プール 7
とりあえずプール編は終わりです。
海回やるかは少し考えます。
「結局さ、アイツ勘違いしてんのよね」
一通り春花とチェウォンの様子を見終えた朱里達は、もう放っておいても大丈夫だろうと言う事でフードコートで休憩をしながらお喋りをしていた。
「勘違い?」
「そ。周りの人間に恵まれただけだなんて、そんな事在る訳無いのよ。アイツ、口は悪いけど礼儀正しいし、面倒見も良いでしょ? 周りが合わせてくれてるだけじゃ無くて、自分でも自然と合わせてんのよ」
ずごごっとジュースを飲み、ジアンは笑みを浮かべながら答える。
「そーそ! 自分から行くのは苦手ってのは合ってるけど、コミュニケーションがド下手って訳じゃ無いんだよねぇ」
「ファーストコンタクトで躓くタイプだよな、チェウォンって。後は順調なんだけどな~」
ユナも同意しながら、売店で買った焼きそばを食べる。
「ま、ファーストコンタクトが苦手でも、ウチの連中なら問題無いからね。全員、なんだかんだ物怖じしない奴らばっかだから、関係無く声掛けるだろうし」
「それに、チェウォンと面識がある子の方が多いものね」
「チェウォンが思っている以上に、ハードルは低かった訳だ」
「そういう事。仲良くなれるかどうかは別だったけど……もう打ち解けてるみたいだし、問題は無さそうね」
波のプールで楽しそうに遊んでいるチェウォン達を見てそう判断する朱里。
「けれど、どうして朱里が間を持たなかったんだい? 全部分かってたなら、君が行った方が話は早いだろうに」
「確かに! あの子……ありすがわくん、だっけ? 初対面のあの子に任せるより確実だったんじゃない?」
レクシーとジアンの言う通り、そこを理解しているのであれば朱里が間を取り持った方が話は早いだろう。それは、朱里も分かっているはずだ。
「アイツが先に相談を受けたんだもの。アイツが協力するのは当然でしょ。それに、そろそろアイツも、自分から友達作んないとね」
とはいえ、春花に同性の友人は居ない。朱里としては女性の友人だけでは無く、同性の友人も作って欲しい所ではある。ゆくゆくは、同性にしか出来ない相談も出てくるだろう。その時のために、同性の友人は居た方が良い。
「朱里、春花ちゃんのママン」
「あんな大きい子供産んだ覚えも無ければ、良い相手だって居ないわよ」
シャーロットの言葉に、非常に心外だとばかりに眉を寄せる朱里。
「でも確かに、朱里は有栖川くんの事をとても気に掛けているよね。今日のプールにも誘うくらいだし」
「だから、元々アイツと予定組んでたって言ったでしょ」
「元々予定を組む程仲が良いのだろう? 同性ならともかく、異性を相手にそこまで気に掛けるものかな」
探るような言葉、探るような視線。けれど、そこに問い詰めるというような思惑は無く、ただの興味本位であるという事はレクシーの少しからかうような笑みを見れば明らかだ。
「あれだけ可愛くても、彼は男の子だからね。ちょっと、気に掛けるには過剰のような気がするけど」
「確かに、元々予定組んでたとはいえ、女子だらけだったらリスケにしない?」
「ウチだったら、野郎共の中に女一人ってのは居心地悪ぃけどな」
ユナの言葉通り、春花も最初は居心地悪そうにはしていた。だがそれは、女性だらけだからという訳では無く、知らない人が多いからという理由だった。
「もしかして東雲、ありすがわくんの事……」
にやぁっと意地の悪い笑みを浮かべるジアン。
だがしかし、朱里は動揺した様子も無く呆れたような顔で返す。
「こっちにも事情があんのよ。アイツ、記憶喪失の上に家族居ないからね。それ以外にもアイツには色々事情あるし……」
思った以上に重たい事情が朱里の口から飛び出して来て、朱里を揶揄うつもりで居た三人は思わず笑みを消す。
家族が居ないだなんて話、魔法少女をやっていればよく聞く話だ。だが、記憶喪失は訳が違う。
「本人は気にしてない様子だけど、放っておくとずっと一人で居そうで怖いのよね、有栖川くん」
「……すまない、そんな事情があるとは知らず、茶化してしまって」
「ごめんねぇ……」
「悪かったね。調子に乗っちまったみたいで……」
「今日会ったばっかの奴の事なんて知らなくて当然よ。それに、アタシもちょっとスケジュールずらせば良かったかなって思ったりもしたし」
素直に謝るレクシー達に、朱里は特に気にした様子も無く答える。
確かに、女性だらけの中に男子一人というのは居心地悪いだろうと思ったけれど、『来る?』と聞いたら『行く』と言ったので、自分が様子を見つつ楽しめるようにすればいいと考えた。
それも必要無いくらいに楽しんでくれているのは嬉しい誤算だけれど。
「あんまし気にしないでよ。アイツだって気遣われても困るだろうし」
「そうね。自然体で接してあげて欲しいわ。ちゃんと楽しめてるみたいだし」
朱里と白奈に言われ、三人はこくりと頷く。
一人、たこ焼きをもぐもぐと食べていたシャーロットは、視線を遊んでいる春花に向ける。
「ワシ、良い事考えた」
「絶対に良くない事だろうが一応きいてあげよう。なんだ?」
シャーロットが何か言う前に既に呆れた様子で返すレクシー。
「ワシ、春花ちゃんのママなる。それで、全部解決」
「うん何も解決しない。問題が増えるだけだ」
とんでもない事を言い出すシャーロットに、レクシーは呆れながら返す。
「ワシの溢れる母性に、春花ちゃんメロメロ」
「母親なのにメロメロにさせてどうするの」
「アンタ母親をなんだと思ってんのよ」
白奈と朱里も呆れたようにシャーロットを見やる。
「余計な事しないで、いつも通り接してやってよ。アンタみたいなのでも、アイツにとっては友人かもしれないんだから」
「つまり、セクハラ公認?」
「やっぱアンタは接触禁止。さっさと国に帰りなさい」
「い・や・だ」
にひーっと笑って、シャーロットはタコ焼きとソフトドリンクの容器をレクシーに押し付けてから、春花の方へと走って行く。
「あ、こら! ゴミくらい自分で捨てろ!」
レクシーの言葉に耳を貸さず、シャーロットはすたこらさっさと走り去る。
だが、途中でずるっと足を滑らせて盛大に転ぶ。
「バチが当たったね~」
「プールサイドで走るからだろ」
盛大に転んでごろごろとのたうち回るシャーロットを周囲の一般客は遠巻きに眺める。
転んだシャーロットに気付いた春花がわざわざプールから上がり、シャーロットの元へと早足で向かう。
シャーロットは痛みに悶えながらもそのまま春花に抱き着き、春花と一緒にチェウォン達の元へと合流した。
文字通り、ただでは転ばないシャーロットの図太さに、全員呆れたような表情を浮かべた。




