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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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208/490

異譚20 愛のヒッチハイカー

祝、200万PV

あざざます。

「はい、到着」


 少女はロータリーにバイクを止めて、ぴょんぴょんを見る。


「私が言うのもなんだけど、もう危ない事しちゃ駄目だよ? 今回みたいなのは特に、ね」


「は、はい……」


 一応は頷いて見せるけれど、ぴょんぴょんの本業はそう言った方面への突撃取材である。とはいえ、配信(本業)だけでは食って行けず、バイトをしてはいるのだけれど。


 曖昧に頷いたぴょんぴょんに、少女もぴょんぴょんが今回のような事を止めるつもりが無い事に気付く。


 しかし、少女にぴょんぴょんを止める義務も無ければ、義理も無い。


 サイドカーから降りたぴょんぴょんに別れの声を掛ける。


「それじゃあ、ばいばい。本当に、もう危ない事はしないでね」


 それだけ言って去ろうとする少女だったけれど――


「あ、あのっ!」


 ――ぴょんぴょんは意を決したように声を上げる。


「わ、わたしと一緒に配信しませんかっ!?」


「配信?」


「はいっ! あなたが用心棒で、わたしがカメラマンですっ! あなたと一緒なら、どんなところでも撮影に行けますっ!」


 少女を誘う事に打算はある。言葉通り、この少女と一緒であれば今以上に危険な場所に行ける。怪物を相手にしても臆さず、果敢に戦う事が出来る。ぴょんぴょんには無い危険への対処能力があるのだ。


 だが、打算以上に、ぴょんぴょんはこの少女の事を気に入ってしまったのだ。


 格好良くて、可愛くて、強くて、頼もしい。明らかに動画配信()えする存在すぎる。そんな彼女と誰もが求める刺激的な動画が撮れるのであれば配信者として突出した存在になれる。


 なにより魅力的な彼女の傍に居られる。配信者としての成功よりも、そちらの方が今のぴょんぴょんには重要な事だった。


「どう、でしょうか……?」


 上目遣いに訊ねれば、少女は考える素振りも無く答える。


「ごめんね。私、そういうの興味無いから」


「そ、そうですか……」


 即座に断られ、しょんぼりとするぴょんぴょん。


「帰り、気を付けてね」


 バイクを発進させ、ロータリーから去っていく少女。


「あのっ! わたし、ぴょんぴょんですっ! 応援だけはしててくださーいっ!!」


 去り行く少女の背中にそう声を掛ける。


 少女は返事をするでもなく、そのまま去って行ってしまった。


 少女と仲良くなれず、連絡先も貰えず、それどころか名前すら聞いていない事に今更気付いて、しょんぼりとするぴょんぴょん。


 しかし、ぴょんぴょんはしょぼくれるだけの女では無かった。


「よしっ! 帰って見返し配信しよっ! あの人 伸びるぞ~、今日の配信は伸びるぞ~っ!」


 気持ちを入れ替えて意気揚々と自宅へと帰るぴょんぴょん。


 この時、ぴょんぴょんはまだ知らなかった。自身の配信しているプラットフォームが流血や暴力がNGであることを。アカウントに二週間の活動停止処分が下っている事を。


 その後泣きながら今回撮った動画のモザイク処理などに追われたり、SNSで自身の名前が大きく取り上げられたり、コラボの依頼等が殺到したりするなんて事は、まだ少し先の話。


「よ~しっ! 頑張るぞ~っ!」


 無垢な笑顔が曇るのは、帰宅して直ぐの話ではあるけれど。





 ぴょんぴょんを駅に送った後、少女はバイクを走らせる。


 暫く走っていると、前方の歩道から左腕を伸ばして親指を立て、右手に『連れてけ、どっか』と書かれた段ボールを持った少女を見かける。


 少女はバイクを停車させると、恐らくヒッチハイクをしているだろう少女に声を掛ける。


「ヒッチハイク?」


「そう。ワシ(・・)、愛のヒッチハイカー」


「そう。頑張って」


 それだけ言ってバイクを走らせようとする少女だけれど、すかさずヒッチハイカーの少女はサイドカーに乗り込む。


「遠慮すな、乗せてけ」


 ぬるりとまるで猫のようにサイドカーに乗り込んだヒッチハイカーの少女。


 少女は諦めてそのままバイクを走らせる。


 暫くバイクを走らせると、ヒッチハイカーの少女が訊ねる。


「証拠、撮れたか?」


「ばっちり。協力してくれてありがとう」


「お安いごよ。ごほーびは春花(・・)のケツ」


「嫌だよ。もっと別の事にして」


「別……つまり、もっと激しい……こと!?」


「だ、だだだだだ駄目だよう! そ、そんな破廉恥な事、ぜ、絶対に許さないんだからぁっ!!」


 バイクに乗っているのは二人だけ。そのはずなのに、三人目の声が二人の会話に割って入る。


 少女の被るヘルメットから伸びる後ろ髪と首の隙間から、ひょこっと顔を出すのは親指程の小さな少女。


 彼女はこの作戦が始まった時からずっと少女の首の裏と髪の毛の間に隠れていたのだ。


 もうお分かりかと思うけれど、バイクを運転している少女は春花、首の後ろの妖怪はサンベリーナ、サイドカーに乗り込んだのはシャーロットである。


 これは春花が提案した潜入作戦であり、十分な協議と準備をして行われた非公式の作戦である。





「……確かに、クルールー教団は厄介ではあるが、対策軍(我々)が公的に捜査をするような相手でもない。それでも、この作戦を決行する必要性が在ると、君が判断する理由を聞かせて貰おうかな?」


 対策軍の上層部が揃う会議室にて、対策軍総司令官である桜小路綾乃はきつく細めた目で春花を見やる。


 対策軍の上層部が揃っているにも関わらず、春花は物怖じした様子も無くはっきりとした口調で答える。


「魔法少女達の私生活に被害が出始めてます。大きな問題になる前に、鎮静化は必要かと思います」


「それはこちらも重々承知している。だからこそ警察と連携をとって事に当たっている。あの手の教団には後ろ暗い事も多いだろうさ。徹底的に捜査をして、臭い部分を徹底的に突いていくつもりだとも」


 対策軍も馬鹿ではない。魔法少女達の安全の確保やクルールー教団への対策は既に講じている。そんな事、春花に言われるまでも無く既に行っている。


「表面上の事は良いんだよ。私はね、君がどうしてこんな違法な作戦を立てたのかが聞きたいんだ」


 違法に入手された証拠には証拠能力は不随しない。春花の立案した作戦は住居不法侵入に値する。よって、今回の作戦で得た証拠は全て、違法に入手された証拠になる。


 それを分かった上で作戦を立てた春花の真意を知りたいのだ。


「魔法少女に対する敵対心が異常過ぎます。問題行動を起こした教団のメンバーは、全員が全員異譚の被害者という訳ではありません。魔法少女に恨みを持つ理由が無い者も居ました。そんな者が他人に感化されただけで逮捕されるような問題行動を起こすとは思えません」


「春花。人間には時折我々からは考えられない程の馬鹿という者が現れる。物事を考えられない馬鹿は、他人の考えに感化されやすい。そんな奴が問題行動を起こしたところで不思議は無いよ」


「それ以外にもちゃんと理由はあります。全員が見た共通夢とやらも偶然と片付けるには規模が大きいです。総司令の言う馬鹿が居るとして、あまりにも数が多すぎるかと」


「そういう組織に引っ掛かるのは、何も馬鹿だけじゃ無いよ。心の弱い者も引っ掛かる。何かのせいにしたい、誰かに縋りたい。そんな自分だけで立てないような奴が大勢集まるのさ。君が仲良くしている東雲くんに聞いてみると良い。良い話が聞けると思うよ」


「総司令、それは――」


 あんまりな物言いに口を挟もうとした沙友里だけれど、綾乃に視線で制される。


 綾乃の目には相手に意地悪をしてやろうというような悪意は感じられなかった。


 綾乃との付き合いもそこそこ長い。意味も無く相手を怒らせるような発言はしないはずだ。


発しかけた言葉を飲み込み、綾乃の判断に任せる事にした沙友里。


「すまないな。まだ何かあれば、続けてくれたまえ」


 綾乃がそう促せば、春花は特に気にした様子も無く続ける。


「クルールー教団の前身は大いなる神の教団です。このような名前の組織は数多くあります。特に気に掛ける必要も無いと、今までの僕なら判断してました」


「今は違うと?」


「はい。ヴルトゥームのように異譚を介さない生物が存在する事はご存知かと思います」


 異譚を介さない生物。つまり、異譚を発生させる原因であり、異譚の向こうに居る規格外の生物達。


「今回の騒動、規模もさることながら人々に広がる速度も恐ろしく早い。圧倒的な先導者(カリスマ)が居る訳でもない。誰かが感化されるような間違いを正すような知見がある訳でもない。それでも、無視出来ない規模に膨れ上がっているのはきっと訳があるはずです。僕は――」


 迷いなく、しっかりとした口調で、春花は告げる。


「――上位存在の介入を視野に入れるべきだと考えます。手遅れになる前に、例え違法だとしても調査はすべきです」


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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の一件は世界に注目されてる程度には話題性があるし元々かなりの人気がある程度に面白い配信ができてたならファンも相当増えたでしょう
[一言] 春花だった……
[一言] ぴょんぴょんの立場で見ると、運命の出会い的なシチュなのか…? シャーロットがダンボール調達しているのなんかシュールだな・・・。
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