海水浴 1
やっぱり書く事に決めました。
今後の展開的に入れられる隙が無さそうなので。
皆でプールに行った翌週、少女達は海水浴場へと来ていた。
メンバーは前回と少しだけ顔ぶれが変わっているけれど、主なメンバーは変わっていない。
だが、今回は春花としてでは無くアリスとしての参加になるので、事情を知らない者には春花とアリスでメンバーチェンジをしたと捉えるだろう。
今回も電車で移動をして、海水浴場へとやって来た。
少女達は海水浴場に併設されている更衣室へと向かったけれど、アリスはそのまま浜辺へと向かう。
海水浴場にいきなりアリスが現れたため、海水浴場は大騒ぎ。何せ、こういうレジャー施設にアリスが現れる事は無いうえに、そもそもアリスに会える機会が圧倒的に少ない。
皆、アリスに声を掛けて良いものか分からずに遠巻きに眺めるのみである。
注目の的となっているアリスは特に気にした様子も無く、魔法でビニールシートにパラソル、ビーチチェアとサイドテーブルを出現させるとビーチチェアに座り本を読む。アリスの足元に居たチェシャ猫はぴぴぴっと脚を振って肉球に着いた砂を落して、アリスの膝の上に乗る。
サイドテーブルには事前に買っていた飲み物を乗せる。グラスと氷を魔法で生み出し、飲み物をグラスに注ぐ。
一人でリラックスし始めたアリス。勿論水着は着ていない。
アリスは荷物番をするつもりで来たので、水着を着る必要が無いしなんなら持って来てすらいない。そもそも、アリスであれば着替えなど魔法でちょちょいのちょいである。皆に誘われれば、海に入るつもりではいるけれど積極的に入る事は無い。
「あ、アリス、場所取りありがとう」
本を読み始めたアリスに、水着に着替えたみのりが声を掛ける。
みのりの水着はフリルがふんだんに付いた花柄の可愛らしい水着を着ていた。手には浮き輪とビーチバッグを持っていて、アリスの敷いたレジャーシートの上にビーチバッグを置く。
「ね、ねぇ、どうかな? み、水着、似合ってる?」
両手を広げて自身の水着をアピールするみのり。
アリスはジッとみのりを見やり、少し考えた後感想を口にする。
「私にはよく分からないけど、違和感は無い」
「そ、そう。……ほ、褒められてる、のかな?」
「貶してはいない」
「そ、そっか。なら良いかな」
えへへっと微笑むみのり。
「番人御苦労」
「褒めてつかわす」
てててっと走って来て、レジャーシートに荷物を置き、すててっと走って海へと向かう唯と一。
「準備運動はしないと駄目」
「「ほーい」」
海へ走る二人の背中に注意をすれば、二人は適当に返事をし、その場でよく分からないダンスを踊ってから再度海へ走って行った。
唯と一が来てから、続々と水着に着替えた少女達がやって来て、場所取りをしてくれたアリスにお礼を言ってから海へと向かう。
みのりはアリスの隣に同じようにビーチチェアを出して貰って、アリスの隣に座ってリラックスする。
「なぁ、アリス。ちょっとお願いがあるんだけど」
水着に着替え終わった珠緒が、荷物を置きながらアリスに声を掛ける。
「なに?」
本から顔を上げて珠緒を見やれば、珠緒はアリスに近付いて視線をアリスの奥へ向ける。
「上狼塚がさ、プールん時と同じ水着なんだわ」
珠緒の視線の先を追えば、そこには餡子と笑顔でお喋りをしている瑠奈莉愛の姿があった。
餡子は可愛らしい水着を着ている。この水着は以前のプールの時と同じだ。前回と同じ水着を着ていても問題は無い。と言うか、殆どの者がそうだ。
問題は、瑠奈莉愛が着ている水着にある。
「スク水が悪い訳じゃないけどさ、皆と違うと疎外感あるんじゃないかなって……」
スク水、つまりは学校指定水着。
プールの時もスクール水着を着ており、春花は特に気になってはいなかったけれど、他の童話の魔法少女達は気を向けてはいた。
珠緒がお金を出すからレンタルで水着を借りてこいと言ったのだけれど、『自分これで十分ッス! お気持ちだけちょうだいするッス!』と言って、さっさと着替えてさっさと遊びに行ってしまった。
瑠奈莉愛としてはスクール水着で問題は無い。それに、先輩に奢られてばかりでは申し訳無いし、奢られる事に慣れてしまうのは自分にとって良くない事だと理解している。
スクール水着で問題は無いと思っているけれど、それで十分だとも思ってはいない。そして、その気持ちは他の少女が着ている可愛い水着を羨ましそうに見ている視線で良く分かる。
「金払うって言ったんだけど、奢られるのは申し訳無いって言ってさ。……あんたの魔法なら金もかかんないし、あいつも納得はするかなって」
春花やアリスにそこら辺の少女的な機微は分からないけれど、人の事をあまり気に掛けない珠緒がこれほど気に掛けているのであれば、きっと色んな人に筒抜けの思いではあるのだろう。
プールの時にアリスはいなかった。けれど、今回はアリスがいる。アリスの手間にはなるけれど、アリスにとっては大した手間では無い。
「分かった」
アリスは一つ頷き、丁度荷物を置きに来た瑠奈莉愛を見て人差し指をくるっと回す。
直後、瑠奈莉愛のスクール水着が光り輝き、次の瞬間には瑠奈莉愛の水着はビキニとショートパンツタイプの水着に変わっていた。ビキニの上にはチェックのシャツを着ており、スポーティーながらも御洒落な印象を与える恰好となっている。
「わわっ、な、なんッスか!? 急に水着が変わったッス!」
急に水着が変わった事に驚く瑠奈莉愛だったけれど、直ぐにアリスの仕業だと言う事に気付く。
瑠奈莉愛が何かを言う前に、アリスは本に視線を戻す。
「文句は受け付けない」
静かな声音でそう告げるアリス。知らない者が聞けばアリスに対して冷たい印象を抱くけれど、アリスを知る者であれば、アリスが相手に気を遣わせないために言っているというのは直ぐに分かる。
勿論、瑠奈莉愛もアリスの気遣いに気付いている。
「キヒヒ。楽しんで来なって事さ」
そして、チェシャ猫もにんまり笑顔でアリスの気持ちを代弁する。
「あ、ありがとうございますッス! 自分、とっても嬉しいッス!」
「良かったですね、瑠奈莉愛ちゃん!」
「はいッス!」
笑顔を浮かべ、感極まったのかアリスをぎゅーっと抱きしめる。
そんな瑠奈莉愛を見て、みのりは飲んでいた飲み物をぶーっと吹き出す。
「すっごい楽しんでくるッス!」
「そう。怪我しないようにね」
「はいッス!」
アリスから離れ、瑠奈莉愛は餡子と一緒に海へと走り出した。
その背中を見守ってから、再度本に視線を戻す。
「ありがとな、アリス」
「気にしないで良い。大した手間じゃない」
「それでも、ありがと。……じゃ、あたしも行ってくる」
ちゃんとお礼を言って気恥ずかしくなったのか、珠緒は照れたように顔を赤くしながら遊びに向かった。
再度その背中を見送り、そして再度本に視線を戻す。
視線が忙しい。本に集中できない。それでも、悪い気はしなかった。
「あ、アリス……わ、わたしもハグして良い? ダメ?」
いや、そうでもないらしい。
「駄目」
アリスはみのりの提案を拒否し、本に集中する。
アリスに断られ、しょんぼりするみのりをチェシャ猫がキヒヒと笑った。




