異譚58 過去の余剰魔力
今年最後の更新です!
皆様、良いお年を!
鼻付きが倒されたのは、羽付きと戦っている二人も感知した。
「あっちは早いじゃない!」
「こっちもちんたらしてらんないヨ!」
とは言うけれど、未だに有効打になりうる攻撃を与えられていない。
鼻付きの核は眉間にあり、そこまで深い所には無い。
だが、羽付きの核は山程もある巨躯の中央にある。真正面から戦う必要が在る分、鼻付きも相当に厄介な相手である事は間違いないけれど、鼻付きの触手攻撃を捌けるだけの技量と、鼻付きの頑丈な身体を貫通できるだけの威力の攻撃があれば倒す事が出来る。
それも、生半な攻撃力では不可能ではある。覚醒したチェウォンの蹴りと、アーサーの聖槍あっての事だ。誰でも代わりが務まる訳では無い。
鼻付きが終わったのであれば、アーサーには羽付きを手伝って欲しいのだけれど、負傷者の撤退の補助をしているので文句は言えない。
鼻付きを倒したからと言って、巨大な半魚人やその他の半魚人が居なくなる訳では無いのだ。巨大な半魚人を相手に間違いなく勝利を収める事が出来るアーサーが居た方が撤退も捗る。
アリスもあれ程の攻撃を受ければ戦線離脱は必至だろう。
ロデスコと凛風、ヘンゼルとグレーテルの四人で倒すしかない。
だというのに、山程の敵を打ち崩すだけの決定打が無い。
このままではタイムリミットが来て、羽付きは海の中に姿を隠してしまう。そうなれば、今のメンツでの追跡はほぼ不可能。仮に追跡出来たとしても、残りの魔力量や一番近い陸地への距離を考えても、最後まで追跡する事は不可能だ。
次善の策として上陸予想地点の住民を避難させて、限定された地域を決戦場として――
「って、ぐだぐだ考えてる場合じゃ無いでしょ!!」
次なんて考えている場合では無い。この場で決める。この場で終わらせる。
何度も、何度も、何度も、ロデスコは羽付きに蹴りを食らわせる。
最高速度が出せず、最高火力には届かずとも、高火力を誇るロデスコの蹴りだけれど、羽付きの巨躯を削り取るには時間が掛かる。
「――ッ!! ロデスコ、マジで時間無いヨ!!」
長時間の戦闘に加え、超重量である羽付きが攻撃のたびに身動ぎをするので、海上都市の崩壊を早めてしまっていた。
海上都市が沈んでいく。
最早、羽付きを浮かせるギリギリの浮力しか残っていない。
羽付きは魔法少女達を倒すよりも、海上都市から降りる方が早い。それを理解しているのだろう。羽付きは魔法少女達に構う事も無く、海上都市から降りようと動き出す。
少し動けば羽付きは海上都市から降りられる。だが、それを止める術は無い。
「くっ、ならアタシが――」
ロデスコが一か八かの最高火力を叩きこむために距離を取ろうとしたその時、極光が羽付きに直撃する。
「――ッ、ったく、遅いっつうの!!」
極光の主に文句を言いながら、ロデスコは極光が放たれた方を見やる。
そこには、満身創痍ながらも致命の大剣を構えるアリスの姿があった。
「アリス!! 時間が無いわ!! 見て分かるでしょうけど!!」
満身創痍だけれど、此処まで来たのであれば戦えると言う事だ。
猫の手も借りたい現状、満身創痍だろうが戦場に来たのであれば戦ってもらう。
「分かってる」
アリスだって勿論そのつもりだ。
それに、今の自分であれば確実に勝てるという確信がある。
死にかけた時に何か見ていた。その見ていたものが何かは分からないけれど、致命の大剣の本来の力の一部を理解する事が出来た。
今のアリスの致命の大剣の威力では足りない。それは、先程と変わっていない。
だが、まったくダメージが無い訳では無い。ロデスコや凛風と同じように、少しだけれど確かに削れている。何度も攻撃を続ければ核に届くだろう。
アリスは致命の大剣を構え、迷わず極光を放つ。
放たれた極光は羽付きに直撃をする。
「馬鹿! 闇雲に撃ったって意味無いでしょ!」
「闇雲で良い」
今のアリスは節約だの効率だの考えてはいない。なにせ、その必要が無いのだ。
致命の大剣からは致命の極光が放たれ続ける。
五秒、十秒、二十秒、三十秒――止まる事無く、致命の極光は羽付きを穿ち続ける。
「どう言う事……?」
明らかな異常事態。幾らアリスの魔力量が膨大とは言え、こんなに長く致命の極光を放ち続ける事は不可能だ。とうに致命の極光の上限回数よりも魔力量を放出している。
こんなの普通じゃない。
この光景を目の当たりにしているロデスコ達の驚愕を尻目に、アリスは致命の極光を放ち続ける。
死の淵で見た、致命の大剣の本質。
致命の大剣の古代的な意匠の部分が光り輝く。
この古代的な意匠の部分はただの飾りでは無い。まぁ、意匠なので飾りではあるのだけれど、意味の無い装飾では無い。
致命の大剣に備わった致命属性以外の能力。その内の一つに、過去に生じた余剰魔力を現代に引っ張ってくる、という能力がある。
過去の全ての時間に生じる、物体、空気、人間、生物――つまり、世界中で生じた全ての余剰魔力をアリスは使う事が出来るのだ。
過去全ての時間に生じた余剰魔力は、アリスの致命の大剣の一撃で消費する魔力量なぞ大した事が無いくらいに存在している。
故に、ほぼ無限に致命の極光を撃ち続ける事が出来る。
羽付きに無限の致命を浴びせ続ける。
一回で駄目なら、無限に、死ぬまで、浴びせ続ければ良い。
羽付きは致命の極光を浴び続け、オーボエのような悲鳴を上げる。
アリスに向けて高圧の水や、魚の群れが殺到する。
「させるかッ!!」
「やらせる訳無いネ!!」
「以下」
「同文」
アリスの攻撃の異常性に驚くけれど、アリスの無限に続く致命の極光が最後の頼みの綱である事は即座に理解した。
だからこそ、アリスのサポートに徹する。致命の極光を放ち続ける無防備なアリスを護る。
アリスは仲間を信じて致命の極光を放ち続ける。
だが、羽付きはオーボエのような叫びを上げながらアリスを睨み付ける。
「この……それなら……ッ!!」
致命の極光の出力を上げる。
無理矢理魔力を放出するものだから、体中が悲鳴を上げる。
過去の余剰魔力を引っ張って来られるとは言え、一度に放出できる魔力量を超える事は出来ない。
言うまでも無い事だが、限界を超えれば身体に負荷がかかる。
それでも、アリスは限界を超えた出力で致命の極光を放ち続ける。そうでもしなければ、羽付きを倒せない。
「さっさと!!」
力の限り声を上げる。
致命の極光の出力が更に上がる。
致命の極光は羽付きを穿つ。穿つ。穿つ。穿つ。穿って、最後に――
「倒れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
――羽付きを劈いた。




