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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■
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異譚16 入団説明会

 クルールー教団は各国に支部が存在しているけれど、国内の支部を統括する統括支部が存在する。


 統括支部は一番規模が大きく、構成員が常駐している数も一番多い。


 また、国内の統括支部やその他の支部には連日入団希望者が殺到している状態であり、毎日のように入団説明会が開催されている。


「どーもっ! 突撃系配信者のぴょんぴょんですっ! 本日はなんとっ! クルールー教団日本統括支部に来ておりますっ!」


 クルールー教団日本統括支部がカメラに収められるくらいの位置にて、一人の少女が小型撮影機にて生配信を行っていた。


彼女の名前はぴょんぴょん。勿論本名ではない。彼女は、生配信を生業とする突撃系配信者だ。


 行ったら絶対に呪われる心霊スポット、日本一治安が悪い町、今話題のスキャンダルですっぱ抜かれた人、等々、人が行くのを躊躇いそうな場所や人に突撃してインタビューをするのがぴょんぴょんだ。


「いっしっしっ! 今日はクルールー教団の入団説明会に潜入しちゃうよっ! 果たして、世間ではカルトと名高い教団がどんな感じなのか、こっそりレポートしたいと思いまーすっ!」


 楽しそうに笑うぴょんぴょんに、コメント欄は心配する声や煽る声、ぴょんぴょんの行動を馬鹿にする声で溢れる。


「それじゃっ、今から受付済ませたりするからねっ! コメントに返信とか出来ないから、よろぴくぅっ!」


 小型撮影機を鞄に仕込み、ぴょんぴょんはクルールー教団の日本統括支部の受付へと向かう。


「すみませーんっ! 説明会の受付お願いしますっ!」


「説明会の受付ですね。かしこまりました。では、こちらの帳簿に必要事項をご記入ください」


 帳簿を渡され、ぴょんぴょんは帳簿に名前などを記入する。勿論、全て出鱈目の情報である。後で自宅に突撃されても怖い。


「それでは、会場の方へお願いいたします。自由席となりますので、空いている席にお座りください」


「は~いっ!」


 受付の者に促され、ぴょんぴょんは説明会の会場へと向かう。


 思いのほか会場は広く、面積だけで言えば学校の体育館程もある。流石に運動をする訳では無いので天井は高くないけれど、それでも十分開放感のある広さだ。


 会場の中には装飾が施されており、蛸のような生物(・・・・・・・)の彫像や、半魚人のような彫像等々、奇妙奇天烈な彫像が幾つも置いてあった。


 それだけでも十分に不気味だけれど、会場に入った途端に生臭い匂いがぴょんぴょんの鼻を突いた。


 受付の時から若干の生臭さは感じていたけれど、会場の中は無視出来ない程の生臭さで満ちていた。


 ぴょんぴょんは会場の生臭さに顔を顰めながらも、空いている席に座る。


 ぴょんぴょんが座った席の隣には、長い黒髪に毛先をピンク色に染めた少女が座っていた。


 ショートパンツに柄の入った長袖のオーバーサイズシャツ。目が大きく見えるようなメイクに、ピンク色のマスク。この場には場違いに思える程可愛らしい少女は、生臭さを気にするでもなく携帯端末をいじっている。


 ぴょんぴょんが少女を見ていると、少女も見られている事に気付いたのか視線をぴょんぴょんに向ける。


「なにか?」


「あっ、いえっ! あなたも、入団希望者さんですか?」


 誤魔化すように訊ねれば、少女は携帯端末を持って来ていたミニリュックに仕舞いながら言葉を返す。


「ええ。興味があってね」


「因みに、どういうところが興味を惹かれたんですか?」


「うーん……どうして魔法少女が悪であるか、彼等が崇めているモノは何か、とか? アタシ、ミステリアスなモノに目が無いから」


 言って、少女は笑う。


 目元だけ窺える笑みだけれど、同性にもかかわらずドキリと胸が高鳴る程可愛らしい笑み。


「そ、そうなんですねっ! 奇遇ですねっ! わたしもそういう謎だったり秘密だったりが大好きなんですっ!」


「そうなの?」


「はいっ! 心霊スポットとか、禁足地とか、そういうの大好きなんですっ! 宇宙人とかUMAとかもっ!」


 ぴょんぴょんは水を得た魚のようにあれこれと話を続ける。


 突撃系配信者として、取れ高のために色々やって来たけれど、本来はオカルト系の題材を取り扱いたいのだ。


 オカルト系だけでは伸びないので、不倫が発覚した有名人に突撃したりする配信をしたりしている。過激な動画の方が再生数が多いので、オカルト系の動画を見てもらうための導線にしているのだ。


 ぴょんぴょんの話を相槌を打って聞いてくれる少女。脚を組み、組んだ脚に肘を置いて顎を支え、身体をぴょんぴょんに向ける少女。


 動作の一つ一つが色を帯び、仕草の一つ一つが魅力的な少女。


 時折見せる笑みを受ければ、ぴょんぴょんはそのたびに胸が高鳴っていくのを感じる。


 この場所が何処で、今自分が何をしているのかを忘れて話を続ける。


 コメント欄ではいつもよりもかなり饒舌に話すぴょんぴょんに、『オタクちゃんギャルに頑張ってるwww』『オタクに優しいギャルは此処に居たか……』『ちっと今からワイも入団してくる』などと盛り上がりを見せている。


 ぴょんぴょんがずっと熱弁をしていると、いつの間にか受付時間は過ぎており、会場はほぼ満席に近い状態となっていた。


 少女は少しだけ視線を巡らせると、話を続けるぴょんぴょんの口元に人差し指を当てる。


「しーっ。そろそろ、始まるよ」


「あっ、はいっ!」


 元気よく頷くぴょんぴょんに、少女はにこりと笑みを浮かべる。


 少女はミニリュックからお茶を取り出すと、マスクを外してお茶を飲む。


 マスクの下の整った顔立ちに、ぴょんぴょんは思わずごくりと生唾を呑む。


 因みにコメント欄では、『マスクの下まで完璧とか……』『いや早まるな。詐欺メイクかもしれないだろ』『あ? それでも可愛いやろがい!』『詐欺は詐欺だろ? 素材で勝負しろよ』『素材を生かすためのメイクだろ。メイクの何たるかを知らない奴はROMってろ』等々、最早クルールー教団の事など話題にも上げずに論争が繰り広げられている。


 そんな事とはつゆ知らず、ぴょんぴょんと少女はいよいよ始まる説明会に緊張した面持ちになる。


『それでは、クルールー教団の入団説明会を行います。まずは、日本統括支部支部長からのご挨拶です』


 アナウンスと共に入団説明会が始まる。


 この入団説明会の配信が、ぴょんぴょん至上最高の取れ高を得る事になるとは、この時のぴょんぴょんには知るよしも無い事だった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 話の流れ的にギャルメイクの春花なんだけど、違う気がするなぁ…… 演技でもこんな饒舌になるか?
[良い点] クルールー教団の実態に迫る(生臭い) [一言] という事はぴょんぴょん、チャンスをものにしたのか…
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