異譚26 異譚侵度は……
昨日告知した通り、アリスの応援イラストが公開となりました!
とっても素敵なイラストとなっております! 是非是非チェックしてみてください!
活動報告などに載せようと思ったのですが、やり方がまったく分からなかったため、ツイッターにしか載せられませんでした。作者ツイッターにも載っていますので、良かったら見て行ってください。
超古代都市が海底から浮上し、海上にその全貌を表した直後、世界中で異譚発生の警報が鳴り響いた。
それは勿論、日本も例外ではなく夜中にも関わらず魔法少女全員が対策軍へと集められていた。
「全員揃ったな。それではブリーフィングを始める」
童話のカフェテリアにて、全員揃ったのを確認した後、即座にブリーフィングが始まった。
スクリーンに映し出されるのは、海上に浮かぶ広大な古代都市。
「これは、数十分前に観測された異譚の写真だ」
「写真……待って、どうして写真が撮れるの?」
アリスの発言に、瑠奈莉愛と餡子はきょとんと小首を傾げるけれど、魔法少女として長い面々はアリスの覚えた違和感に気付く。
「暗幕が無い……」
「あっ」
「確かにです!」
白奈が答えを言えば、瑠奈莉愛と餡子もようやく気付いたように声を上げる。
普通の異譚であれば、異譚と現実世界を隔てる暗幕がある。透明度の違いはあるけれど、異譚内部がこんなに完全に見える事は無い。
これだけ綺麗に異譚の外側から写真を撮れるなんて事は無い。
「異譚じゃないって事かしら?」
「現状での判断は難しい。ただ、都市自体から確かな魔力反応が検知できるため、ナニカがそこにある事は間違いないだろう」
「調査の方はどれくらい進んでるんですか?」
「まだこの衛星写真だけだ。なにせ、どの陸地からも離れた位置に存在しているからな。到達するまで時間が掛かる上に、到達するための手段も限られる」
「でも魔力反応は在るんだろ? なら、調査とか言ってねぇで、制圧しちまえば良いじゃんか」
「バカねアンタ。到達するのが難しい場所よ? もしもの時に即座に援軍も送れないし、あの都市が魔力で浮いていて、あの都市が異譚だったら、異譚支配者を倒した時点で沈むのよ? アタシみたいに宙に浮けるならともかく、アンタが行ったら都市と一緒に海の藻屑よ」
朱里の指摘に、珠緒はバツが悪そうな顔をする。
言葉を返してこない珠緒を見て、勝ったと両腕で力こぶを作って勝利のポーズをすれば、珠緒は悔しそうにぐぎぎっと歯ぎしりをする。
「でも、この都市が異譚ならゆっくりしてる時間は無いんじゃない?」
「……同意。暗幕無いから、どれだけ広がってるか、分からない……」
異譚の暗幕が見えないと言う事は、この異譚がどれほど広がっているかが分からないと言う事に他ならない。
生命体が変異していれば異譚の範囲内だと分かるけれど、どの生物がどのように変異するかも分からない上に、捕獲や調査だって一筋縄ではいかない。
「異譚の脅威度が分からない以上、悠長に構えている方が危険かもしれない」
「そーだそーだ! ビビってんのはテメェだけだバーカ!」
アリスが珠緒寄りの意見をすれば、珠緒は水を得た魚のように生き生きと朱里に言う。
「別にビビってませんけど? コイツらは考えた上での発言だけど、アンタの発言はノープランも良いとこでしょ。同じ意見でも、中身が詰まって無きゃ意味無いのよ」
「つ、詰まってますけどー? あたしだって同じ事考えたけどー?」
目を泳がせながら答える珠緒を朱里はふっと鼻で笑う。
「じゃれ合いはもう良いか? ブリーフィングを続けるぞ」
完全に勝敗が決したところで沙友里がブリーフィングを再開させる。
「おおむね、笑良達の言う通りだ。現状、この都市の脅威度は計り知れない。海という接点から、クルールー教団に居た半魚人とも関りが無いとも言い切れない。もしクルールー教団と関りがあった場合、この異譚の脅威は既に世界中に広がっていると言う事に他ならない」
「その場合、我々が観測できない海底でずっと異譚として発生していたって事ですか?」
「そうなるだろうな」
「クルールー教団自体はずっと前から存在していた。もしその説が正しければ、もう何十年、最悪百年くらい異譚として存在していた事になる」
大いなる神の教団がいつ発足されたかは分からない。それでも、かなり昔の事である事は事実だ。
「まぁ、それもあくまで仮説だ。異譚とクルールー教団の繋がりが見えない以上、これ以上話したところでこじつけになってしまう。今は、この異譚に集中しよう」
この先調査を進めれば分かる事かもしれないけれど、現状では何とも言えない。
「異譚であってもなくても、無視できる魔力反応では無い。よって、上層部の決定は魔法少女による調査と制圧の同時進行作戦だ。朱里が危惧した通り、空中、もしくは水中に逃げ延びる事が出来る魔法少女のみ選出となる」
空中や水中に逃げる事が出来ても、体力と魔力が残っていなければ都市が沈んだ時点で、海底への下降に巻き込まれる。
異譚は毎回ギリギリの戦いを強いられる。地上であれば回収班が向かえるけれど、海中となれば回収は難しいだろう。
「今回の作戦は難易度が高い。よって、実力の高い者かつ少数精鋭で行こうと思う。まぁ、少数精鋭は毎度の事だがな」
言いながら、沙友里はスクリーンに今回のメンバーを映し出す。
「アリス、朱里、詩、シャーロットの四人だ。唯と一、みのりの三人は中継地点となる空母にて待機だ。それ以外の面々はこの場で待機」
「「「「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」」」」
返答をした後、珠緒は不機嫌そうに舌打ちをする。
「ちっ、今回も留守番かよ。しゃーねーけど。空飛べねぇし、泳げねぇし」
「凍らせる事なら出来るけど、流石に海となるとね……」
「流石の狼も、海は泳げないッス……自分がペンギンとか白熊だったら行けたんッスけど」
「猫もお水は駄目です……」
「待機も立派な仕事よ。何があるか分からないんだからね」
異譚へ出撃出来ずにしょんぼりする四人に、笑良が優しく言葉をかける。
皆が戦いたくて異譚に行きたかったとしょげている訳では無い事は分かっている。仲間の力になりたいのに同行できないから落ち込んでいるのだ。
「そう言えば、魔力が測定出来てるなら異譚侵度は分かるんでしょ? いくつくらいな訳?」
何気なく、朱里が沙友里に訊ねる。
沙友里は至極言いづらそうに一回視線を外し、直ぐに真っ直ぐに朱里を見て答えた。
「観測の結果、異譚侵度はSだ」
沙友里の言葉に、この場に居る全員が凍り付いた。




