異譚37 転移
昨日更新したかったんですけど、頭いたいいたいで寝てました
黒く、光すら吸収する闇の中に輝く、燃え盛る三つの眼。
それは、何の前触れも無く、突然現れた。
「――ッ!! コイツ、あの時の!!」
魔法少女達と少年の間に現れたのは、星間重巡洋艦の中で出逢った謎の三つ眼の闇だった。
突如現れた三つ眼に即座に構える魔法少女達だけれど、少年は相も変わらず余裕綽々の態度を崩さない。
「そう睨むなよ。ルールを破りはしないさ」
もの言いたげな眼で少年をねめつける三つ眼。
「お前から提示されたルール通りに事は運ぶ。ちょっとした火付けじゃ無いか。大目に見ろよ」
少年の言葉に、三つ眼は暫く少年をねめつけていたけれど、少しして現れた時と同じようにぱっと姿を消した。
「まったく、ちょっとネタ晴らししただけじゃ無いか。なぁ?」
背後に控える乙姫に同意を求める少年。
乙姫は肩を竦めながら少年に言葉を返す。
「明確なルールへの抵触ですので。向こうの盤上で遊んでいる以上、ルールを護って楽しく遊びましょうね」
「はいはい。さて……すまなかったな、アリス。邪魔が入った」
突如現れた三つ眼に戦闘態勢を取っていたアリスは、緊張感を残しながら少年に訊ねる。
「貴方達は、一体何を知っているの……?」
ヴルトゥームが何かを言いかけた時、三つ眼は現れた。
『ええ、この戦い。いえ、この異譚の溢れる世界の――』
あの時、ヴルトゥームは恐らくこの世界の秘密、ひいては異譚の秘密を明かそうとしていた。その時、三つ眼は現れた。
今回は、アリスの本名を明かそうとした時に現れた。
アリスの秘密と世界の秘密が繋がっているというある種の答えでもある。
アリスの知らない過去を、三つ眼と目の前の少年は知っている。
「愛しのアリスの質問であれば、何でも答えよう……と、言いたいところだが、こればかりは俺の一存ではどうする事も出来ないな。何せルールだ。少し抵触しただけで監視者も御冠だったからな。だが、何を知っているか、までなら答えられる」
言って、少年は指を二本立てる。
「君の過去。この世界の秘密。大きく分けて、この二つは知っている。細々したところだと、この世界が出来た理由、この世界の仕組み、異譚の発生理由も知ってはいるが、当然それらを教える事はルールに抵触するため口外は出来ない」
「つまり、アタシ達の知らない事全部って事ね」
「そうだ。無知な貴様等が知らぬ事の全てだ。ああ、アリス。君だけは違う。君は知らないのではない。思い出せないだけだ」
言って、少年はくるっと指先を宙で躍らせる。
直後、アリス達の足元に円形の模様が出現し光り輝く。
「なっ、動けない……!!」
突然の事態に即座に対応しようとするも、足元に現れた模様の影響か全員身動きが取れなかった。
一瞬にして絶体絶命の事態に陥るけれど、少年にアリス達を攻撃する素振りも無く、変わらず寛いだ様子を見せている。
「さて、楽しい御話は此処までだ。アリス、今度は一人で来てくれるとありがたい。その時は、ゆっくりと話でもしよう」
「待って、まだ聞きたい事が――」
「聞かれても答えられないさ。大丈夫、また会える。君と俺は、運命の赤い糸で結ばれてるからね。我が愛しの嫁、アリス」
「はぁ!? 誰が誰の嫁ですって!?」
「黙れ赤豚。最後まで煩い奴だ……さっさと消えろ」
自身の言いたい事だけ告げて、少年はくいっと指を振る。
少年が指を振ると、床に広がった模様は一際強く輝く。光は一瞬で、直ぐに収まる。
先程と変わらぬ畳張りの宴会場だけれど、模様の内側に居た魔法少女達の姿は見受けられなかった。
「……魔法陣に細工をしたな、乙姫?」
「はい。バラバラに転送した方が面白いかと思いまして。それに、クライアントの依頼もある程度は達成しなければいけませんし」
「それもそうか。だが、アリスの相手になる奴を、誰か連れて来ていたかな?」
「それなら、とっておきを連れて来ております」
乙姫は自身の下を指差す。
その仕草だけで、少年には乙姫が何を連れて来たのかを理解できた。
「なるほど。確かに、異譚であれば、封印の影響は受けない。劣化版とは言え、実力も折り紙付きか」
「それに、今回は大盤振る舞いです。さしものアリスであっても、枷の一つを外す必要が在るでしょう」
「形だけこなせればいいさ。俺の目的は、アイツと同じでは無いからな」
寛ぐ少年に、室内に控えていた半魚人が酒の入ったグラスを渡す。
「最後に、俺を選べばそれで良い」
くいっと酒を呷る。
そんな少年を乙姫は少しだけ冷たい眼で見ていた。
「……っ、此処は……」
「都市の一番端みたい。待って、他の皆は?」
自分達が城から、海上都市の端に飛ばされた事は直ぐに気付いた。自身の身体に異常が無い事も、即座に理解する。
同時に、この場にアリスとマーメイド以外の仲間がいない事にも即座に気付いた。
周囲を見渡しても仲間の姿は見えず、非ユークリッド幾何学的な建物しか見えない。
「……全員、バラバラに、飛ばされた……?」
「多分そう」
「……どうする……?」
「また城を目指す。きっと、皆も城に向かってるはずだから。それに、あの人型には聞きたい事が山程ある」
「……奇遇、私も、言いたい事、ある……」
きゅっとマーメイドはアリスの首元に回している腕に少しだけ力を込める。
「……アリスは、私の嫁……同担拒否……」
「そう」
相も変わらず良く分からない事を言うなと思いながら、アリスは城を目指すべく脚を動かす。
だが、アリス達の進路を阻むかのように、わらわらと半魚人が現れる。
「……面倒な」
言いながら、雷の剣を構える。
「しっかり掴まってて。トップスピードで駆け抜けるから」
「……うい。絶対、離さんぞ……」
マーメイドが力強くしがみついた事を確認してから、アリスは地面を蹴り付けた。




