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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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海水浴 4

 チェウォンと遠泳をして、行って戻ってくるだけでもそこそこの時間が掛かった。


「ふぅ……良い疲労感ですね、アリス」


「うん」


 ただ泳いだだけとはいえ、波のある海はやはりプールとは違う。


 元々運動の好きなチェウォンとしては程よい達成感があり、更に仲良くなりたいと思っていたアリスと一緒に泳げたことが達成感と満足感に拍車をかけている。


「楽しそうで良かったヨ。こっちは大変な目に遭ったネ」


 満足そうなチェウォンの所に、げっそりとした顔の凛風が歩いて来た。


「延々追いかけ回されて、二人にご飯奢るので許して貰えるはずだったネ。なのにそれ見てた全員に奢るはめになったヨ。持ち金全部持ってかれたネ……」


「貴女のは自業自得です。それに、女の子が好きなら奢ってあげるのは本望では?」


「奢る事に否は無いネ。でも、気分は誰でも引き落とし可能のATMだったヨ……。やっぱりムードは大切ネ。無感情に金をばら撒いても虚しいだけだったヨ」


「これを機に、セクハラ発言を控える事をお勧めします。さてアリス、私達もお昼ご飯にしましょう。私もうお腹ぺこぺこです」


 ぽんぽんっと自身のお腹を軽く叩きながら、チェウォンはアリスを昼食に誘う。


「うん」


 有り金を全て持って行かれた凛風を哀れには思いながらも、アリスもお腹は減っているのでチェウォンのお誘いを受ける。


「我も行くネ。そう言えば、奢るだけ奢って何も食べて無かったヨ……」


「有り金全部持って行かれたのでは?」


「奢って欲しいネ。お・ね・が――」


「嫌です」


「せめて最後まで言わせて欲しいヨ! うぇ~ん、アリス~、我に恵んで欲しいヨ~」


 悲しそうに眉尻を下げながらアリスに抱き着く凛風。


「別に良いけど」


「アリスぅ! やっぱり優しいネ! どっかの冷血女とは違うヨ!」


「誰が冷血女ですか。アリス、甘やかしては駄目です。彼女の自業自得なんですから」


「でも、倒れられたら面倒」


「なるほど。確かに、それはそうですね」


 可哀想とかそういう理由では無く、単に空腹や熱中症で倒れられても面倒だと思っただけであった。


 確かに、楽しく遊んでいる時に倒れられては皆のテンションも下がってしまうし、凛風も他の者も素直に楽しむ事が出来なくなってしまうだろう。


 総合的に考えれば倒れられるよりも、奢ってでも起きていて貰った方が後が楽である。


「あ、優しさとかじゃ無かったネ……」


「奢るだけ優しいと思ってください」


 アリスから凛風を引き剥がし、ずるずると引きずって海の家へと連れて行く。


 その後にアリスも付いて行く。


「サザエのつぼ焼き、おでん、たこ焼き、フランクフルト……結構種類があるんですね。目移りしてしまいます」


「我、おでんと焼き鳥の盛り合わせが良いネ。あとコーラ飲みたいヨ」


「中年男性みたいな食べ合わせですね。私はカレーで良いです」


「じゃ、じゃあ、わたしはサザエのつぼ焼きにしようかな? あ、お刺身の盛り合わせも食べようかな」


「それも良いですね。一つだけ頼んで、シェアするのも……って、貴女いつの間に!?」


 ごく自然にアリスの隣に座っていたので気付くのが遅れたけれど、いつの間にかみのりが昼食の席に加わっていた。


 えへへっ笑みを浮かべながらもアリスの隣から離れる様子は無い。


「私は焼きそばで良い」


 気配を消して自然に混じっていたみのりに驚いた様子も無く、自らの食べたい物を告げる。


「……アリスはまったく動じませんね。まぁ、良いでしょう。すみません、お願いします」


 チェウォンは近くの従業員を呼び、注文を伝える。


「午後は今度こそスイカ割りをするネ。逃げ回ってる時に、売店でスイカ売られてるの見たから、そこで買うヨ」


「お金も無いのに?」


「そこはほら、奢りでお願いするヨ。ね?」


 ぱちりとアリスにウィンクをする凛風。


 まぁ、アリスとしてもお店で買えるのであればその方が良い。魔法で全て補ってしまうのは商売の邪魔になってしまうし、魔法で何でもかんでも与えてしまっていては他の者にとってもあまり良い事では無い。


「一個だけなら買ってあげる」


「ありがとうネ、アリス! 愛してるヨ~! む~、ちゅっ!」


 口をすぼめてちゅっとわざわざ音に出す凛風にアリスは顔を顰める。


「わ、わたしも愛してるよアリス! ちゅっちゅっちゅっ!」


 凛風に対抗して、隣で愛してるアピールをしながらアリスに顔を近付けるみのり。


 アリスは鬱陶しそうにみのりの顔を押し退ける。


 その直後に、唐突にアリスの肩に誰かの腕が回される。


「ワシも、愛しとる。アリス~。ちゅっちゅっちゅっむちゅ~っ」


 突然腕を回して来たのはシャーロットであり、シャーロットは音だけでは無く本当にアリスの頬に何度も口付けをする。


「あ、あ、あ――――――っ!! だ、駄目だよぅ!! や、止めてよぅ!!」


 アリスの頬をついばみ続けるシャーロットの顔を押し退ける。シャーロットの反対側から押し退けているので、シャーロットとみのりでアリスをサンドイッチしている事にみのりは気付いていない。


 むぎゅむぎゅと左右から押され、アリスは面倒臭そうな表情を浮かべる。


「止めぬ。ワシの愛、ノンストップ」


「あ、アリスが嫌がってるよ! だ、だから駄目! って、お酒臭い! しゃ、シャーロットちゃん酔っぱらってるの!?」


 シャーロットの顔を見れば、確かにいつもより紅潮しているように思える。


「よ、酔ってるからって、変な事しちゃ駄目なんだよ!」


「いやそいつ、素面(しらふ)でもそんなんヨ」


「た、確かに! でも離れて!」


「ワシ、嫌な事にはノーと言う、イギリス人」


 アリスの頬にすりすりと自身の頬を擦り付けるシャーロットと、頑張ってシャーロットを剥がそうとして胸をアリスに押し付けるみのり。


「お二人共、アリスが困っていますよ」


「ほ、ほら! 困ってるって言ってるよ! は、早く、離れてぇ!」


「アリス、内心喜んでる。シャイだから、表に出ない」


 チェウォンが注意をするも、二人共聞く耳を持たない。


 アリスはもう諦めたのか、二人が騒いでいる間に従業員が置いて行った焼きそばに手を伸ばし、わちゃわちゃ揺らされながら焼きそばを食べる。


 最早全てを諦めきった様子で焼きそばを食べるアリスを見て、チェウォンと凛風は納得したような憐れむような目を向ける。


「慣れ……いや、順応ってやつネ」


「嫌な順応ですね」


 言いながら、二人も自分が頼んだ料理を食べる。


 結局、レクシーがシャーロットを迎えに来るまで二人の攻防は続いた。


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