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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第1章 漁港の王様

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異譚22 致命複合

 衝撃波により多くが吹き飛ばされ、更地になってなお崩れない玉座に鎮座するのは先程よりも様相の変わった異譚支配者だ。


 目は爛々とした光を宿し、流体の様な体毛は蠢きながらも殺気立ったように逆立っている。


 明らかに今までと様子が違う。好戦的な様子を隠そうともしていない。


 しかし、アリスとロデスコは臆することなく異譚支配者へと迫る。


 駆ける二人の直ぐ真下から、何の前触れもなく岩の柱がせり上がる。尋常ではない速度でせり上がる岩の柱。常人であれば直撃した瞬間に絶命し、四肢が四散する程の威力。


 例え魔法少女だとしても、当たればただでは済まない一撃。


 それを、アリスとロデスコは最高速度をたもちながら回避する。


 回避しながら、遠距離攻撃持ちのアリスが斬撃の大剣を振るい、異譚支配者に斬撃を放つも、斬撃は異譚支配者から不自然に逸れて(・・・)背後に流れていく。


「アイツ……!! さっき爺食ってたと思ったら、魔力の補充だけじゃ無かったのね!!」


「能力の性能も上がってる」


「でしょうね! ヴォーパルソードが当たらないんだから!」


 人型の老人が持っていた攻撃を逸らす魔法を、異譚支配者も保有してしまった。


 恐らく、人型の老人が一度身を隠したのは、自身の逸らす魔法を失わないようにするためだろう。ここで異譚支配者が負けたとしても、次の異譚に自分を引き継ぐ事が出来る。


 そう。一度異譚を終わらせたからと言って、同じ異譚が起こらないという訳では無いのだ。実際に同じ人型が何度も目撃された例は幾つかある。その人型は前回の異譚の記憶を有している事から、人型とコンタクトを取る事で異譚の解明が進むと言われている。まともに話が出来た事など、一度たりとも在りはしないのだけれど。


 ともあれ、一度消えた理由は今回の異譚に見切りを付けたからだろう。けれど、アリスがやられた事により猶予が出来たために、異譚支配者が強化されるまでの時間を作ってしまった。


 つまり、本来であれば直ぐに片が付いたはずの異譚であったのだ。アリスさえしくじらなければ。


 自動車程の大きさの岩石弾が二人に向かって放たれる。


「各個迎撃」


「分かってるっての!!」


 アリスがロデスコから離れ、上空へ上がる。


 まとまっていても利点は無い。相手が狙いを定めやすくなるだけだ。


 二方向にばらけ、相手の意識を分散させる。


 並みの魔法少女であれば戦力の分散は愚策であるけれど、アリスとロデスコであれば問題はない。


 二人の目論見通り、攻撃がばらけて狙いも大雑把なものになる。


 しかして、こちらの攻撃も当たらない。異譚支配者には逸らす魔法があるのだから。


 ヴォーパルソードを放てば倒せそうな気もするけれど、逸らす魔法がどこまでの範囲を逸らせるのかも分からない。ヴォーパルソードは後一撃が限界。継戦は可能だけれど、一撃必殺の攻撃は残しておきたい。


 こうなると、道を作るためだけにヴォーパルソードを使った事が悔やまれる。もう二度と無闇にヴォーパルソードを撃たないと決めつつ、アリスは背後の大剣の一本を手に取る。


 アリスが手に取れば、半透明だった大剣に色が付き実体を持つ。


 背後のヴォーパルソーズは低燃費仕様となっており、半分しか実体化していない。アリスが手に取る事で実体化する。


 アリスが手に取ったのは風の大剣。


 アリスが風の大剣を振るえば、たちまち暴風が吹きすさび砂礫を巻き上げて異譚支配者を襲う。


 が、風も砂礫も異譚支配者に当たる事は無く、不自然に背後に流されていく。


「これならッ!!」


 側面に回り込んだロデスコが爆発的加速のままに蹴りを放つ。


 しかし、当然のようにロデスコの蹴りは見えない何かに逸らされる。


 空中に浮いたロデスコに迫る岩の柱と岩石弾。


「ちっ!」


 ロデスコは舌打ちを一つして空を蹴り付けて(・・・・・・・)華麗に回避する。


「アリス!! 五秒!!」


「了解」


 短い言葉。けれど、それだけで二人には十分だ。


致命複合・五剣ヴォーパルコンポジット・ファイブソード


 アリスの背後に浮かぶ五つの大剣がアリスの前に移動し、一つに重なり合う。


 五つの大剣が重なり合った大剣を握れば、たちまち大剣は実体を得る。


 ヴォーパルソーズの強みは魔力消費の軽減と属性を解いて使う事が出来る事の他に、選んだ属性を複合して威力の減衰したヴォーパルソードを作る事が出来る。


 地水火風に加えて斬撃の五属性を乗せた大剣を握り、アリスは魔力を込める。


「――っ!!」


 魔力を込めた五属性の斬撃を放つ。


 五属性の斬撃は異譚支配者に真っ直ぐ放たれるも、魔法によって直撃せずに逸らされる。


 しかし、アリスは縦横無尽に空を飛びながら何度も斬撃を放つ。


 更に、数多の大剣を空に生成して一斉に放ち、海水に流れを作り一匹の海水の大蛇を作り上げて異譚支配者に放ち、土塊から自動攻撃型の巨人を作り出して異譚支配者を攻撃させ、更にダメ押しでスペードのみトランプの兵隊(カードソルジャーズ)を生み出す。


 アリスのみに許される圧倒的物量による猛攻。


 しかし、その攻撃全てを逸らされる。だが、それで良い。


 アリスとロデスコだけに向けられていた意識が、アリスの生み出した攻撃にも向けられる。


「ったく、ずるいったらありゃしないわね本当に」


 アリスの能力にぼやきながら、ロデスコは脚に魔力を集中させる。


 ロデスコの魔法は『赤い靴(ロデスコ)』。炎を操る具足である。


 その性質から攻撃特化の戦い方しか出来ず、スノーホワイトのように防衛に使えたり、サンベリーナのように支援に使う事は出来ない。


 完全に破壊を目的とされた超攻撃特化の魔法。


 だからこそ、その破壊力は群を抜いており、他の追随を許さない程の攻撃力を持っている。


 赤い靴は燃え上がり、周囲の空気を歪める程の熱量が生まれる。


 五秒。それだけあれば、ロデスコの準備は整う。


 空気を裂くような爆発音が響き割った直後、音よりも、衝撃波よりも早く、ロデスコの蹴りが異譚支配者の魔法に直撃する。


 拮抗はほんの一瞬。


「吹き飛べ」


 ロデスコの蹴りが逸れる魔法を砕き、勢いそのままに異譚支配者に直撃する。


 熱、速度、炎、爆発、蹴り、全ての威力が乗せられた最攻(さいこう)の一撃は、異譚支配者の身体を真っ二つに引き裂いた。


 爆音と熱風が周囲一帯に広がる。


 アリスは斬撃を持ってそれを回避しながら前へ進む。


 ロデスコの攻撃は最高火力だけれど、その分発動後の隙が大きい。


 それに――


「ロデスコ!!」


 ――異譚支配者は身体を真っ二つにされた程度(・・)では死なない。


 アリスはロデスコと異譚支配者の間に割って入る。


 ロデスコに向けられていた目が、割って入ったアリスを捉える。


「無駄」


 アリスの生成した剣が異譚支配者の両目に突き刺さる。


 攻撃が通るのであれば何も問題はない。アリスにとって敵では無いのだ。


 異譚支配者は異譚の核。そして、異譚支配者を構成する主要部分としてもまた核が存在する。それを破壊しない限り、異譚支配者は死なない。死ねないのだ。


致命複合・十剣ヴォーパルコンポジット・テンソード


 十本の大剣が一つに重なる。


 超至近距離であれば、跡形も残さず消し去る事が出来る威力。


「ごめんなさい」


 一言。確かに聞こえる声音で、アリスは謝罪を口にする。


 そして、ヴォーパルソードを振り上げた。


 ロデスコの蹴りと同等の威力を持つ剣撃は異譚支配者を飲み込み、消し炭すら残さずに消滅させた。


「……ごめんなさい」


 もう一度、消え入りそうな声でアリスは言う。


 異譚と現実を隔てる暗幕が晴れる。町中に立ち込めていた霧は晴れ、夕焼けが差し込む。


「ふぅ……」


 異譚の終わりを覚って、一つ息を吐きながらロデスコはその場に座り込む。


 座り込んだロデスコの方を向きながら、アリスは問う。


「……最後、手を抜いたの?」


「は? ……まさか。アタシの実力が足りなかっただけよ」


「そう……」


 ロデスコの蹴りの威力と同等の威力を致命複合・十剣ヴォーパルコンポジット・テンソードは持っている。つまり、ロデスコの二撃目の蹴りでも十分に異譚支配者を倒せたはずなのだ。


 けれど、異譚支配者は真っ二つになるに留まった。


 口では実力不足だと言っているけれど、アリスの言葉を、お願いを、聞いてくれた事になる。


「……ありがとう」


「ケーキバイキング。アンタの奢り」


「分かった」


「勿論、童話全員分。あ、珠緒抜きで」


「……分かった」


 アリスが頷けば、ロデスコは言質は取ったとばかりに笑う。


「でも、珠緒も連れて行ってあげて。仲間外れは可哀想」


「気が向いたらね……って、アンタその言い方だと行かないつもりでしょ?」


「うん」


「はぁぁぁ……」


 アリスの言葉に、ロデスコは心底呆れたように溜息を吐く。


「それ、アタシが完っ全に悪くなる奴じゃ無いの!! 金だけせびって本人連れてこないとかありえないっつうの!! 絶対にアンタも来なさいよ!! アタシのために!!」


「……善処する」


「来・な・さ・い!!」


「……分かった」


「言質取ったかんね?」


「うん」


「はぁ……ったく、このスカポンタンは……」


 ぶつくさ言いながら、ロデスコは瓦礫に背を預ける。


 潮風が二人の髪を撫で上げる。


 優しい潮風は歪んでしまった街並みを駆け、日常が戻って来た事を街に告げた。


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