異譚46 デモンズブレイク
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いよいよ最終局面です。頑張ります。
都市を割り、姿を現した二つの巨体。
「は、でっかっ!! 何アレ!?」
「……流石異譚侵度S。厄介この上ない」
「……なんて、事……」
二体の異譚支配者を見て驚愕する四人。
何とか瓦礫から逃れられた三人は、形を保っている建物の屋根の上に着地して、都市の下から現れた二体の異譚支配者の様子を窺っていた。
「アイヤー! おったまげたネ!」
そんな三人を上空から見つけた凛風が合流し、一緒になって様子を窺う。
一つは、見上げる程の巨体。
うねり地面を叩き割る幾つもの触腕。触腕の太さはまちまちだけれど、全てがビルのように太く長い。
正面と思われる個所には蛸のような眼が備わっており、その下部に象のような長い鼻が伸びている。
皺と鱗に覆われた身体からは幾つもの触手が伸びており、触手は分裂をしたり元に戻ったりと、不定形に変化を続けている。
ヴルトゥームも巨体を持ち合わせていたけれど、あれはヴルトゥームが作り上げた星間重巡洋艦と融合をした結果だ。あの規模の星間重巡洋艦を作り上げるヴルトゥームの技術力には脱帽するけれど、自然にあの巨体となった訳では無い。
だが、目の前の生物は違う。生き物としてその巨体を誇っている。大きいと言う事は即ち、生物としての強度が高いという事に他ならない。
大きさはそれだけで武器なのだ。
かつてない程の巨体を誇る敵。だが、そのかつてない程の巨体は一瞬で上書きされた。
象のような異譚支配者よりも、更に大きな身体が天に向かって背を伸ばす。
蛸のような眼を六つ持つ頭部に、顎から生える髭のような無数の触手。
二本の脚で立ち、二本の腕を持っており、手足には巨大な鉤爪、指と指の間に張られた水掻きが備わっている。
体表はぬらぬらとした鱗とゴム質の瘤に覆われ、背には御伽噺に出てくるドラゴンのような翼を持っている。
全身が緑がかっており、その巨体も合わせて一見すれば山のようにも見える。それほどまでの巨躯。
その異譚支配者はオーボエのような雄叫びを上げる。その雄叫びは聞く者全ての神経を逆撫でする程に不快であり、常人であれば発狂してしまいそうな程に心に不安を宿す。
山のような巨躯を持つ二体の異譚支配者。
「……なんて事……」
あまりの事態に、先程と同じ言葉を漏らすマーメイド。
そんなマーメイドの驚愕に同調するように、ロデスコも眉間に皺を寄せて言葉を漏らす。
「流石にデカいわよね……ヴルトゥーム以上じゃない、アレ?」
「……アリスの唇を、奪うだなんて……!!」
「え、あ、そっち!?」
ぶんぶこと腕を振ってロデスコにへなちょこパンチを繰り出すマーメイド。
珍しく眉尻を上げて怒った様子のマーメイドに、ロデスコは呆れながら声を荒げる。
「今そんな事言ってる場合じゃないでしょ!? 見なさいアレ! 今からアレ倒さなきゃなんないのよアタシ達!」
「ちょっと待つネ。何それ聞いてないヨ。お前、アリスの唇奪ったってホントカ?」
「ほらアンタのせいで面倒な奴まで絡んできたじゃない! ってかコイツ眼ぇ据わってて怖いんだけど! ちょっ、如意棒振り回すな! 危ないでしょうが!」
まったく緊張感の無い三人に、アリスは心底呆れたような表情を浮かべる。
「ふざけないで。一挙手一投足でも間違えれば死ぬ程の相手。三人共、もっと真面目に向き合って」
「アタシも!? アタシ真面目に状況把握してたわよね!? ふざけてるのこの二人だけよね!?」
「ツッコミが五月蠅い」
「あら御免遊ばせ!? でも叱るならこの二人だと思うけどね!!」
マーメイドと凛風の頭をぽかっと叩くロデスコ。
割と強めに叩いたので、二人共頭を押さえて涙目になる。
「……だって、チュウ、したから……」
不満げなマーメイドに、アリスは淡々とした口調で説明をする。
「マーメイド。ロデスコは、貴女に向かっていたヘイトを全部自分に向けるために私に口付けをした。そこにやましい気持ちは一切無い」
「そうよ。元はと言えば、アンタがアイツを挑発するからでしょ? なんであんなことしたの」
「……百合の間に、挟まる男……絶許……」
「なに言ってんの?」
「何を言っているの?」
マーメイドの言っている事が良く分かっていない二人とは対照的に、凛風はうんうんと何度も深く頷いている。
「分かるヨ。百合の間に挟まる男はゴミネ。処してしかるべきヨ」
「……良く分からないけど、もう二度と挑発しないで。マーメイドは戦闘向きじゃ無いんだから」
「……分かった……今後は、キスしたい時だけ、する……」
「……そもそもキスしないで」
安易に人にキスなんてするものではないと、懇々と説明をしてやりたいところだけれど、今はそんな場合では無い。
「そんな事より、アレを倒す。あんなものが上陸したらひとたまりも無い。全員、初めから本気で戦って」
「そのつもりだっつうの。こちとらクソキモ中二病野郎に逃げられて消化不良なんだから。憂さ晴らしさせて貰おうじゃない」
「ロデスコ、さっきの話は後でじっくり聞かせて貰うネ。勿論、強火連中で囲んでやるヨ。安心するネ」
「何にも安心出来ない! ていうか、悔しかったら自分でコイツの唇奪ってみせなさいよ。妬むだけなら、猿でも出来るわよ。うっきっき!」
馬鹿にしたように猿の鳴き真似をして、ロデスコは空へと飛び立つ。
「先行くわよ!! ちんたらしてると、美味しいとこ全部持ってくから!!」
「待つネ! それフライングヨ! あ、アリス、これが終わったらご褒美欲しいネ! 具体的には濃厚なキッスが良いヨ! 涎溜めて楽しみにしとくネ!」
自分の欲望を吐き出してから觔斗雲に乗り込み、ロデスコの後を追う凛風。
「絶対嫌……」
「……アリス、私も――」
「絶対嫌」
「――まだ何も、言ってない……」
便乗しようとして即座に断られるマーメイド。
しょんぼりしながらも、アリスの首に回す力を込める。
そろそろ、冗談もお終いだ。
「マーメイド。援護をお願い」
「……分かった……」
「全力で歌って。貴女の歌が、勝利の鍵」
「……激熱挿入歌、入れてやんよ……」
「お願い」
アリスはマーメイドの腕に手を添えて、ちらりとマーメイドを振り返る。
「絶対に離さないで。その代わり、絶対に護るから」
「……急なプロポーズ、困る……」
てれてれとわざとらしく頬を赤らめるマーメイド。
「そんな死亡フラグ建ててない」
呆れながら、アリスはマーメイドを引き連れて空を飛ぶ。
それと同時に、マーメイドは深く息を吸う。
「……行くぜ、神曲……」
マーメイドは詩を紡ぐ。
伴奏の無いアカペラ。だが、その歌は美しく、力強く、人の心を鼓舞し、元気づけるような歌だった。
歌は空気を伝い空中都市全域に広がる。美しさだけに留まらず、神聖さすら兼ね備えたその歌は――
アニメ『新生世界・デモンズシスター』
劇中歌『デモンズブレイク』
歌:魚海詩
――自身が主題歌も担当したアニメのアニソンである。




