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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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異譚52 暗い暗い水底へ

 大量に降り注ぐ飴の雨。


 それが異常事態では無い事を、アリス達は良く知っている。


 全員がいったん羽付きから距離を置く。その直後、飴の雨が一斉に爆発する。


 お菓子を爆発させる事が出来る魔法少女なんて、アリスは二人しか知らない。


「ヘンゼル、グレーテル。どうして此処に」


 キャンディケインに跨って空をビュンビュン飛んで飴を落すヘンゼルとグレーテル。


 彼女達は航空母艦で待機となっていたはずだ。それがどうして前線まで出張ってきているのか。


 ヘンゼルとグレーテルの予想外の出撃に困惑していると、アリスの頭にぽんっと軽い衝撃が訪れる。


「あ、アリス、大丈夫!?」


 頭上から聞こえてくる聞き慣れた声。


「サンベリーナ。貴女も、どうして此処に?」


「か、核の反応が二つあったのと、海上都市が崩壊しそうだったから、全戦力投入って事になったんだよ! う、海に入られたら、手出しが難しくなるからね!」


「なるほど」


 確かに、海に潜られては手を出すのは難しい。難しい戦況に備えて戦力を温存するよりも、敵を叩きやすい状態で全戦力を投入した方が勝率は高くなる。


「サンベリーナも補助魔法をお願い」


「わ、分かったよ!」


 羽付きの攻撃は一撃でも食らったら即死だ。そのため、回復魔法は使う事が無いのでサンベリーナには補助魔法に専念してもらう。


「ヘンゼル、グレーテル! こっちは気にせずに削り続けて!」


 アリスが声を張り上げて言えば、ヘンゼルとグレーテルは手をぶんぶん振って答える。


 ヘンゼルとグレーテルの飴爆弾の落下速度はそんなに速くは無い。アリス、ロデスコ、凛風の機動力であれば余裕で回避が可能だ。


 また、ヘンゼルとグレーテルも絨毯爆撃には慣れているので、三人の動きを見て爆破のタイミングをずらす事は可能だし、三人の手が回っていない場所を爆発する事で満遍なく相手にダメージを与えられる。


 それに、これだけの巨躯だ。三人にあまり気を遣わずに爆撃する事が出来る。


 ヘンゼルとグレーテルはアリスの言葉通り、容赦無く爆撃を続ける。


 そんな二人を煩わしく思ったのか、水の奔流は上空を飛ぶヘンゼルとグレーテルまで伸びる。更に上空に範囲を広げる空の川からは魚の群れがヘンゼルとグレーテルに向かって殺到する。


「焼き魚」


「炙り焼き」


 背後から迫る魚の群れに、幾つもの小さな飴玉をまき散らして爆撃するヘンゼルとグレーテル。


 ヘンゼルとグレーテルはアリスやロデスコのように一撃の最高火力がずば抜けている訳では無い。だが、高火力の攻撃を幾つも同時に放つ事ができ、大勢の敵を雑に間引く事が出来る。


 雑魚を間引きながら、羽付きを雑に爆撃していく。羽付きの巨躯に比べて爆発の規模は小さいけれど、塵も積もれば山となる、だ。


 爆撃の合間を縫って、ロデスコは羽付きに蹴りを放つ。


 並み居る異譚支配者であれば簡単に両断できる威力の蹴りだけれど、表層が抉れる程度しかダメージを与えられない。


 ヴルトゥームの時のように力を溜める余裕が無い事もそうだけれど、羽付きが頑丈過ぎるのも問題だ。


 いや、それも言い訳だ。純粋に火力が足りていないだけだ。


 姿が変わる程に強くなっても、まだ足りない。


「まだ、まだまだ!」


 即座に距離を取り、再度同じ個所に蹴りを放つ。


 別々の所を攻撃しても効果は薄い。同じ個所を攻撃し続け、核まで到達するのが最適解だ。


 凛風も同じ考えなのだろう。如意棒で同じ個所をずっと穿っている。


 アリスも致命の大剣(ヴォーパルソード)を振りかざし、致命の極光を羽付きに放つ。


 致命の極光は羽付きを穿つけれど、中心部に位置する核まではまったくと言っていい程届いていない。


 威力だけで言えば、アリスの致命の大剣(ヴォーパルソード)が一番ダメージを与えられてはいるのだけれど、それでも核までは届かない。


 攻撃だけで言えば、三人は世界最高峰の魔法少女と言えるだろう。その三人が集まってなお体表しか削れないのは異常事態と言っても過言ではない。


「あ、アリスの致命の大剣(ヴォーパルソード)が全然効いてない! ど、どうしよう!?」


「どうするもこうするも、効くまで攻撃を続けるだけ」


 とはいえ、致命の大剣(ヴォーパルソード)も無限に放てる訳では無い。


 回数制限が緩和されはしたけれど、上限は存在している。現状、残りの魔力量を鑑みるに致命の大剣(ヴォーパルソード)を放つのは後五回が限度だ。


 後五回で羽付きの頑丈な身体を貫けるかどうかは、正直分からない。全員で同じ個所を攻撃出来れば話は変わってくるのだろうけれど、高速で動き回りながら三人が同じ個所を攻撃するとなると、接近が必要になるロデスコを巻き込んでしまう可能性が出てくる。


 三人が三か所から攻撃するのが現状ではベストだ。だが、現状でのベストがいつでも最適解になる訳では無い。


 火力が足りない。力が足りない。魔力が足りない。何よりも時間が足りない。


 この姿のまま(・・・・・・)では(・・)、絶対に勝てない。


 もっと強くならなければいけない。もっと、もっと、もっともっと強く。


 あの時の、この姿を手に入れた時の感覚を思い出せ。あの時の、自分の中の枷を外す感覚を思い出せ。


 一瞬、ほんの一瞬だけ、意識を内側に向けてしまった。


「あ、アリス!!」


「――っ!!」


 その一瞬が、高速戦闘では致命的だった。


 気付けば目前まで迫っていた羽付きの腕。


 アリスは咄嗟にサンベリーナを掴み、マーメイドに押し付ける。


 風を起こしてマーメイドとサンベリーナをアリスから急速に引き離す。


 その直後、羽付きの腕がアリスに衝突する。


 全身の骨が折れ、全身の肉が潰れる。


 その感覚を自覚する事無く、アリスは大きく吹き飛ばされる。


 地面に叩き付けられ、地面を抉り、崩壊した建物を更に崩壊させながら、アリスは吹き飛ばされる。


「アリス!! ――っ、クソッ!!」


 吹き飛ばされたアリスを追おうとするが、マーメイドとサンベリーナの二人の方が危険であると瞬時に判断したロデスコは、アリスの方では無くマーメイドとサンベリーナの方へと向かう。


 地面を転がったアリスはそのまま海上都市の外、海中へと落下する。


「――ッ!! アリスが落ちたヨ!! 誰か救援を頼むネ!!」


 凛風が声を張り上げるが、全員目の前の敵で手一杯だ。誰も手を離せる状態では無い。


 アリスは血を流しながら水底(みなそこ)へ沈んでいく。


 冷たい水に包まれ、どんどんどんどん沈んでいく。


 水底の暗い闇に沈んでいく。


 誰も来ない、誰の声も届かない、暗い暗い水底へ。


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[一言] 怖ぇ~!この作品怖ぇ~!
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