異譚33 ベラとオリヴィア
短めです
また、ネット小説大賞一次選考通りました
魔法少女を乗せた小型戦闘艇は、三つのルートに分かれて海上都市を目指す。
「一番運転上手い奴だ~れだ」
「ワ・シ」
ロデスコの問いに答えたレディ・ラビットが颯爽と運転席に乗り込み、小型戦闘艇の運転を行っている。
実際に運転の上手い下手で言えば、レディ・ラビットはそんなに上手くは無いのだけれど、攻撃があった際に迎撃出来る者が運転をするのは悪手であるため、基本的にサポート主体のレディ・ラビットが運転を担当しているのだ。
「全員、気を抜かないでね。何があるか分からないから」
十本の剣を展開して、いつでも迎撃できるように構えるアリス。
「言われなくても。昨日からずっと神経尖らせてるわよ」
食堂ではいつも通りを装ってはいたけれど、かつてない程に神経を尖らせていた。
海上都市に近付くにつれて、肌がひりつくような嫌な雰囲気は強まっていた。
全員が周囲を警戒する中、小型戦闘艇は順調に航路を進む。
そして、特に何が起こる訳でも無く、全船が無事に海上都市に上陸をした。
「……何も、無かった……」
「そうだね。だが、気を抜かないようにね。いつ何が起きてもおかしく無いのが異譚だ」
誰よりも先に小型戦闘艇から降り立ったのは、金の鎧に金の大剣、赤の外套を風になびかせる一人の騎士。
レクシー・ペンドラゴン。魔法少女名はアーサー。
御伽噺の騎士のような恰好ではあるものの、衣装の端々にフリルなど魔法少女らしい可愛らしい要素が見て取れる。
「それにしても、生臭いな……鼻が曲がりそうだ」
「鼻使い物ならん」
うげぇっと嫌そうに顔を顰めながら小型戦闘艇から降りるレディ・ラビット。
「空気中の魔力濃度も濃いわねぇ」
「これじゃあ、探知も難しいのです」
レディ・ラビットの後に小型戦闘艇から降りたのは、イギリス組の二人の少女。
おっとりとした口調に、流れる水のようにウェーブした髪。
青色の水着の上に、水色のレースのスカートにオフショルダーの上着。レース素材が基調とはなっているけれど、透けない生地を使っている部分もある。
彼女の名前はベラ・サンチェス。水瓶座の魔法少女で、魔法少女名はアクエリアスだが、アクエリアスは複数いるので、ベラと名前で呼ばれる事が多い。
ベラと一緒に降りたのは小柄な少女。
緑を基調とした衣装であり、所々にオリーブの実と花があしらわれた意匠となっている。
ふわふわ柔らかそうな髪を抑えるように、オリーブの葉で出来たカチューシャを付けている。
彼女の名前はオリヴィア・バートン。魔法少女名はオリーブだが、オリーブも複数人存在しているので、彼女の愛称であるオリーと呼ばれる事が多い。
アーサー、レディ・ラビット、ベラ、オリーの四人が今回の作戦に参加するイギリスの魔法少女である。
アーサーと同じく、ベラとオリーはレディ・ラビットを連れて帰るために日本に来ていたところ、丁度異譚が発生してしまったと言う事だ。
「片っ端から探していけば良い。それに、怪しげな建物ならもう見えてる」
アリスの視線の先。そこには、巨大な建物が聳え立っていた。
海上都市には霧がかかっており、細かい部分までは見る事は出来ないけれど、それが建物である事は理解が出来た。
「行きましょ。早い者勝ちなんだから」
「競争じゃ無いんだよ、ロデスコ」
「競争よ、競争。日英合同が一番強いんだから、一番強い奴を相手にすんのは当然でしょーよ」
言いながら、ずんずんと進むロデスコ。
ロデスコの言葉は傲慢にも聞こえるけれど、純然たる事実でもある。世界でも指折りの魔法少女が他のチームよりも多いのは明らかな強み。それを活かさないのは愚策である。
「私も、核を譲るつもりは無い」
アリスも剣を展開したままロデスコの後を追う。
アリスの首に腕を回して、アリスに追従しているマーメイドも必然的に一緒に付いて行く。
「せっかちだな、まったく」
陣形を決める事も無く、さっさか進んでしまう三人に呆れた様子を見せるアーサー。
だが、三人の陣形は理にかなったものだ。
近接戦最強のロデスコを先頭に、中遠距離を幅広くカバーできるアリスを真ん中に。アリスに護られる形でマーメイドが周囲を索敵する。
三人がしっかりと役割を理解して歩みを進めているのだ。
「私が先頭を行く。殿はベラに任せるよ」
「りょ」
「了解なのです」
「はぁ~い」
アーサーも素早く指示を出し、急ぎ足でロデスコ達に追い付く。
結果的に、前衛にロデスコとアーサー。中衛にアリスとマーメイド。二人を挟むようにオリーとレディ・ラビット。後衛にベラという配置になった。
「それにしても奇妙な街なのです」
「そうだね。石造りなのに、所々に和風建築の特徴が見て取れる」
「……ていうか、変な、形……」
アーサーの言う通り、家屋は石造りなのだけれど、屋根や窓といった一部分に和風建築の特徴がある。
また、建物は全て異常極まり無い非ユークリッド幾何学的な外形をしており、全体を見るとまるで悪夢に出てくるような街並みをしている。
一行は、周囲を警戒しながら悪夢のような街を進む。
「……来てる……」
「うむ。いっぱい」
少し進んで、マーメイドとレディ・ラビットがほぼ同時に敵の接近を報告する。
「分かった」
即座にアリスが対応しようとするが、それをアーサーが制する。
「待った。アリスは出来るだけ魔力を温存しておいてくれ。君の致命の大剣はどんな相手にも通じる切り札だ。出来るだけ魔力を温存して、最大回数を維持しておきたい」
「それでは皆に負担が行く」
「ふっ、この程度なら負担にはならないさ」
アーサーは王子様の笑みを浮かべ、黄金の大剣を構える。
「まぁ、任せたまえ。お姫様をエスコートするのも騎士の役目だからね」




