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魔法少女異譚【書籍化決定】  作者: 槻白倫
第1章 漁港の王様

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ケーキバイキング 1

女の子達がケーキを食べるだけです。

 白を基調としたお洒落で可愛らしい空間。


 清潔感もあり、飲食店としてはこれ以上ないくらいに見た目に気を遣っている。SNS等に発信をする若者向けに内装の(おもむき)は新しくもオーソドックスさを保っており、見事にバランスの考えられた内装と言えるだろう。


 またメニューも豊富であり、タルトやスフレにショートケーキ等々、いろどりみどりに並んでいる。


ビュッフェスタイルで直ぐに手に取れるのに加え、味も良しとあれば食の手も進むというものだ。


 店内の清潔さに加え味も良い。となれば、甘い物好きが集まるのもまた道理であり、SNS()えを目的に若い少女達が集まるのも当然の事であろう。


 そして少女達と言えば、彼女達もまた立派に少女であるからして、有名なこの店に集まったのもまた道理とも言える。


 わいわいがやがや。


 店内の騒めきがいつもよりも数段大きいのには理由がある。


 二つのテーブルに六人と五人で別れて座る見目麗しい少女達。


 見目麗しい少女達に視線が向かってしまうのは致し方ない事ではあるけれど、理由は決してそれだけでは無かった。


「アリスちゃんこっちむいてー。あー、反れないで反れないで。もっと寄ってよー」


 笑良に腕を組まれ、無理矢理写真を撮られる仏頂面のアリス。


「はぐはぐ! もぐもぐ! むぐむぐ!」


 笑良とアリスを挟むようにして座る瑠奈莉愛は、バクバクと豪快にケーキを食べ続けるマシーンと化している。最早その目にはケーキしか映っておらず、ケーキ以外を気にしている様子も無い。


「ほらアリス、こっち向きなさい。ちゃんと笑顔して、ほら」


 笑良の対面に座る朱里はアリスと笑良をフレームに入れて撮影し、即座にSNSに投稿する。因みに、アリスはあまり対策軍本部から出歩かないので、アリスのプライベートの写真は貴重である。


「一、次を取りに行こう」


「唯、お茶を取って来るよ」


 アリスと瑠奈莉愛の対面に座っている菓子谷姉妹もまたケーキを食べるマシーン、とまでは行かないものの、その小さな身体のいったいどこにそれだけ入るのか不思議なくらいにケーキを食べている。


「ちっ、あっま……良かった、カットフルーツあって……」


 アリス達の横に位置するテーブルでは、珠緒がケーキを一口食べて嫌そうな顔をしてから、隣に座るみのりの前にずらす。


「あ、え、あ……い、いただきます……」


 みのりは珠緒の食べかけのケーキから先に食べ始める。正直、アリスの隣に座りたかったけれど、笑良と瑠奈莉愛に先を越されてしまったので、断念して横のテーブルに座っている。


「餡子ちゃん、美味しい?」


「ふぁい! おひひいへふ!」


「そ、良かったわ」


 白奈は対面に座る餡子を気にかけながらも、自身もケーキを食べて顔を綻ばせる。


「……」


 餡子の横に座る詩は黙々ちまちまとケーキを食べる。


 そう。二つのテーブルに童話の魔法少女が勢揃いしているのだ。あまりに珍しいその光景に、誰もが興味を向けるのは致し方のない事であろう。


 やっぱり来なければ良かったと溜息を吐くアリス。


 今回ケーキバイキングに来たのは、前回の異譚の際に止めを譲った朱里との約束があったからだ。


『ケーキバイキング。アンタの奢り』


『分かった』


 と、頷いてしまったので、アリスは非常に仕方なくここに来ている。


 因みに、恰好はいつもの空色のエプロンドレスなのでとても目立つ。しかし、変身を解いてしまえばアリスではなく有栖川春花になってしまうので、変身したままでいなければいけない。


 アリスの体形に合った服など持ち合わせてもいないので、そのままの恰好で来たのだ。


 来てしまったからには仕方ないので、アリスはケーキをもそもそと食べる。


「……アンタ、ケーキ食べる時くらい愛想良くしたら?」


 呆れたように朱里が言えば、笑良がアリスのほっぺをくにくにと上に引っ張る。


「そーいえば、アリスちゃんの笑顔見た事無いかも」


「一も」


「唯も」


「ちょっとアリスちゃん笑ってみて?」


「いや」


 笑良の手を振り解き、アリスはケーキを食べる。


「……そーいや、アタシが入りたての頃は何度か笑ってたような……」


「ほんと?」


「ええ。くっそぎこちなかったけど」


 朱里が入りたての頃は、童話はアリスしかいなかった。そのため、必然的に先輩もアリスだけになり、先輩としてどうにか接しようとした結果のぎこちない笑みである。


 沙友里に言われたというのもあるけれど、それ以上にある人物の影響が大きい。それを語るつもりは無いけれど。


「アリス。笑って」


 笑良がにいっと自身の両頬に人差し指を添えて笑って見せる。


「いや」


「もー、つれなーい。アリスちゃん、笑ったらもっと可愛いと思うんだけどなー」


「別に可愛くなくて良い」


 アリスにとって外見など些末な問題だ。目的を果たすために必要な物ではないのだから。それに、アリスは本来は男である。可愛いと言われてもそんなに嬉しくない。


「てか、そんなにちまちま食べてて大丈夫なわけ? ここ時間制でしょ?」


「大丈夫」


「大丈夫って……まだ一個しか食べて無いでしょーよアンタ」


「三人が元取ってくれる」


 言って、アリスはばくばくケーキを食べ続ける瑠奈莉愛と菓子谷姉妹を見やる。


 先程から何度も何度もお代わりを繰り返している三人。三人が食べる量を見てスタッフも若干引いているので、元を取れるどころか黒字にするくらいまでには食べている事だろう。


 そんな三人を見て、朱里も引いたような顔をする。


「……ま、アンタが良いなら良いけど」


「アリス、一個しか食べてない?」


「アリス、それは良くないと思う」


 言って、菓子谷姉妹はフォークに差したケーキを差し出す。


「アリス、食べて」


「アリス、食べて」


 対面からフォークを突きつけてくる菓子谷姉妹。


 俗にいう『あ~ん♡』というやつだけれど、別段心は踊らない。そんな甘ったるいものではない事は、二人の真剣な目を見れば分かるからだ。


 お菓子大好きな菓子谷姉妹は、お菓子に関しては妥協しない。それは、自身達もその他に対してもだ。


 なので、本気でケーキを食べていないアリスを案じている。


「……」


 菓子谷姉妹の無言の圧力。二人がこうなったら引かない事をアリスは知っている。


 アリスは眉根を寄せた後、嫌そうな顔をしながらも唯から差し出されたケーキを食べ、飲み込んだ後に一の差し出すケーキを食べる。


 その様子を見ていた周囲の者はきゃーきゃーと騒ぎ、笑良はにっこにこで写真を撮り、朱里はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら写真を撮っている。


 しかして、大真面目な菓子谷姉妹は満足そうに頷く。


「アリス、ケーキをたらふく食べるの」


「アリス、それがケーキバイキングの嗜み」


 言って、二人はお代わりを取りに行くべく席を立った。


「マイペース……」


「アンタが言うか」


「ふふっ、アリスちゃんは我が道を行く、だからねー」


「それ、褒めて無いでしょ」


「ふふー、褒めてるよー」


 ぷにぷにとアリスのほっぺを突く笑良。


「せ、席替え!!」


 そんな様子を見ていたみのりが、横のテーブルから身を乗り出して声を上げる。


「席替えを要求します!!」


「いや合コンか」


 みのりの言葉に、珠緒がツッコミを入れる。


「アンタ合コンなんて行った事無いでしょ」


「は? あんただって無いでしょ。ステータス汚したくないものね」


「はー? ありますけど何かー? アンタと違って経験豊富ですけどー?」


「あ? 尻軽かよ。ステータス汚れまくりじゃん」


「汚れてませんー。モテる女の嗜みってやつですー」


「自意識過剰乙。あんた言うほどモテないわよ」


「あーはいはい。女の僻みって醜いわよねー」


「いい加減になさい。お店で喧嘩しないの。……何のために貴女達を一番遠い席にしたんだか……」


 一番遠い距離なのに喧嘩をする朱里と珠緒の間に入る白奈。


「じゃあ、アリスちゃんだけ移動しましょうか。みのりちゃん、アリスちゃんとイチャイチャしたいだけみたいだしねー」


「い、いいいいいイチャイチャだなんてそんな! で、でも……出来るなら、あ、あーんとか、したいですけど……」


 頬を赤らめてもじもじするみのりを見て、珠緒がうげーっと嫌そうな顔をする。


「じゃあ、アリスちゃんは向こうね」


「……話がどんどん進んで行く……」


 溜息を吐きながら、アリスは席を立つ。


 一度瀕死になり、みのりや白奈には心配をかけさせてしまった。それを考えれば、アリスに拒否権など在って無いようなものなのだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] 日常パート良いですね! そういえば過去作も読まさせてもらったのですが、この作品は前の作品とは繋がってるお話ではないのかな 記憶喪失だったりするし笑良ちゃんいるしどうなんだろ?
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