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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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異譚19 脱出

区切り良かったので短めです。ごめんなさい。

 迫り来る半魚人を倒して進み、何とかクルールー教団の日本統括支部からの脱出に成功する少女とぴょんぴょん。


 だが、施設から抜け出しても休む事はおろか、油断をする事も出来なかった。


 何故なら、施設を脱出しても半魚人達は二人を追いかけてきているのだから。


「はぁっ、ひぃっ、はぁっ、ひぃっ!!」


 階段を十階分駆け上がり、広大な施設を駆けまわってやっとこさ脱出できたのに、白昼堂々追って来るのでずっと走り続けているのだ。


 様々な場所に足を運び、アクティブに動き回っているという自信と自負のあったぴょんぴょんだけれど、その自信も自負も今や粉々に砕け散っている。


今までにない緊張感と死への恐怖によりいつも以上に体力を消耗しているので、いつも通りのパフォーマンスが出来なくて当然なのだけれど、本人はその事にまったく気付いていない。そもそも、気付く余裕も無い。


 はぁひぃと息を荒げて少女の後を付いて行くのがやっとだ。後ろから来ているのは分かっているけれど、後ろを気にしている余裕はまったくない。


 半魚人達が白昼堂々と施設を出て追いかけてくるのは、日本統括支部が人里離れた場所にあり、周囲に教団関係者以外の者が居ないからだ。


「ど、どこまでも、追いかけて、来ますぅ……っ!!」


「どこまでもは追いかけて来ないはず! 頑張って!」


「は、はいぃっ!」


 ばたばたと脚をもつれさせながら、ぴょんぴょんは必死に走る。


 少女は頑張ってと言うけれど、衆目のあるような場所まではかなりの距離がある。徒歩では時間が掛かるし、何よりぴょんぴょんの体力がもたない。


 もしかしたら今日が命日かもしれない。最悪の展開を想像しかけたその時、先行していた少女が速度を上げる。


 置いて行かれると一瞬思ったけれど、どうやら違うらしいと分かったのはその直後だった。


 茂みの中からサイドカー付きのバイクが飛び出して来て、少女の前で停まる。


「乗って!」


「は、ひっ!」


 もはやまともに返事も出来ないくらいに息の上がっているぴょんぴょんは、飛び込むようにサイドカーに乗り込む。


 ぴょんぴょんがサイドカーに乗り込んだ瞬間、少女はバイクを急発進させる。


 流石に半魚人(かいぶつ)と言えどもバイクの速度に追い付くのは難しいようで、瞬く間に半魚人との距離が開いて行く。


 ぴょんぴょんは息を整えながら、後ろを振り返り小型撮影機を向ける。


 段々と遠のいていく半魚人達は、しかし、諦める事無くこちらに走り続けている。


 正常な判断能力があるのであれば、バイクに勝つ事が出来ないと分かった時点で追いかけるのを諦めるか、別の手段で追いかけて来るだろう。


 けれど、半魚人達は手段を変える事も無く、諦める事も無く、二人を追いかけている。


 まともな判断能力を持ち合わせていない怪物。もし追い付かれていたら、何をされていたか分からない。


 何も考えずに武器を振り回していた事を考えると、生け捕りにされる事はまず無いと分かる。けれど、一思いに殺してくれるかどうかは微妙なところだった。


 何度も何度も大勢に殴られて殺されていた可能性が高い。痛いと言っても止めて貰えず、止めてと言っても殴られ続ける。


 何を瞳に映しているのか分からない、無機質な瞳に見詰められながら、何度も何度も、死ぬまで恐怖と痛みを与えられ続ける。


 今更ながらにその事実に思い至り、ゾッと背筋が凍り思わず身震いをするぴょんぴょん。


 その後もしきりに背後を確認しては、半魚人が追いかけてきていないかを確認した。


 結局半魚人達は追いかけては来なかったけれど、街に入るまでは一度も安心する事は出来なかった。





 車が行き交い、人々は忙しなく歩く。


 バイクを走らせて暫くして、ようやく人気(ひとけ)の多いところまで辿り着き、ぴょんぴょんは深く息を吐いてサイドカーのシートにもたれかかる。


 少女はコンビニにバイクを止めて、ふうっと一息つく。


「し、暫く夢に出そうですぅ……」


 加えて言うのであれば、暫くはスーパーの鮮魚コーナーに行く事も出来ないだろう。魚の目を見ただけで今日の事を思い出してしまうだろうから。


「不眠とか続くようだったら、ちゃんと病院に行ってね」


「はい……」


 少女はバイクを降りてコンビニに入っていき、暫くしてお水などを買って戻って来る。


 ぴょんぴょんもコンビニでお茶やらなにやら買いたかったけれど、立ち上がるだけの気力が無かった。


 少女は自身の手をウェットティッシュで拭きながら、お水とウェットティッシュをぴょんぴょんに渡す。


「ごめんね。ぬめった手で顔を触っちゃったよね。これ使って」


「あ、ありがとうございますっ」


 ウェットティッシュで顔を拭うぴょんぴょん。生臭さを取るためにごしごしと顔を拭うので化粧が落ちてしまうけれど、ずっと生臭いよりもマシである。


「あそこまでどうやって行ったの?」


「駅からバスに乗って行きましたっ」


「じゃあ、駅まで送るよ」


「良いんですか?」


「此処から駅までそこそこあるでしょ? 流石に、置いて行くなんて事しないよ」


 にこりと笑みを浮かべながら、バイクにまたがる少女。


 少女はゆっくりとバイクを加速させ、駅まで向かう。


 今日はとても怖い思いをして、殺されそうにもなったけれど、この少女と行動を共にするのも駅までだと思うと言いようの無い寂しさがあった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ひえ~ ウェットティッシュって持ってると便利ですよね。 何となく。
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