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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第2章 三本の剣
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異譚2 会議

 アリスの作成した報告書の内容は、今まで誰も観測した事の無い情報が記されており、異譚の研究を一歩前進させる程の証言となっていた。


 ともあれ、異譚支配者が人間だったなどという憶測はオカルト的ながらも以前から上がっており、物珍しいという訳では無い。だが、そこにアリス(体験者)の体験談が入るのであれば別の話ではある。


「異譚支配者の元が人間だった、か……」


「憶測として以前から上がってはいたが、まさか本当だったとはな……」


「本当とは限らんだろう? アリスが見たというだけだ」


「だが、アリスの見た記憶と人物は一致したのだろう?」


「それもこじつけの可能性が在るだろう。確たる証拠が無いのだから」


 対策軍の会議室の一室に集まる重鎮達は、難しい顔でアリスの報告書に目を向けていた。


 各魔法少女の最高責任者に加え、それぞれの部署の最高責任者、対策軍全体の最高責任者が一堂に会している。


「アリスが嘘の報告をしていると、そう言いたいのですか?」


 こじつけと言われ、会議に参加していた沙友里が眉根を寄せて食って掛かる。


 アリスの報告をこじつけと言ったのは星の魔法少女の最高責任者である男。


 魔法少女の功績や評価は魔法少女という大きな括りではなく、童話、星、花とそれぞれが立てた評価と功績が付随される。対策軍としては統一された評価でも、その中では内訳が分かれるという訳だ。


 童話の最高責任者である沙友里には、英雄であるアリスの評価が大きく付随する。加えて、アリスも沙友里には懐いており、曲者揃いの童話をまとめているという事実もまた評価されている。


歳若くして英雄をサポートし、曲者揃いの童話をまとめ上げるその手腕は嫉妬の対象にもなる。


勿論、星と花も功績を上げていない訳では無い。けれど、Sランクの異譚を解決したのは日本でアリスのみであり、ロデスコは単独でAランクの異譚を解決した事がある。それ以外にも、複数編成ではあるけれど、新人を除く全員がAランクの異譚を解決しているという猛者揃い。

間違いなく最強クラスの魔法少女が童話に集まっており、そのため、星と花の最高責任者からはあまりよく思われていない。


「先程も言ったが、確たる証拠が無い。君は証拠も無しに、アリスが頭の中で見たというあやふやな言葉だけを信じろと言うのか? 信じて、周知させて、それがもし間違いであったらどうする?」


「それは……」


「文句があるのであれば、確たる証拠を揃えてから言って欲しいものだな。君はアリスを過信し過ぎだ。英雄とは言えまだ子供。嘘も勘違いも山のようにある年頃だ」


 確かに、彼の言う事も尤もだ。現状、体感したのはアリスのみであり、アリス以外の誰もアリスの証言を補完出来ない。


 異譚支配者が元人間である可能性は以前から挙げられていたけれど、アリスの証言では確証には足りない。


 それは、沙友里も分かっている。


 けれど、一つ完全に否定できる事も在る。


「……確かに、アリスの報告だけで決めつけるのは早計です。しかし、アリスは嘘を吐いていません。それは断言できます」


「それが妄信だと言うのだよ。英雄だとしても完璧ではない。間違える事だってあるだろう」


「ええ、アリスはまだ子供です。間違える事も当然あります。ですが、勘違いや間違いがあったとしても、異譚に関して嘘の報告は絶対にしません」


「その根拠は?」


 そう、在り得ない。アリスは誰よりも異譚に対して真摯に受け止めている。その恐ろしさを誰よりも知っているのは他の誰でも無いアリスなのだから。


「アリスだけです。あの地獄の異譚を戦い抜いた魔法少女は。皆さんもそのログは見たでしょう?」


 アリスが解決したSランクの異譚。それは、性質上アリスの正体を知る者のみが閲覧可能であり、この場の全員は一度はログに目を通した事がある。


 凄惨極まる異譚。異譚支配者とアリスの在り得ない次元の死闘。大規模過ぎる被害。異譚の跡地は今でも復興が終わっていない。


 まさに地獄の中を彷徨い歩いたような、そんな気分を味わうには十分過ぎる程の映像を、此処に居る全員が見たのだ。


「それに、アリスの献身を忘れたとは言わせません。それを全て分かった上で、嘘と一蹴するおつもりですか?」


「……そうは言っていない。ただ、決めつけるには早計だと、私はそう言っているだけだ」


 対策軍全体はアリスに大きな借りがある。Sランクの異譚を解決した事もそうだけれど、それと同じくらいの借りがアリスにはある。それは、現在進行形で積み上げられている借りだ。


「もうそれくらいで良いだろう。アリスの献身は皆が知るところだ。そこは、誰も疑っていないよ」


 およそ、重鎮の集まるこの場に相応しくないであろう歳若い少女の声が、場を収めるように割って入る。


「それよりも、今は別の問題があるはずだ」


「別の問題、ですか?」


「ああ。アリスの報告が真実であれば、つまり、異譚を作り上げているのはどこぞから現れた化け物ではなく、化け物に変異した人間が作り上げているという事になるのだろう?」


「そうなりますね」


「では、人の意思を持ってして異譚を広げている可能性というのも在る訳だね」


 少女の言葉に、この場に居る全員が息を飲む。


 今まで、異譚は正体不明の化け物が作り上げていると思われていた。


 正体不明の化け物が観測不能な次元から現れ、地球を侵食するように異譚を広げていると、そう思われていた。それが一般的な仮説だ。


 けれど、アリスの報告が真実であれば、なにがしかの影響で化け物へと変異した人間が異譚を作り上げているという事になる。


「人間が作為的(・・・)に異譚を作り上げていると、そう仰るのですか?」


「その可能性も在るという事だよ。重要なのは化け物に成った人間の仕業か、人間が変貌した化物の仕業か、だ」


 人が悪意を持って異譚を広げるのか、あるいは化け物が作意を持って異譚を広げるのか。


「それを認めてしまうと、異譚はテロ行為に相違ないという事になりますな……」


今までは異譚を事故や現象、災害等の偶発的なものだと解釈していた。が、人間が異譚支配者になり、異譚という事件を起こしているという可能性も浮上してしまった。


「そういう点でも、この件は公にするには憚られるね。国民を疑心暗鬼にさせてしまう。まぁ、後は確証が無い事を吹聴は出来ないからね」


 言って、少女は沙友里を見る。


「現状、報告の件は保留という事にしよう。異譚について、我々は知らない事の方が多いが、不確定要素に踊らされるのは愚の骨頂だからね。皆、頭の片隅にでも置いておいてくれたまえ」


 現状、そういう体験談があった、という以上の説得力はない。英雄の言葉と言えども、妄信する訳にはいかないのが組織である。


 そのまま会議は別の話題に移る。


 沙友里も今回の報告だけでどうこう出来るとは思ってはいない。他の者よりも一歩先んじたと喜び勇んでもいない。


 異譚は全人類共通の脅威だ。対抗意識を燃やして牽制しあっている場合ではないというのに、何よりも権威に重きを置く者達にとっては魔法少女の成果は自分達の成果であり、権威を示すための道具である。


 そんなもの、沙友里にとっては至極どうでも良い。命を懸けて戦っている魔法少女達に報いる仕事をするのが沙友里の仕事だと思っている。


 権威も、報酬も、評価も二の次なのだ。


 今回の報告、まったくもって意味が無かった訳では無いけれど、状況を好転させる程の情報力では無かった。


 アリスに申し訳無いと思いながらも、沙友里は会議に集中した。きちんと会議を進める事もまた、沙友里にとって異譚に対抗するための仕事になるのだから。


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