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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第6章 ■■■■と■■■■■■
264/489

002 今はそれで良い

 シャーロット達外国の魔法少女は全員休暇という形だったけれど、アリス達が実際に休暇を貰ったのは十日程だ。それ以外は夏休みと言えど訓練や警邏は行われた。


 ただ、海上都市の異譚に関わった魔法少女の大半は休暇中にも関わらず訓練を行っていた。それは勿論、アリスも例外ではない。


 訓練室にこもり魔法の精度を上げるために、何度も魔法を行使したり、運動能力を向上させるために春花として身体を動かした。


 自身の思い描く動きのイメージと実際の動きが一致するように、様々な運動をこなした。パルクールをしてみたり、スポーツをしてみたり、少しでも強くなるために夏休み中は色々試した。


 ときたま朱里が春花を連れ出して夏祭りに行ったり、映画を見に行ったりしたけれど、それ以外の時間は基本的に能力向上のために使った。


 アリスだけでは無く、異譚侵度Sの異譚に関われなかった魔法少女達も、異譚で大した成果を上げられなかったと思う者も、自身の実力不足を悔やんで訓練を続けていた。


 空港でシャーロット達を見送った後、全員対策軍の童話のカフェテリアへと向かった。待機をしなければいけないのは勿論だけれど、訓練を行うためでもある。


 夏休みが終わり、週明けには新学期に突入するけれど、アリス達のやる事は変わらない。


「は~あ、終わっちゃったわね、夏休み。今年も仕事仕事の夏だったわ……」


 カフェテリアのソファに座り、過ぎ去った夏休みを憂う朱里。


 魔法少女として活動をして早二年。長期休暇を十分に満喫できたことは無い。


「十分に満喫は出来なかったけど、楽しむ事は出来たわよね。いつになく大所帯だったし」


「そ、そうだね。と、友達もいっぱいできたし」


 学生らしく夏を満喫とはいかなかったけれど、例年とは違う夏を過ごす事が出来たのは確かだ。

十分に夏を満喫できたかと言われれば、まだまだ夏にやり残した事はあるけれど、不満があるかと言われればそうでもない。


 もし不満があるとすれば、海上都市で充分な活躍が出来なかった事くらいだ。


「あっ、そうだ。チェシャ猫」


 唐突にある事を思い出した朱里はチェシャ猫を呼ぶ。


 アリスの頭の上に居たチェシャ猫は、アリスの頭から降りると朱里の目の前に置いてあるテーブルの上に乗る。


「キヒヒ。何かあったのかい?」


「アンタ、エイボンって知ってる?」


「何だって?」


 何気なく聞いた朱里に、チェシャ猫は常の軽い調子の言葉では無く、思いがけずその名を聞いたと言ったような反応をした。


「その反応、知ってんのね、エイボンの事」


「なになに~? 香水の事~?」


「香水じゃ無いわよ。エイボン。魔導士エイボンよ」


「魔導士」


「エイボン?」


 魔導士エイボンという名に、全員が覚えが無いと言った顔をする。


 他の者がエイボンを知らないのは当然だ。知っていたら、報告に記載があるはずだ。


「さ、教えてくれるかしら? アイツが何者なのか」


「キヒヒ。さあね。(ぼく)も詳しくは知らないよ。ただ……」


「ただ?」


「……あまり、信用ならない男だよ」


「そりゃ見れば分かったわよ。アイツ、見た目胡散臭いもの。それ以上の事は知らないわけ?」


「キヒヒ。そうだね」


「はぁ……結局、何者なのよアイツ」


「そのエイボンっていう人もそうだけど、海上都市に居た人型の事も気になるわね」


 お茶を用意しながら、白奈が海上都市に居た人型二人の事を話題に上げる。


 海上都市の主である少年と、少年に仕える美女『乙姫』。


 海上都市は明らかに今までの異譚とは違っていた。今までの異譚には作意が感じられなかった。ヴルトゥームは別として、それ以外の異譚に意味があるようには思えなかった。


 だが、海上都市はアリスとの接触を図るための異譚だったように思える。


 更に言えば、少年と乙姫はアリスについて何か知っているようだった。


「そっちについては何か知らないわけ? 向こうはアンタの事知ってるみたいだったけど」


「キヒヒ。さぁ、どうだろうね。思い当たる節が無い事も無いけど……在り得ない事だからね。(ぼく)にも分からないよ」


「その思い当たる節ってな~に?」


「キヒヒ。大した事じゃないさ」


 笑良が小首を傾げて訊ねれば、チェシャ猫はキヒヒと笑って誤魔化す。


「その大した事じゃない事が、今一番知りたい事なんだけど?」


「キヒヒ。知っても意味は無いさ。君の知りたい事に直結しないからね」


「それはアタシが自分で決めるわ。なんでも良いから、知ってる事があるなら白状なさい」


 キッと目を鋭くしてチェシャ猫を見やるけれど、チェシャ猫はどこ吹く風。


「キヒヒ。(ぼく)にも守秘義務がある。それに、知ったところでどうしようもない事さ」


 まったく知っている事を喋る気配の無いチェシャ猫に苛立ちを隠さない朱里。


「アリス、アンタからも言ってやってよ! アンタだって、知りたい事あんでしょ?」


 このままでは埒が明かないと、朱里はアリスに水を向ける。


 だが、アリスは特に気にした様子も無く白奈が用意してくれたお茶を飲む。


「チェシャ猫」


「キヒヒ。なんだい?」


「言えない事なの?」


「キヒヒ。そうだね」


「じゃあ良い。私は聞かない」


 それで話は終わりとばかりに、テーブルに置いてあるお菓子に手を伸ばすアリス。


「ちょっと、それで良いわけ? アイツ等、アンタの事知ってるかもしれないのよ?」


 アリスの事、そして、有栖川春花の事を、少なくともアリスよりも知っている様子だった。


 アリスの事情を知らない者ばかりなのでかなり言葉を濁したけれど、アリスにはしっかりと朱里の言葉の意図は伝わっている。


 自分の知らない記憶を彼等が知っているはずなのだ。記憶喪失である春花(アリス)が知りたくないはずが無い。


「次に会ったら私が直接聞き出す。チェシャ猫が言えないなら、今はそれで良い」


「……あっそ。アンタがそれで良いなら良いわよ別に」


 完全に納得していない声音で言って乱暴にお菓子を食べる朱里。


 二人の会話の意味の殆どを理解できていない他の面々だけれど、海上都市の人型について何も進展が無い事は理解できた。


「……そういや、アイツにこんなん渡されたけど、コレについてはなんか知ってんの?」


 期待した様子も無く、朱里はポケットから一つのネックレスを取り出す。赤色の鍵をモチーフとしたトップの付いたネックレスだ。


 それを見た瞬間、チェシャ猫は真ん丸お眼々を細める。


「キヒヒ。それが何だかは分からない」


「そうよね。そうだと思った」


「けどね、用心しなよロデスコ」


 低く、真剣な声音でチェシャ猫は言う。


「それを使う時が来たのなら、その時は君が破滅する時だ。(ぼく)はそれを使わない事を願うよ。キヒヒ」


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