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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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異譚17 潜入!! 教団最深部!!

 入団説明会は特におかしなところも無く(つつが)なく進んだ。


 クルールー教団の発足理由、クルールー教団の活動、クルールー教団の実績、等々。怪しい新興宗教の説明会のような内容ばかりだけれど、それ以外の怪しさは無い。


「それでは、お次は施設内の説明に移ります。実際に見ていただきますので、グループに分かれて移動します。人数が多いので、半数が施設案内、半数はディスカッションを行おうと思います」


 並んであるパイプ椅子は区画ごとに分かれており、その区画でグループを組む事となっているようだ。


 隣同士なので、ぴょんぴょんと少女は一緒のグループ。


 露骨に嬉しそうな顔をするぴょんぴょんに対し、少女もにこりと微笑んで返す。


「一緒だね」


「ですねっ!」


「それでは、Eグループの方々は私に付いて来てください。案内を開始いたしますので」


 ぴょんぴょん達のグループは前半の案内を受けるグループだった。


 案内役の女性に先導され、Eグループは施設内を移動する。


「結構おっきいですねっ」


「そうだね」


 二人はきょろきょろと物珍しそうに視線を巡らせる。


 病院のような清潔感がある見た目だけれど、どうしてか生臭さがある。


 それに、廊下や室内には必ず蛸や半魚人の彫像が置かれており、彫像の台座や壁掛けには六つの目が描かれたマークが印されている。


「すみません。このマークや彫像は何ですか?」


 一人の男性が挙手をして訊ねれば、案内役の女性はにこやかな笑顔で答える。


「こちらは、我らが神とその眷属の彫像になります。サイン(・・・)は我らが神を表しています」


「なるほど」


 時々質疑応答を交えながら、一行は施設を案内される。


 そんな中、少女はふらりと一行から離れる。


「どこか行くんですか?」


 ぴょんぴょんが訊ねれば、少女はにこっと笑みを浮かべる。


「ちょっとお手洗い。上手く言っておいて」


 それだけ言って、少女は足早に一行から離れていく。


 美人もお手洗いに行くのか、とどうでも良い事を思ったけれど、お手洗いだったら案内の者に言えば良いだけだ。案内の女性は柔和な笑みを浮かべているので、それくらいは許してくれるだろう。


 わざわざ黙って一行から離れるのは少し怪しい。それに、ぴょんぴょんの勘が告げている。彼女に付いて行けば面白い事がある、と。


 それに、わざわざ地元(ホーム)から離れて怪しい教団の総本山に来たのだ。ただ入団説明会を受けて帰っただけでは面白い()は撮れない。面白い映像が撮れなければ、再生数も伸びなければ自分の存在が世に知らしめられる事も無い。


「よしっ」


 ぴょんぴょんは一つ頷き、皆の目を盗んで一行から離れ、先を行く少女を追う。


 とととっとぴょんぴょんが近付くと、少女が振り返る。


「どうしたの?」


「あ、あのっ! わたしも一緒に行きますっ!」


 ぴょんぴょんが言えば、少女は少し考えるように視線を外す。


「……ごめんね。お手洗いは嘘。ちょっと用事があるから離れるだけ。お手洗いならそこの通路を曲がって直ぐにあると思うから、一人で行ってもらえるかな?」


 先程までとは違う、冷静で突き放すような声音にぴょんぴょんは一瞬驚くけれど、気丈に少女を見つめ返す。


「わたしもお手洗いじゃないですっ! あなたが見ようとしてる物を、私も見に来たんですっ!」


 言って、ぴょんぴょんは鞄の中から小型撮影機を取り出して撮影用の棒にセットする。


「改めまして、わたし突撃系配信者のぴょんぴょんですっ! チャンネル登録者数は二十万人弱っ! 現在の同接は二万人ですっ!」


 改めて自己紹介をするぴょんぴょんに、少女はまたも考えるように視線を外す。


「……うん、私もそう思う。安全を確保すれば、なんとか……」


 ぼそぼそと一人で何やら呟く少女。


 少女の独り言に言及する前に、少女は真剣な表情でぴょんぴょんに視線を戻す。


「多分、危険だよ。それでも来る?」


「はいっ!」


 強く頷くぴょんぴょんに、少女も一つ頷く。


「じゃあ、絶対に私から離れないで」


「分かりましたっ!」


 ぴょんぴょんの返事を聞くと、少女は振り返って早足で歩き出す。


「因みに、どちらに向かわれるんですか?」


「この施設の最深部だよ」


 言いながら、少女は関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を迷いなく開く。


 扉の向こうは階段であり、どうやら下の階に続いているようだった。


 二人が案内されていた階は一階であり、この階段の先は地下と言う事になる。


 少女は迷う事無く先に進む。


 ぴょんぴょんも少女の後に続く。


 因みにこの時のコメント欄では『謎の美少女の謎が更に深まった……』『いったい何者なんだ?』『これぴょんぴょんの仕込み? 都合よすぎじゃね?』等々、反応はまちまちである。


 けれど、クルールー教団日本統括支部の最深部に迫るとあって、コメントは大盛り上がり。SNSで宣伝する者も現れ、同時接続数は増え続けている。


 そんな事とはつゆ知らず、二人は階段を慎重に降りていく。


「結構降りますね……」


 途中、幾つか扉があったけれど、その全てを無視してひたすらに最深部へと降りていく。


「これ、本当に行先あってます?」


「合ってるよ。……ごめん、少し止まって」


 言葉と共に、手でぴょんぴょんに止まるように合図する。


 二人が降りている階段は四角の辺に沿ってぐるぐると進む階段だ。螺旋階段よりは規模があるけれど、構造は螺旋階段と同じ。真ん中に空いた穴から、慎重に階下を覗く少女。


 ぴょんぴょんも小型撮影機と共に階下を覗く。


「二人上がって来てる。屈んで」


「は、はいっ」


 誰かが上がってきていると聞いて、緊張で心臓の鼓動が早まる。


 なにせ、自分達がしている事は不法侵入。それもカルト教団の本拠地への不法侵入だ。普通の会社などであれば警察を呼ばれ逮捕されるだろうけれど、カルト教団が相手ではどうなるか分からない。


 しかし、緊張するぴょんぴょんとは対照的に、少女は冷静な面持ちで身を屈める。


 少女の言う通り、ぺたぺた(・・・・)と足音が聞こえてくる。


 その足音を聞いて、違和感を覚える。


 二人が降りて来た階段は硬いリノリウムシートが敷かれている。どんなに柔らかい靴底でも、ぺたぺたという音はしない。


 湿り気のある物体が、付いたり離れたりするような音。


 自身の常識の範疇を超えた現象に、更に心臓の鼓動が早まる。


 足音は段々と近付き、とうとう二人の前にそれは正体を現した――瞬間。


「――ッ!!」


 少女は素早く跳び出し、正体を現した者の顎を掌底で打つ。次いで、もう一人の方の腹に流れるような動作で蹴りを叩きこむ。


 少女に攻撃された二人は声を上げる間も無く地面に伏せった。


「すっご……っ!」


 思いもよらない出来事に、思わず感嘆の声を漏らすぴょんぴょん。


 コメント欄でも『武闘少女!?』『強すぎない!?』『可愛くて強いとか反則かよ!』『ていうか、普通に傷害罪じゃね?』等々、爆速でコメントが流れていく。


 階段を上がって来ていた二人は足元まで伸びる長いローブを着ており、そのローブには胸部と背部に()()(サイン)が描かれていた。


「なにか習ってたんですかっ?」


「ちょっとだけね」


 ぴょんぴょんの言葉に返しながら、少女はローブのフードを()ぐ。


「やっぱり……」


「ひっ……!!」


 フードの中を見た少女は納得の声を上げ、ぴょんぴょんは短い悲鳴を上げた。


 フードの中にあった顔は普通の人間の物とは大きく異なった。


 ぎょろりと飛び出んばかりの巨大な目。顔中を覆う湿り気を帯びた鱗。大きな口は目の下まであり、首元には(えら)のような器官が見受けられた。


「な、なんですかこれっ!?」


「見れば分かるでしょ。怪物よ」


 言いながら、少女は服の下から減音器(サプレッサー)付きのハンドガンを取り出した。


「じゅ、じゅじゅじゅ銃っ!? な、なんでそんなもの持ってるんですかっ!?」


「静かにして」


 片手でぴょんぴょんの口を押さえる少女。掌底をした方の手なのでしっとりとしていて生臭い。この施設の生臭さの原因がこの怪物だと、どうでも良い事に気付く。


「どうする、一人で戻る? それとも、付いてくる?」


 少女の問いに、ぴょんぴょんは考える。


 この施設には化け物が居て、それが徘徊している。誰が何処まで化け物の存在を把握しているか知らないけれど、上で説明会を行っている信者の中に必ず全てを把握している者が居るはずだ。


 そんな中を一人で戻って脱出するなんて出来ない。道順は全て憶えているから、実行不可能という訳では無い。ただ、一人で行動するという恐怖に勝てないのだ。


 今までそれなりに危険な配信をしてきたけれど、そのどれよりも命の危機を感じている。


 それでも、現状はこの謎の少女の傍が一番安全だ。


 ぴょんぴょんは涙目になりながら、頷く。


「……ごめん、どっち?」


 戻るとも付いてくるとも取れる返答だったので、申し訳なさそうに謝りながら手を離す少女。


「付いて行きます……っ! 此処まで来たら、秘密を暴いてやりますっ!」


「分かった。それじゃあ、絶対に私から離れないでね」


「はいっ!」


 頷いた後、ぴょんぴょんは小型撮影機を自身が映るように向ける。


「良い? 絶対に何があっても秘密を暴くから、絶対に最後まで見てね? それで、わたしに何かあったら、直ぐに通報してほしい。君達全員が証人だからね?」


 泣きべそをかきそうな顔をしながら言って、ぴょんぴょんは小型撮影機を再度少女へと戻す。


 二人はそのまま階段を降りていく。


 怪物の登場に、同時接続数はどんどんと上がっていく。五万、六万、七万――多くの者がぴょんぴょんの配信を見ている。


 この配信を見ている全員がクルールー教団の本当の姿の目撃者であり証人となるのだ。


モキュメンタリー映画って良いよねって思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] この施設の空調か、特殊な構造か、それとも得体のしれない邪神的な何かの影響とかで電波が繋がっているんだろうか?
[一言] この少女はいったい!?
感想一覧
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