異譚50 飴雨
滑り込みセーフ
短めです
鼻付きを他の面々に任せ、アリス達は羽付きと戦闘を開始する。
圧倒的な巨体。身体の中心に位置する核を破壊するのは容易ではない。
柔らかそうに見える外皮だが、アリスの致命の大剣とロデスコの必殺の威力を持つ蹴りですら、一番細い部分である羽の付け根を破壊するのが関の山だった。
だが勝機が無い訳では無い。
羽が再生していない事から考えても、羽付きに再生能力は備わっていない。つまり、破壊し続ければ勝てる。
ロデスコは炎を纏いながら羽付きに蹴りを叩き込み、羽付きの身体中にクレーターを作っていく。
凛風も如意棒を使い、羽付きの全身を滅多打ちにしている。
羽付きもアリス達を敵と認識したのか、その視線は縦横無尽に空を飛び回るアリス達を追っている。
羽付きの動き自体は鈍重だ。腕を振り回してはいるけれど、高速で動くアリス達を捉える事は出来ない。
巨大質量を叩き付けられればいくら魔法少女と言えどもひとたまりも無いけれど、当たらなければ問題は無い。
「硬いネ! これじゃあ時間すっごいかかるヨ!」
「黙って攻撃する! 今は少しでもコイツにダメージ与えるしか無いんだから!」
ヴルトゥームを容易く貫いた蹴りも、触手の異譚支配者を貫いた如意棒も、硬質な巨躯を誇る羽付きにはちょっとした痛痒程度にしかならない。
海上都市崩壊まで時間が無い。このままのペースだとタイムリミットまでに削り切れそうにも無い。
だが、更に最悪な現状に拍車をかけるように事態は急変する。
割れた地面から吹き出す水が、突如として空へと舞い上がる。
通常では在り得ない軌道と在り得ない上昇をする水の奔流は、空を飛ぶ四人へと高速で迫る。
下から迫る水の奔流を回避するも、水の奔流は幾つも現れ、空中に軌道を残しながら魔法少女達に迫る。
「追尾とかキモッ!!」
「空中にも水の奔流が残ってる。まだ何かあるかもしれないから気を付けて」
「見れば分かるヨ――どぅえぇぇぇぇぇ!? アリスがいつの間にか褐色美人になってるヨ!? エキゾチックでドスケベネぇぇぇぇぇ――――」
変態的な感想を言いながら水の奔流から逃れるために遠ざかっていく凛風。
緊急事態でもいつも通りの凛風に呆れつつ、アリスは致命の大剣を放つ。
致命の極光は狙い違わず――外す方が難しいけれど――羽付きに直撃する。
だが、致命の極光は羽付きの体表にクレーターを作るに留まる。
ダメージにはなっているけれど、致命には程遠い。
「致命の大剣も形無し……」
言いながら、迫る水の奔流から逃れるために空を飛ぶ。
水の奔流は宙を流れる川となっている。その川から魚の群れが飛び出してくる。
奇妙奇怪な見た目をする魚の群れは、形も大きさも違う。だが、群れの魚の全てがこの世のモノとは思えない見た目をしている。
それが空を泳いでアリス達に殺到する。
アリスは雷を放ち全て焼き尽くすけれど、範囲攻撃を持たないロデスコは追い付かれないように動き回るしかない。
「焼き魚にしてやるヨ!!」
凛風は多種多様な妖術を持っているので、問題無く対処をしている。巨大な火球を生み出して魚の群れを焼いていく。
対処をする対象が多くなれば、それだけ羽付きに対処をする時間が減っていく。
空の川から出てきたのは魚の群れだけでは無い。間欠泉のように勢いよく高速で噴き出す。たまたま間欠泉のように噴き出した水の射線上に居た魚の群れが、その水に触れただけで身体が千切れる。
恐らくはウォーターカッターのようになっているのだろう。魚の群れは大した事のない強度だけれど、恐らくは魔法少女の身体であっても簡単に両断されてしまう事だろう。
そんな高出力の水の奔流が川と川を繋ぐように伸びる。
地上よりも自由に動けるはずの空で動きを制限される。
アリス達はアクロバット飛行を強いられながら、水の奔流の合間を掻い潜り、魚の群れを迎撃し、その上で羽付きを倒すために攻撃をしなければいけない。
それだけでも大変だというのに、更に事態は激化する。
空の川から水の刃がアリス達に向かって放たれると同時に、水の竜巻が幾つも出現する。
「目まぐるしいナ!?」
「どんだけ引き出しあんのよコイツ!!」
多種多様な攻撃もそうだけれど、問題なのは相手の攻撃に際限がない事だ。
恐らく、水があれば何でもできる。そして、水瓶座の魔法少女のように水に触れると言った魔法を行使する上での条件は無い。そこに水があれば、自由自在に操る事が出来る。
海が戦場である限り、向こうの方が物量が上なのだ。
アリスも竜巻を生成して水の竜巻を相殺するけれど、直ぐにまた別の竜巻が生成される。
「キリが無い……!!」
羽付きの攻撃の隙間を縫ってロデスコが蹴りを叩きこむも、十分な速度が出せずにろくな威力にならない。
水の攻撃は更に苛烈さを増していく。
圧倒的に手が足りない。幾らアリスの魔法が万能でも、相手は万能を押し潰すだけの物量を持っている。
致命の大剣も殆ど通じない。
事態の打開策が見つからない。悪化の一途を辿る戦況。
だがその時――
「飴雨触れ触れ」
「フレーフレー」
――周囲に飴の雨が降り注いだ。




