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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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異譚48 海上都市崩壊

 異譚支配者を倒すため、空を飛んで急行する四人。


「で! どっち行くネ!」


「「強い方!!」」


「どっちも強いネ! 見れば分かるだロ! 敵との相性考えて喋るヨ!」


「相性とか、私には関係無い」


 アリスの魔法は自由自在。相性や有利不利なんてものは無い。


 最悪、致命の大剣(ヴォーパルソード)なら一撃で倒す事が出来る。だからこそ、強い方を受け持つ。


「大きい方が強そうだから、私達は大きい方を選ぶ」


「どっちも大きいでしょうが」


「じゃあ、羽付き」


「小さいのは?」


「鼻付き」


「だっさい名前ね」


「名前なんてどうだって良い。とにかく、私達は羽根付きをやる。二人は鼻付きをお願い」


 私達の括りがアリスとロデスコではなく、アリスとマーメイドである事に気付いたマーメイドは歌いながらいやいやと首を振り、鼻付きの異譚支配者を指差す。


 その指をぎゅっと握って見なかった事にして、アリスは羽付きの異譚支配者へと飛ぼうとする。


 だが、アリスが向かおうとしたその時、羽付きが羽を羽ばたかせ、空を飛び始める。


「ロデスコ!!」


「分かってるわよ!!」


 二人は即座に行動に移す。


 羽付きの向かう先など、観察しなくとも分かる事だ。大陸に向かい、破壊の限りを尽くす。


 現状、空で戦える人数が少ない。であれば、自分達のやるべき事ははっきりしている。


 高速で羽付きに迫る三人。顔面に暴風を受けながら頑張って歌うマーメイド。


 アリスは致命の剣列(ヴォーパルソーズ)から致命の大剣(ヴォーパルソード)に持ち替える。


 ロデスコは具足に炎を溜める。


「燃えろ、赤い靴(ロデスコ)!!」


 赤熱し、流星の如く羽付きへと飛翔する。


 アリスは致命の大剣(ヴォーパルソード)を構え、致命の極光を放つ。


 流星と致命の極光は狙い違わず羽の根元を貫き、空に浮いていた巨体が重力に従って落ちていく。


「硬い……」


 致命の大剣(ヴォーパルソード)で羽を根元から千切る事は出来たが、今の致命の大剣(ヴォーパルソード)ではそれ以上の傷を負わせる事は不可能だった。


 あわよくば少しでもダメージを与えようと本体にも当たるようにしたが、本体を少し穿った程度だった。それでも、普通の異譚支配者であれば身体が全て吹き飛んでいる程の威力だ。


 巨躯も脅威だが、致命の極光が通り辛い頑丈な身体。ヴルトゥームであれば今の一撃で三割を削れていたけれど、羽付きは身体に少し穴が空いた程度。


 不本意ではあるが、この姿のままで勝てない。


「やばっ、しくったわ!!」


 古代形態へと変身しようとしたその時、ロデスコが慌てた様子でアリスの元へやって来る。


「どうかした?」


「どうかしてるわよ!! ミスったわ!!」


「何が?」


「あの――」


 アリスの疑問に答える前に、結果は目の前で起こる。


 宙に浮いた巨体が海上都市に落下する。


 海上都市は中心部から羽付きと鼻付きが出て来たために大きな穴が空いている。また、二体が無理矢理出て来たため、周囲へ幾つもの亀裂が走っている。


 上空から、一目見れば分かる事だった。


 海上都市は激しく損傷していたのだ。


 山のような巨躯が空から降って来れば、どうなるかなんて目に見えている。


 轟音が鳴り響き、衝撃が都市全体を襲う。


 元々出来ていた亀裂は更に広がり、新たに出来た亀裂が元々あった亀裂を上書きしながら都市を走る。


 亀裂は都市の表面だけでは無く、土台にまで広がっていく。


 そうしてついに、都市の一部が沈んでいく。一部が沈んだ事を皮切りに、都市の様々な個所で沈下が起こる。


 元々ぼろぼろだった都市に巨大質量の物が落ちれば、答えは明白だ。都市の崩壊。海上都市の沈没である。


「……どうしよう」


「どうするもこうするも無いわ!! 速攻で叩くしか無いのよ!! 都市が完全に沈没するまでに、あの二体をぶっ倒すの!! ちんたらしてないでさっさと行くわよ!!」


「わ、分かった」


 海上都市崩壊まであまり猶予は無い。


 それに、魔法少女達の限界も近い。連戦に次ぐ連戦で、魔力も体力もかなり消耗している。その上で鼻付きの石化を常時レジストしなければいけないし、誰かさんのせいで海上都市の沈没(タイムリミット)も気にしながら戦わなければいけない。


 最悪、海中でも戦闘は継続可能だが、相手の方が圧倒的に優位だ。出来れば、海上都市で全てを終わらせたい。


「先に行ってて、弱点を探る」


「さっさと来なさいよ! アタシとアンタの失態なんだから!」


「分かってる」


 致命の大剣(ヴォーパルソード)の古代的な意匠が輝く。


 髪は黒く短く、肌は美しく褐色に色付く。


 空色のエプロンドレスの色は薄まり、白に限りなく近い青へと変わる。袖が無くなり、手首には黄金に輝くバングルがはめ込まれる。


 黄金と宝飾で飾られた髪飾りと襟飾り。左目の下瞼から先がくるりと丸まった黒い線が伸びる。


 最後に襟飾りの下から青色の外套(マント)が風になびきながら伸びる。


 ヴルトゥームを倒したあの日に手に入れた、アリスのもう一つの姿。


 名前なんて付けるつもりは無かったけれど、みのりと詩がうんうん唸ってその姿に名前を付けた。


 アリス・エンシェント。それがこの姿の名前らしい。安直だが変な名前では無いので受け入れた。詩の出した『エキゾチック・ビューティー・アリス ~エジプトより浪漫と愛を込めて~』よりマシである。


 アリスは右目を閉じ、左目で二体の異譚支配者を見る。


「――っ」


 直後、アリスの左目に激痛が走る。


 石化の影響もあるだろうけれど、それ以上に二体の存在としての情報量が重く多いのだ。明らかに存在の()が違う。


 白目が赤くなり、血の涙が頬を伝う。


 だが、逸らしはしない。


 異譚支配者を構成する核の所在を探り当てるために更に目を凝らす。


「……見えた!」


 激痛の走る左目を閉じ、右目を開く。


 この戦いの間、左目は使い物にならないだろう。


 アリスは拡声器を生成すると、大きな声で異譚支配者の核の場所を伝える。


『鼻付きは眉間に核有り!! 羽付きは身体の中央に核有り!! 繰り返す!! 鼻付きは眉間に核有り!! 羽付きは身体の中央に核有り!! 加えて、都市崩壊中!! 都市崩壊中!! 私とロデスコのせい、ごめんなさい!!』


 アリスが謝罪を織り交ぜれば、遠くで「ほんとにごめーん!!」と微かにロデスコの声が聞こえて来た。


 謝罪と核の場所を告げた後、拡声器を捨てて致命の大剣(ヴォーパルソード)を構えて羽付きの方へと向かう。


 海上都市沈没まで、幾ばくの猶予も無い。


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― 新着の感想 ―
[一言] はてさて、如何にして倒すのか
[一言] この異端支配者の質の高さだと、強化されたアリスでも流石にきついか。
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