海水浴 5
ラスト
次から本編
お昼ご飯を食べた後、凛風のご要望通りにスイカを買いスイカ割りを開催する。
魔法で凛風に目隠しをして、凛風の手元に如意棒を模した棒を出現させる。
「あぁっ、アリスに目隠しされるとゾクゾクするネ!」
くねくねと身体をくねらせる凛風。
「気持ち悪い事してないで早くしてください」
チェウォンが呆れながらくねくねと気色悪く身体をくねらせる凛風を急かす。
「任せるネ! さぁ、指示を出して欲しいネ!」
「はいはい。真っ直ぐ歩いてください」
面倒臭そうにチェウォンが凛風に指示を出す。
「なあなあアリス」
「ねえねえアリス」
凛風のスイカ割りを見守っていると、唯と一がそれぞれ左手と右手を引っ張る。
「何?」
「ウォータースライダー作って」
「超弩級の奴を作って」
両方からアリスの腕を振って強請る唯と一。
アリスの魔法であればウォータースライダーを作るのは簡単だ。だが――
「……」
――ちらりとアリスは監視員を見やる。
先程、詩を埋めて怒られた。きっと、ウォータースライダーを作っても怒られる。危ないので止めてくださいとしっかりと怒られる。
「ダメ。怒られるから」
「怒られてからが本番」
「怒られてから考えれば良い」
「駄目ですよ。自分達が楽しければ良いだなんて」
「大丈夫、冗談で言ってるだけだから」
窘めるように言うチェウォンに、二人が本気で言っていない事を教えるアリス。
「どこまで進んだら良いカ? なぁ、聞いてるネ?」
「なら、砂のお城を作る」
「どでかいのを一緒に」
「そこそこの大きさなら、一緒に作ってあげる」
大き過ぎても怒られてしまうだろう。ある程度の大きさであれば、他の海水浴客も作っている。怒られていないところを見れば、他の利用客と同じくらいの大きさにすれば怒られまい。
「良いですね、砂のお城。私、これでも美術は得意なんです」
「ねぇ誰か見てるネ!? そろそろ指示出して欲しいヨ!?」
誰も指示を出さなくなったのでその場で立ち止まる凛風。
目隠しをして一人で立ち止まっている凛風を、通りすがる人は奇妙な人を見るような目で凛風を見ている。
アリスと唯と一はその場に座り込んで砂のお城を作り始める。
チェウォンもスイカ割りにはさして興味が無いので、凛風の様子を見ながら砂のお城作りを手伝う。
「ちょっと!? 指示、指示欲しいネ!」
「……AABB下下右A……」
「それじゃ分からんネ!? てか今の誰ヨ!?」
通りすがりの詩が適当な指示を飛ばす。
「三歩進んで振り下ろす。歩幅は五十センチ。三歩進んだら少しだけ右を向いて振り下ろせば当たるから」
「ちょっ、本当に誰ネ!?」
また知らない誰かからの指示に困惑しながらも、今までで一番まともに思える指示に従う凛風。
しかし、三歩進んで棒を振り下ろす。
だが、返ってくるのはスイカを割る感触では無く、砂を叩く感触。
「少しだけ右を向いてって言ったよね? なんで指示通りに動けないの? あたしちゃんと指示したよね?」
「厄介な指示中が居るヨ!! ねぇ、もっとちゃんとした人が良いヨ我!!」
「まぁ、失敗したから最初からやり直しよねぇ」
ベラが凛風の手を引いてスタート地点に凛風を戻す。因みに、指示中をしたのは珠緒である。ニヤニヤと楽しそうに笑いながら冷えたきゅうりの漬物を食べる。
「アリス、城門を作るべき」
「アリス、見張り台も必要」
「分かった」
手で砂を積んで形を作る。
「アリス、粘土細工用のかきベラを作っていただけますか?」
「分かった」
凝り性なのか、チェウォンは粘土細工用の道具をアリスに所望する。
アリスは魔法でかきベラを作り、チェウォンに渡す。
「ありがとうございます」
かきベラを受け取ったチェウォンは真剣な様子で砂のお城を作る。
「イルカ二頭分の距離よ。頑張りなさい」
「種類によるネ! なにイルカヨ!?」
「蘇我入鹿よ」
「それなんネ!?」
「日本の歴史上の人物よ」
「流石に知らないネ! 織田信長とかしか分からないヨ!」
「凛風、早く進みなさい。日が暮れちゃうわよ」
「だったらちゃんと指示出すネ!! さっきから誰もまともな事言ってないヨ!!」
ぎゃーぎゃー騒ぎながらスイカ割りを楽しむ少女達。
凛風達の様子を見ながら、アリスは砂のお城作りに専念する。
「アリス、チェウォン!! 助けて欲しいヨ! こいつら適当な事しか言わないネ!」
「スイカの声を聞けば簡単」
「スイカと心を通わせる」
アリスとチェウォンに助けを求めたにもかかわらず、返って来たのは双子のよく分からないアドバイス。
「訳わからない事言った奴は誰ネ!! あ、今のは分かったヨ!! 双子ネ!! 声がそっくりヨ!!」
双子は適当な事を言うだけ言って、自分達は砂のお城作りに夢中である。
結局、凛風がスイカを割ったのは三十分も後の事で、凛風は達成感よりもようやく終わったという疲労感で疲れた顔をしていた。
因みに、四人の作った砂のお城は出来が良く、四人は満足そうな顔をしていた。その後に待ち受けていた第二の写真撮影大会に辟易する事になるとは、この時のアリスには知るよしも無い事であった。




