異譚47 石化と飛行
毎回、こんな奴らどう倒せば良いんだって考えてます
まじどうやって倒すんですかね。不安です
海上都市の地中から現れた二体の巨大な異譚支配者。
城の直下から出て来たため、城の近くへと来ていた魔法少女達は退避を余儀なくされる。
しかし、それは異譚生命体達も同じで、敵味方関係無しに全ての生命が安全圏へ逃げようと必死に駆ける。
上から落ちて来る瓦礫を躱しながら、アーサーはレディ・ラビットを抱えて瓦礫の雨を潜り抜けて安全圏へと走る。
「いやぁ、参ったね」
「おったまげまる」
海上都市の霧が晴れ、二体の異譚支配者の姿を海上都市の何処からでも確認する事が出来る。
「……っ、これは」
小さな異譚支配者――それでも、山のように大きいけれど――が現れた瞬間から、身体に覚える違和感。
ずっと、何かに抵抗し続けているように、体内の魔力が何かに消費され続けている。
素早く周囲の様子を窺えば、少し離れた位置に二体の出現に巻き込まれまいと退避していた魔法少女が見受けられた。アーサーが声を掛けようとしたその時、少女の身体に異変が起こる。
「ぐっ、あぁ……なにっ、これ……!!」
異譚支配者の姿を見た魔法少女は、途端に苦しみ悶える。
少女の変身が解け、中国チームの制服が露わになる。
こんなところで変身が解ければ彼女の身が危うい。即座にアーサーは彼女の元へ向かおうとしたけれど、アーサーが向かうよりも早く少女の身体の変化が終わる。
中国チームの少女の身体が徐々に灰色に変わっていく。
色が抜け落ちたという訳では無いが、遠目からでは少女の身に何が起きたのかが分からない。
だが、その答えは直ぐに訪れる。
落ちて来た瓦礫が少女に直撃し、少女の身体が砕け散る。
その様子を見て、少女の身体に何が起こったのかを覚る。
「……石化したのか」
「少年漫画みたい。ドクターの」
「馬鹿言ってる場合か。私達は魔力で抵抗出来てるから良いが、アレが上陸したら魔力に抵抗できない一般人は全員石になるぞ」
「魔力切れたら、わしらも同じ」
今目前で少女が石になったように、魔法少女であっても魔力による抵抗が無くなればたちまち石になってしまう。
大きい異譚支配者はともかく、小さい異譚支配者は存在するだけで周囲に被害をまき散らす類いの存在だ。
「わし、石になったら、アリスにプレゼントして」
「安心してくれ。そのまま海底に沈めておいてやる」
「大丈夫。そしたら、人類の光の力で蘇る」
「暗黒面がよく言うよ」
レディ・ラビットが何の事を言っているのか分からなかったけれど、きっとアニメや漫画の事を言っているのであろうと言う事はなんとなく理解できる。
「さて、どうしたものか。長期的に考えれば、どう考えてもこちらが不利だが……」
存在し続ける限り周囲の人間を石化し続けるのであれば、その周囲にいる限り魔法少女達は石化しないように魔力を消費し続ける事になる。
「かと言って、攻め込むにもあの巨躯を相手にどう立ち回るか……」
などとアーサーが考えあぐねている間に、事態は大きく動く。
大きい方の異譚支配者が背中の羽を伸ばし、ばさりばさりと羽ばたかせる。一つ羽ばたくだけで建物を破壊する程の暴風が巻き起こる。山程の異譚支配者はその一挙手一投足だけで被害を広げる。
ただ羽ばたいて魔法少女達の攻撃を受けないようにしているだけかと、普通なら考える。
山ほどある巨躯に比べ、背中から生えた羽はあまりにも小さい。羽ばたくだけで暴風が起こる程の大きさではあるけれど、それでも巨躯を支えて飛べる程に大きくは無い。
ただの羽ばたき。それを目撃していた全員が同じ考えを持ったはずだ。
「はぁっ!?」
だが、全員の予想を裏切って、大きな異譚支配者は空に浮いた。
何度も羽ばたきを繰り返し、徐々に徐々に上空へと上がっていく。
「おいおいおい……いったい何の冗談だ。飾りじゃないのかあの羽は!」
悪態を吐きながら、アーサーは異譚支配者の方へと駆ける。
最早考えている場合では無い。
異譚支配者との戦いの場は海上都市内に収める必要がある。理由は幾つかあるが、一番の理由は海上都市であれば上陸した全ての魔法少女が対応できるからだ。
海に入られれば魚座や水瓶座など、海中に適応出来る魔法少女しか戦えない。だがそれは、海上都市を決戦の場とするのがベストだけれど、最悪の場合は海中でも対応できると言う事だ。
地上戦と海中戦の準備は十全にしてきた。だが――
「空は想定外だ、クソッ!」
――空中戦の人員は圧倒的なまでに不十分だ。
完全に空に上がる前に落とす必要が在る。
何としてでも、二体ともこの海上都市を決戦場とする。海上都市から離れれば離れる程、魔法少女達は対応が出来なくなる。
巨躯の割に、恐ろしい速さで上昇していく異譚支配者。
このままでは、アーサーが攻撃圏内に捉えるよりも早く、誰も手の届かないところへと飛んで行ってしまう。
「レディ! 時止めを――」
「待った」
レディ・ラビットの魔法で追いつこうとしようとした、その時、海上都市全体に歌が広がる。
その歌を耳にした途端、石化への抵抗に使っていた魔力消費が無くなり、全身から力が漲る。
それが誰の歌かなんて、考えるまでも無い。
「ふっ、仕方が無いな」
歌を聞いたアーサーは駆けていた脚に更に力を込める。だが、向かう先は空へ向かう異譚支配者では無く、地を這う異譚支配者の方へと変わっていた。
直後、一筋の極光と、空へと伸びる赤い流星が異譚支配者の羽を根元から千切り取り、異譚支配者から空を奪う。
「大物は君達に譲ろう。小物はこっちで何とかするさ」
大きな異譚支配者が地面に落ち、海上都市を地震が襲う。
揺れなど気にした様子も無く、先程と寸分違わぬ速度で都市を駆ける。
「レディ、仕事の時間だ。あまり時間も無い。手早く済ませよう」
アーサーが走ってる間、ずっとアーサーのマントにしがみついて延長マントになっていたレディ・ラビットは、アーサーのマントから手を離して自分の脚で走りだす。
「うい。給料分、働けよ」
「こちらの台詞だ。給料泥棒」




