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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■
206/489

異譚18 ガンアクション

 銃を構えながら階段を降り続ける二人。


 九回ほど踊り場に面した扉を見送った後、二人はとうとう最深部へと到達した。


「此処……ですか……?」


「ええ」


 扉の向こう側から漏れ出る嫌な気配に、ぴょんぴょんは恐怖で顔を顰める。


 常人でも理解できる程、扉の先から漏れ出る嫌な雰囲気。


 少女は片手でドアノブを掴むと、鍵がかかっているかを確認する。


 恐らく鍵がかかっているだろうと思っていたのだけれど、少女の予想に反して鍵は掛かっておらず、ドアノブはすんなりと捻る事が出来た。


「行くよ」


「は、はいっ」


 ゆっくりと扉を開け、中の様子を確認する少女。


 扉の向こうは清潔感のある広大な空間が広がっていた。その空間の端、扉とは正反対に位置する場所は水場となっており、その水場の中央には浮島のような石造りの台座があった。


 台座の上、そこには神官のような服装をした半魚人が座っていた。半魚人の見た目は先程遭遇した二体と変わらない。服装だけが豪奢になっているだけである。


 少女は躊躇う事無く部屋に踏み入り、銃口を半魚人へ向ける。少女の後に続いてぴょんぴょんも部屋へ入る。


 少女は銃口を向けたままゆっくりと半魚人の方へと近付いていく。


 台座に座る半魚人は微動だにせず、じっと二人を見詰める。


 ハンドガンの射程距離まで近付けば少女は足を止める。


「人語を理解しているなら、私の質問に答えて。クルールー教団の目的と貴方達の正体を教えなさい」


 少女が声を掛けるも半魚人は反応を示さない。


 半魚人は目を見開いたまま、微動だにせず二人から視線を外さない。


「し、死んでるんですかね……?」


「…………違う。生きてるよ」


「どうして分かるんですか?」


「微かに動きがあるからね。でも、動き回るような個体でもないみたい」


 どうしてか確信したように言う少女に疑問を覚えながらも、ぴょんぴょんはしっかりと少女と半魚人が画角に入る位置で撮影を行う。


 少女は台座に座る半魚人を警戒しながら、水場の中に視線をやる。


 海辺の匂い。それを更に生臭く、不快にしたような臭いが水場からは漂って来る。


「海水だ、これ」


「えっ、海水っ!? 海までかなりありますよ、此処っ!?」


 クルールー教団日本統括支部は海岸からかなり離れた位置にあり、海水を運び込むにはあまりにも立地が悪い。海水を頻繁に必要とするのであればなおさらだ。


「わざわざ汲んできてるのかな……?」


「多分、繋がってるね(・・・・・・)


「繋がってるって……地下にトンネル掘ったって事ですか?」


「多分ね」


「それはまた、なんのために……?」


「それは分からないけど、見た目的に海水が必要そうな感じはするよね」


「まぁ、確かに」


 生きていくのに必要だから此処まで海水を引いているのか、それともまた別の思惑が在るのか。


「あの、これって異譚なんでしょうか……?」


 ぴょんぴょんの知る限り、半魚人のような化物が出てくるような場所は異譚しか無い。


「流石に分からないかな。海は宇宙よりも未知だって言うしね。異譚以外の不可思議な事があってもおかしくは無いと思うし」


 それ以外にも未確認生命体や未確認飛行物体等々、現在の科学では説明が付かないような事例も多々ある。


 全てが全て異譚に直結する訳では無い。


「……怪物が居る事は分かったし、クルールー教団は魔法少女に明らかな敵意を持ってるのも事実。それに、この地下十階は建築確認申請が出されてないから違法建築に該当するね」


「そんな事まで調べて来たんですか?」


「絶対に情報(ネタ)を掴むためだからね。周到な用意こそ、成功の秘訣だよ」


 言って、少女はパチリとウィンクをする。


「さて、欲しい映像()も取れたし、撤退しよっか」


「そ、そうですねっ! こんな所早く出て行きましょうっ!」


 肝の座っている少女とは違い、ぴょんぴょんは階段で半魚人が出て来た段階で好奇心よりも少しだけ恐怖心が勝っている状態になっている。売れたいという思いで此処まで来たけれど、正直今すぐにでも帰りたい気持ちで一杯なのだ。


 台座の半魚人を警戒しながら後退を始める二人。


 だが、次の瞬間――


「走ってッ!」


 ――水場から、突如として複数の半魚人が勢いよく上がって来る。


 手には(もり)(いかり)を持ち、躊躇う事無く二人へと接近する。


「あ、あわわわわっ!!」


「ぼさっとしない!」


「は、はいぃっ!!」


 走る少女の後に続くぴょんぴょん。


 扉まで到着すると、少女は勢いよく扉を開ける。


 上を気にしながら、少女は階段を駆け上がる。


「じゅ、十階分も上がるの~っ!?」


「文句言わない! 死にたくなかったら走る!」


 ぴょんぴょんを置いて行かないように注意しながら、前後と上を注意しながら進む。


「――ッ! 伏せてッ!」


「ぷうぁあっ!?」


 伏せてと言いながら、ぴょんぴょんの頭を掴んで無理矢理下げる。


 直後、二人の頭上を燭台が通過する。


 前方の扉からいきなり出て来て燭台を振り回した半魚人の膝を撃ち抜き、力が抜けてがくっと身体が下がったところで至近距離かつ顎の下から頭を撃ち抜く。


「走るよ!」


「はいぃっ!!」


 必死になりながら少女に付いて行く。


 少女は階下に向けて威嚇射撃を行いながら、階段を上がる。


 だが、踊り場にあった扉から、わんさか半魚人が出てきて二人の退路を阻んでくる。


 少女はぴょんぴょんから数歩前に出て、ハンドガンを斜めに傾け両手で構え、前方から来る半魚人を迎撃する。


 敵が攻撃をする前に撃ち、敵からの攻撃に臆することなく前へ前へと進む。


 撃ち尽くしリロードをしながら、少女は半魚人の攻撃を躱す。膝を蹴り付けて体勢を崩させ、銃底を側頭部に叩き付ける。


 まるで映画のアクションシーンを見ているかのような洗練された動きにぴょんぴょんは思わず感動――


「うひゃぁぁぁぁああっ!!」


 ――している暇も無く、ただただパニックになっているだけだった。


 それでも小型撮影機で撮影を続行しているあたり、配信者としての根性が表れている。


 最初に半魚人を対処した時、身体の衝撃への耐久度が人間と変わらない事は確認していた。そのため、人間を相手にしているのと変わらない要領で戦える。


 少女は終始冷静に、ぴょんぴょんは終始パニックになりながらも、必死に階段を駆け上がった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 半魚人パニック祭り始まった。これはバズる。
[一言] ぴょんぴょん可哀想…ではないなw
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