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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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異譚39 五里霧中

 韓国チームが巨大な半魚人との戦闘を繰り広げていた、同時刻。


 中国チームもまた、無数の触手を携えた異譚支配者と戦っていた。


 凛風達の前に現れた異譚支配者は、簡単に言い表すなら『触手の塊』である。


 脚も無く、巨体であるため、動きは鈍重――かと思われたが、いざ戦闘が開始すると第一印象は大きく覆る事になった。


 触手の塊は幾つもの触手を伸ばし、地面や建物に食い込ませ、瞬時に伸ばした触手を縮ませる事で移動をする。触手の伸縮を利用しての推進力に加え、推進力に使わなかった触手で方向を調整する。


 また、高速移動の最中に触手による高速攻撃を繰り出してくる。


 間断なく高速移動と攻撃を繰り出してくる触手の塊に加え、続々と現れる半魚人達。


 触手の塊は味方であるはずの半魚人を気に掛けた様子も無く、自身の高速移動と攻撃に巻き込む。


 凛風も自身の素早さを活かしながら追従するけれど、伸縮自在の触手に翻弄される。何より、味方を気にせず自由に動き回れる触手の塊とは違い、凛風は味方を巻き込むわけにはいかないのだ。


 鋭く伸ばされる触手を、凛風は身を翻して躱しながら如意棒で叩く。勢いのない、軽く叩いただけの攻撃。にもかかわらず、触手は強引に引き千切られたように弾け飛ぶ。


 凛風があまりにも軽々と如意棒を振り回すものだから勘違いしがちだけれど、凛風の操る如意棒はかなりの重量を誇る。軽く地面に落としただけでアスファルトの地面が陥没する程の重量だ。


 超重量を誇る如意棒を軽々と振るう凛風もまた常人では在り得ない力の持ち主であり、超パワーと超重量が合わさって、軽い一撃でも異譚支配者を引き千切る程の威力を出す事が出来るのだ。


 だが、その攻撃も本体に当たらなければ意味が無い。


 如意棒によって千切れ、吹き飛んだ触手は瞬く間に再生し数秒後には完全に元通りになってしまう。


「面倒ネ、本当ニ!!」


 繰り出される触手を掻い潜って接近しようにも、相手の移動速度が段違いに速い。


 触手の攻撃も一撃で半魚人を押し潰す事の出来る威力を誇り、超高速で移動するため進路上に居る半魚人は漏れなく轢き殺されている。


 また、触手は硬度を自在に操れるのか、地面に食い込ませる時や攻撃を繰り出す時に硬質化して対象を貫いている。


 能力は至ってシンプル。けれど、能力の質が高い。


 経験で判断するしかないが、実力は異譚侵度Aくらいだろう。


 異譚侵度Aであれば単独での撃破は可能だけれど、そのためには一対一の状態を作り上げなければいけない。相手は味方など気にした様子も無く暴れ回るため行動は無軌道。


 凛風に固執した様子も無ければ、特定の誰かを攻撃しようと言う意志も無い。それはまるで、この場に居る全員が警戒に値しないとでも言わんばかりの行動。


「嘗めるなヨ、不健全生物!! 来るネ、觔斗雲(きんとうん)!!」


 凛風が声を上げれば、虚空から雲が形成される。それは、凄く凄く小さな雲。大きさで言えば、長座布団くらいの雲だ。


 凛風は迷う事無くその雲に飛び乗る。


 雲は水滴の塊である。人が乗る事は不可能であり、物を乗せる事もまた不可能である。


 しかし、小さな雲に飛び乗った凛風は雲を通り抜ける事無く、しっかりと雲の上に脚を付けている。


 凛風を乗せた雲――觔斗雲は高速で動き出す。


 觔斗雲は凛風が乗る事の出来る雲の形をした乗り物(魔法)である。


 凛風が走るよりも速く、凛風が跳ぶよりも高く移動する事が出来る。


 高速で動き回る触手の塊を高速で追いかける。


「ド突きまわしたるネ!!」


 無軌道な触手の塊の動きに追従しながら、凛風は如意棒を振るう。


 追従してくる凛風を鬱陶しく思ったのか、触手の塊は凛風に向けて触手を振るう。


 觔斗雲を巧みに操り、凛風は触手の合間を縫う。


 アクロバティックに觔斗雲を操りながら、凛風は突きの構えを取る。


 だが、まだ如意棒の間合いでは無い。にも関わらず、凛風は如意棒を突き出す。


「伸びるネ、如意棒!!」


 突きと同時に、凛風の持つ如意棒が高速で伸びる。


 一瞬で伸びた如意棒に突かれ、吹き飛ばされる触手の塊。


「チッ、ずらされたネ……!!」


 直撃の直前に触手によって方向転換をしていた触手の塊。


 大きく吹き飛ばす事は出来たけれど、芯を外してしまった。ダメージにはなるだろうが、致命傷では無い。


「雨霧!! 指揮は任せたヨ!!」


「凛風姐姐はどうなさるのです!」


「アレを倒すネ! 落ち合う先に変更無しヨ! 迷わず進むネ!!」


「分かりました! 凛風姐姐、御武運を!!」


「任せるネ!」


 ぐっと親指を立て、凛風は触手の塊が飛んで行った方へと向かう。


 霧のせいで気配を感じとるのは難しいけれど、異譚支配者程の魔力量であればある程度接近すれば感知する事は出来る。


「――ッ!!」


 觔斗雲を進めて直ぐ、背後から触手が凛風に襲い掛かる。


 即座に觔斗雲を翻して回避し、背後に向かって如意棒を伸ばす。


 だが、肉を穿つ手応えは無く、脆い壁を穿つ感触しか返ってこなかった。


 如意棒を伸ばした直後、見計らったように再度別方向から触手が襲い掛かる。


 瞬時に如意棒を縮めながら触手を迎撃するも、また別の方向から触手は襲い掛かって来る。


「――ッ!? どこからネ……ッ!!」


 触手の塊の大きさからは想像できない位置からの攻撃。


 触手を大きく伸ばして別方向まで回り込ませているのか、攻撃に使った触手は即座に自切しているのか。自切をしたのであれば、触手はその場に落ちたままになるだろうけれど、凛風が迎撃した触手はするすると身を隠すように霧の中に引っ込んでいく。


 自切してからも自在に動ける可能性はあるけれど、霧の中に隠れられては判断が出来ない。


 凛風が触手の塊の攻撃方法を考察している間に、更に霧の向こうから触手が襲い掛かる。


 襲い掛かる触手を如意棒で吹き飛ばしながら、凛風は周囲の音を聞くために耳を澄ませる。


 触手が何かを掴んだり、地面に突き刺さったりする音が聞こえては来るけれど、先程から間断無く襲い掛かって来る触手はまったく別の所から伸びて来ていた。


 音が偽物なのか、この触手が偽物なのか、凛風にはまったく区別が付かない。


「ああもうッ!! ほんっとうに面倒臭いネッ!!」


 声を荒げながら、凛風は如意棒を振るう。


 凛風の能力は優秀だけれど、範囲攻撃は得意ではない。


 正面切って戦えない相手では無い。けれど、霧の中に隠れられてしまうと途端に相性が悪くなる。


「上等ヨ! 丸裸になるまで、千切ってやるネ!!」


 相手に一撃必殺が無い限りはこのまま凛風と根競べになる。


 根競べなら負ける気はしない。


 ずっと、ずっと我慢の連続だった。そんな毎日に比べれば、たった少しの我慢なんてなんてことは無い。


 何も無い、あの日々に比べれば。


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