異譚30 ブリーフィング
午後になり、ブリーフィングが開始される。ブリーフィングは各部屋でタブレット端末にて行われる。
タブレット端末から今回の作戦の概要が説明される。
海上都市まで空母で出来る限り接近する。その後、小型戦闘艇で海上都市に上陸。この時、三カ国で別々の進路から上陸する事になる。
今回の作戦は合同作戦とはなっているけれど、事前に合同演習をした訳では無い。十全に連携を行うのであれば、同じ国の魔法少女同士の方が連携をしやすいだろうという考えだ。
だが、これは完全に連携をしなくて良いと言う事では無い。戦闘の状況に応じて各国同士で援軍を送る事もすれば、敵を引き受けて態勢を立て直すまでの時間稼ぎをする時もある。
そして、肝心な異譚支配者への対処だけれど、言い方は悪いけれど早い者勝ちという形になる。異譚支配者に先に遭遇した国が対応。それ以外の国は露払いに専念する。
今回の作戦には、各国の精鋭が集まっている。過去の異譚侵度Sの異譚から考えても、十分に三カ国のどの国でも対応出来る範疇だと上層部は考えている。加えて言えば、プラスアルファとしてレクシー達イギリスの魔法少女達も居る。
過剰戦力と言っても良いくらいには戦力がある。
だが、何が起こるか分からないのが異譚だ。それも、異譚侵度Sともなれば何が起こっても不思議では無い。現状の戦力で討伐は無理と判断した場合は、すぐさま救援要請を送る事を義務付けている。その場合、即座に各国の精鋭が向かう手筈となっている。
作戦の概要を聞き、ブリーフィングは終了する。
質問や疑問点はブリーフィング後に端末から送信し、改善点が見つかれば次のブリーフィングが開かれる。
だが、異譚に定石が無い以上、綿密に作戦を組んだところで破綻する可能性の方が高い。であれば、ある程度の指針を決めておいて後は現場判断という形の方が動きやすい。
ブリーフィングが終了し、朱里は凝った身体を伸ばしてほぐす。
「まさか、三カ国合同作戦だったなんてね」
「プラスでイギリスチームも参加してくれてる」
二人が居るのは作戦までの三日間と、帰りの三日間を過ごす部屋である。
殆どの者は壁に固定されている三段ベッドが幾つもある部屋での睡眠となるけれど、アリスの普段の姿がトップシークレットであるために、アリスは個室を与えられている。朱里はその補助役としてアリスと同室になっている。
「それも驚きよね。アタシ達的にはタイミングが良いけど、旅行がてら来たアイツらからしたら、とんだ災難よね。ただの異譚ならいつもの事でしょうけど、今回は異譚侵度Sですもの」
朱里はブリーフィングまで爆睡していたので、三カ国合同である事も、レクシー達イギリスの魔法少女が居る事も知らなかった。
因みに、イギリスチームはシャーロットが居るので日本に編成される。
朱里はベッドに寝転がって、柔らかい枕に顔を埋める。
「あー……柔らかいベッド最高。英雄様万歳」
限られたスペースに三段ベッドを設置しなければいけないので、マットレスの質はそこまで良くない。
だが、アリス達の部屋は個室な上に、士官が使うような良い部屋である。無論、室内の設備も他の部屋よりも良いものとなる。
「アンタ、変身解かなくて平気なわけ? 此処にはアタシしか居ないんだし、少しくらい魔力温存したら?」
「……うん、そうする」
ヴルトゥームとの戦いで魔力総量は以前よりも格段に上がった。致命の大剣の使用回数も三回から倍の六回へと引き上げられている。
けれど、何が起こるか分からない。剣一本の差で負ける事も有り得る。そうならないために、少しでも魔力は温存しておきたい。
アリスは変身を解くと、部屋着姿の春花が姿を現す。
「……そういや、アンタ着替える間も無かったわね」
「うん。でも、殆どアリスとして過ごす事になると思うから平気」
春花はいそいそと二段ベッドの階段を上り、横になる。
「それより、東雲さんは良かったの?」
「何が?」
「僕と一緒の部屋で。こう見えて男の子だけど、僕」
「あー……まぁ、良いんじゃない? アンタがアタシになんかするとは思えないし」
なんか。抽象的な言葉に含まれた意味をくみ取れない程、春花は察しが悪い訳では無い。
「うん、しないよ」
「でしょ? なら平気よ。それに、アンタの正体知ってる奴が一緒の方がやりやすいでしょ」
「うん」
春花の事を何も知らない相手、例えばシャーロットやみのりが同室だった場合、春花も困ってしまう。……色んな意味で。
今回、チェシャ猫は対策軍本部でお留守番して貰っているので、チェシャ猫の手を借りる事も出来ない。
そう思えば、確かに朱里が同室である事は春花にとってはありがたい事だ。
「それに、他の奴らより良い部屋使えるしね。役得よ、役得。シャワー室もあるし、トイレも個室だし。知らない奴と雑魚寝しないですむしー」
士官用の部屋と言う事もあり、設備は他の部屋より上質であり、利便性も高い。
「気心知れた相手と同室なんだから、アタシにとってはデメリット無いわよ」
「そっか……」
「ええ。それに、不謹慎だけど、お泊り会みたいでちょっと楽しいしね。あ、定番の恋バナでもする? まぁ、アタシは手持ちの話題ゼロだけど。アンタは……まぁ、聞くまでも無いか」
「うん、無い」
「じゃあ恋バナは無しね。笑良とか居れば違うんだろうけど……ああ、でも意外と瑠奈莉愛も恋バナありそうよね。あの子、男女分け隔て無く接してそうだし、プロポーションも良いから、男子に人気ありそう」
「僕からすれば、皆魅力的だとは思うよ。世間的に見れば可愛いって話だし。あと、強いし」
「アンタ、女子を戦闘力で見てない? 言っとくけど、女子力って女子の戦闘力の略語じゃ無いからね?」
「流石にそれは知ってるよ。……でも、確かに魔法少女目線で見てるかもしれない」
「魔法少女フィルター切って考えてみなさいよ。アタシ的には白奈もモテると思うのよね。あの子清楚だし、優しいし、気立ても良いし」
「……うーん……そう考えると、猫屋敷さんも、モテるのかな?」
「どうして?」
「上狼塚さんと同じで元気だから」
「アンタ……小学生でももっとまともな事言うわよ?」
春花の発言に呆れつつ、二人はいつも通りのリラックスした雰囲気で会話を続けた。
結局は恋バナのような話題になっているけれど、二人は気にする事も無く会話を続ける。
因みに、童話一モテないであろう魔法少女はシャーロットで一致した。理由は言わずもがな隠し切れない程の変人だからである。




