異譚59 海上都市水没
爆睡してたので夜中の更新です。
ごめんね
山程ある巨躯を劈き、崩壊中の海上都市に止めを刺す。
これで地上戦は出来なくなるけれど、問題は無い。
空の川が崩れ、空を泳いでいた魚達は活力を失って重力に従って堕ちていく。
魚の雨を浴びながら、身体に穴の開いた羽付きは力無く海に沈んでいく。
致命の極光は違わず核を貫いた。この異譚ももう終わりだ。
アリスは致命の大剣を消し、いつもの姿に戻る。
「……っ」
ふらりと、アリスの身体が揺れ、そのまま倒れ込む。
「馬鹿。無茶し過ぎ」
それを見越していたのか、ロデスコが優しく受け止める。
「……でも勝った」
「そうね」
アリスを受け止めたロデスコは、そのまま空中で姿勢を変えてアリスを背負う。
流石にアリスも満身創痍を隠す様子も無く、ロデスコの背中に身体を預ける。
「……疲れた」
「色々あったものね……」
異譚以外にも、アリスの謎だとか、過去の知り合いだとか、頭を悩ませる問題が幾つか浮上した。アリスの方だけでは無く、ロデスコの方でも謎の青年が接触してきたりと問題は増えるばかりだ。
「それでも、終わったわね。なんとか」
「うん。なんとか」
鼻付きはともかくとして、羽付きはアリスの無限の致命の大剣が無ければ負けていた。本当に、ギリギリのところで勝利する事が出来たと言っても過言ではない。
自分の力だけではどうする事も出来なかった。
「……もっと強くなんないとね」
「うん…………」
こくりと一つ頷いてから、アリスはかくっと力無くロデスコの肩に頭を落す。
「アリス?」
そう言えば満身創痍だったと慌てて声を掛けるけれど、返って来たのは返事では無く、すぅすぅという健やかな寝息だった。
「……お疲れさん」
アリスを優しく背負いなおし、すっと二人の横にやって来た凛風達を見やる。
「海上都市には誰も残ってなかたヨ」
「撤退してる」
「退避してる」
三人は沈みゆく海上都市の上を飛び、逃げ遅れが居ないかを確認してくれていた。
ロデスコも向かおうとはしていたけれど、アリスがふらっとするものだからそちらを優先させた。
戦えない者は既に退避しているだろうし、何よりそんなに範囲が残っていなかったので、見回りだけであれば三人で事足りる。
「ありがと、三人共。それじゃ、アタシ達も戻りましょうか」
「そうネ。もう魔力からっけつヨ~」
疲れたぁと肩の力を抜く凛風。
「まだまだ」
「元気っき」
途中参戦のため、まだまだ余力の残っているヘンゼルとグレーテルは、ふんっと力こぶを作ってみせる。
「なら、戻ってから負傷者の治療の手伝いをしなさい。絶対に人手足りて無いだろうから」
「おけ」
「まる」
ばびゅんっとキャンディケインをかっ飛ばして航空母艦へと向かうヘンゼルとグレーテル。
二人を追って、ロデスコはゆっくり空を飛ぶ。
ロデスコの横に並び、觔斗雲の上に胡坐をかいて疲れたような顔で深く息を吐く。
「……めちゃ疲れたヨ。あの規模の敵の相手初めてネ」
「先帰ってて良いわよ。アタシはゆっくり行くから」
言って、ロデスコはアリスを背負いなおす。
「一応一緒にいるネ。三人なら、ギリ觔斗雲乗れるネ」
「アタシは魔力残ってるから平気よ。無理なら無理って素直に言うし」
「それでも一緒に居るヨ~。一人は寂しいネ」
「あっそ。なら好きにしなさい」
ロデスコだって凛風を追い払いたい訳では無い。本人にまだ余裕があるのであれば、好きにさせる。
異譚は終わったけれど、帰ったら今回の異譚のレポートやら性悪男共が残した謎について頭を悩ませなければいけない。一仕事終わったというのに、もう次の仕事の事を考えなければいけないと思うと憂鬱である。
「ふぅ……仕事が増えてやんなっちゃうわね、本当に」
「まずは休むネ。我、暫く日本で遊んでから帰るヨ。仕事はその後で良いネ」
元々、スケジュールもそのように調整しているし、本国にはまだまだ優秀な魔法少女が居る。凛風が少しの期間旅行をしても問題無いだろう。
「……確かに。アタシも夏満喫してないわぁ……プールも行きたいし、海も行きたいし、夏祭りも行きたいしぃ……」
結局、クルールー教団のせいで殆ど予定が潰れてしまった。
夏休みも折り返しを過ぎてしまっているので、残された時間はそんなに多くは無い。
「海には来たヨ」
「死を覚悟するレベルの海なんて来たって嬉しく無いでしょうが! あーもー仕事嫌! 何も考えたくない! 花の女子高生が仕事に忙殺されるなんておかしいわ! うん決めた! 帰って夏を満喫するわ、アタシ!」
「それが良いヨ。因みに、我も一緒に海とプール行くネ。勿論、アリスも来るネ?」
「色情魔連れてくと出禁になりそうだから、アンタはお留守番ね」
「嫌ヨ! 我女の子の裸体所望ネ! 絶対意地でも付いてくネ!」
「裸体なんて見られる訳無いでしょうが。プールなんだから水着に決まってんでしょうが」
「皆マイクロビキニ着れば解決ヨ! それに、更衣室で全員の拝むネ!」
「アンタやっぱ置いてくわ。いや、アンタだけ戻ったら即強制帰国ね。上に申請しておくから、安心して帰んなさい」
「い~や~ヨ~! 絶対我も行くネ! 置いてくなんて許さないヨ!」
わいのわいのと騒ぎながら航空母艦へと向かう二人。
かくして、海上都市は終わりを迎えた。
だが、それで全てが解決した訳では無く、多くの謎が残される結果となった。
存在しなかった異譚の暗幕。
アリスの過去を知る少年。
見るからに怪しい青年。
その他、多くの謎が残る結果となった。
帰ってもこの謎の解明のために頭を悩ませる事になるだろう。
だが今は、一度しかない高校一年の夏休みを十分に満喫しようと思う。
戦いだけが、魔法少女の生きる理由では無いのだから。
 




