からないけれど、両親は鬼の首を取ったように言葉を紡ぐ。


「なぁ、俺達と一緒に暮らさないか? 考えたんだ。俺達が親として間違ってたんじゃないかって」


「二人で話し合ったの。二人とも同じ気持ちだったわ。私達が間違ってた。貴女達をちゃんと見てあげるべきだったって。私達……なんて酷い親だったのかしら、って……」


 涙ながらに語る母親。その肩を、父親が抱き寄せる。


「考えてみてくれ。直ぐに直ぐ、答えなんて出ないだろうしな」


 この事は、祖母には内密に。最後にそう伝えて、両親は去っていった。


 双子は考えた。両親に付いて行く事はまず無い(・・・・)。どうあれ、自分達を捨てた相手を慕う程馬鹿では無い。それに、居ても居なくても変わらないなら、今更居て貰わなくても良い。むしろ、居る事の方が面倒だ。


耳障りの良い言葉を並べ立てているだけで、結局両親の方も金目当てなのだろう。ある程度成長して手間がかからなくなり、それなりの収入を得ていると言う事で一緒に住んでもデメリットが無いとでも思ったのだろう。


 まともな子育てをした事が無い奴が、ただの寂しさや罪悪感で再度子供を引き取ろうとするなと言ってやりたかった。


 言わなかったのはせめてもの情けだ。あの涙が本物であれば母親は傷付くだろうと考えたのだ。


 彼女の涙が本物か偽物かは双子には分からない。だから、余計な事は言わなかった。それに、自分達を捨てた相手と長く話すつもりも無い。手短に終えられるのが一番良い。


 ともあれ、両親と暮らすのは絶対にあり得ない。となると祖母とこれからも暮らすという選択肢が残る訳だけれど、それも正解なのかは分からない。


 祖母が急にリフォームやら家電の買い替えをし始めたのは事実である。それに、最近なんだか妙に優しいのも気になる。


 自分達を利用するために優しくしているという疑念が浮かんでしまう。


「「はぁ……」」


 どうする事が正解なのか分からない。だからこうして、珍しく頭を悩ませているのだ。好物のドーナッツにも手を付けずに、だ。


「どうしよう、一」


「どうしよう、唯」


 二人は互いに困った顔を見合わせる。


 幼い頃から、信じられる相手は互いしか居なかった。今では童話の魔法少女の面々も信じられる仲間ではあるけれど、家庭内の事情を話すのは面倒ごとに巻き込んでしまうと思って気が引けてしまうのだ。


 今頼れるのは互いのみ。だが、頼れる相手が困った顔をしているものだから、互いにずっと困った顔から抜け出せない。


「困った」


「非常に」


「「はぁ……」」


「頼り無い」


「お互い様」


「「はぁ……」」


 文句を言ってもそれはお互い様である。


 何度目か分からない溜息を吐く双子。


 いくら溜息を吐いたところで現状は何も変わらない。それでも、溜息を吐いてしまうのだ。しょうがない。


「あれ」


 二人が肩を落として考え込んでいると、後ろで聞き覚えのある声が聞こえて来た。


 振り返れば、そこにはお持ち帰り用のドーナッツの箱を持った春花が立っていた。


「春ちゃん……」


(はな)ちゃん……」


「あ、上下で別けるんだ」


「お買い物?」


「お持ち帰り?」


「うん。事務作業があるから、軽食にと思って」


「それを全部食べるとは……」


「やはり、やりおるな……」


「いや、全部食べる訳じゃ無いから。他の事務員さんの分だよ」


 春花が持っているお持ち帰りの箱はドーナッツがたくさん入る。食の細い春花では全て食べきる事は不可能だ。


「それより、どうしたの? 二人共落ち込んでるように見えたけど」


「春ちゃんが気にする事では無い」


「花ちゃんは何も心配する事は無い」


 朴念仁の春花でも二人が落ち込んでいる様子は目に見えて分かった。だからこそ訊ねてみたのだけれど、二人は常の様子でなんでも無いと言う。


 何でも無さそうな気はするけれど、二人が何でも無いと言うのであれば春花の出る幕では無いのだろう考える。


「そっか」


 納得したようにこくりと頷く春花。


「なら、そろそろ良い時間だから、お家に帰った方が良いよ」


 春花の言葉を受け、二人は店内の掛け時計に目を向ける。時刻は夜の七時。確かに、中学生が出歩いて良い時間では無いだろう。


 放課後から居たので三時間近くもお店で考え込んでいた事になる。二人はその事の方が驚きである。


「春ちゃん、これからお仕事なの?」


「花ちゃん、社畜精神丸出しなの?」


 ふと疑問に思って訊ねれば、春花はふるふると首を振る。


「ちょっと用事があったから、作業が少し遅れただけ。いつもはこんな時間からはやらないよ」


 春花はアリスとして訓練に参加した後に事務作業に移ろうとしている。春花とアリスで使い分けてはいるけれど、実質一人の労働時間に他ならないので十分ハードワークではある。


 因みに、今日は家に帰らずに寝泊まりしようとも思っているので労働基準法が許す限界まで仕事をこなそうと考えている。そう考えている時点で十分に社畜精神に溢れているのだろうけれど、本人はまったくと言って良いほど気付いていない。


 ただ、そうしなければいけない程、海上都市の謎は多いのだ。あれ以上の危険が待ち受けていると思うと、うかうかもしていられない。


「暗いから、送って行くよ。さ、帰ろう」


「送り狼」


「悪くない」


「だがしばし待たれい」


「すぐに終わらせる」


 二人はドーナッツに向き直り、しゅばばっと残像が見える程の速度でドーナッツを貪る。


 一分とかからずに山のように積まれたドーナッツを食べきった二人は、ごみを捨ててトレーを所定の位置に置く。


「では帰ろう」


「手を繋いで」


 唯が春花からドーナッツの箱を奪い取り、代わりに手を繋ぐ。勿論、反対側は一が手を繋ぐ。


「「出発」」


 二人はぶんぶんと手を振って歩いて行く。


 本当は、今は少しでも長く家から離れていたいけれど、春花に余計な心配をかけたくは無い。


 少しでも明るく見えるように振舞いながら、双子は春花とお喋りをしながら帰路を歩く。


 残念な事に、双子の空元気を見破れる程、春花は人を良く見てはいなかったけれど、双子にとってはそれが幸いだった。


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