異譚12 我が姫
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天井が高く、広大な部屋。室内には華美な装飾が施されており、入り口と正反対に位置する場所には二つの玉座が置かれていた。
そこは謁見の間。王様が家臣などと謁見するための場所。
玉座の片方に座るのは目も覚めるような美貌を持つ少年。そして、少年の背後にはこれまた絶世と称するに相応しい美女が控えている。
少年は頭に王冠を被り、肘掛けに肘を置き、悠然と謁見の間の中央に立つ人物――赤い服の女に視線を送る。
「それで、何の用だ?」
「随分とまぁご挨拶なものだ。君にプレゼントを持って来たというのに」
「プレゼント? どうせ貴様の事だ。ろくな物じゃ無いのだろう?」
「いやいや。私は有益な物しか提供しないよ。私の与えた物で破滅をするのであれば、それは物ではなく使用者が悪いのさ」
言いながら、赤い服の女は少年に一つの鍵を投げ渡す。
鍵を受け取った少年は、しげしげと鍵を眺める。
「これは?」
「盤上遊戯への招待状さ。使い方は、当然分かるだろう?」
「それくらいは分かる。だが、何故に俺に渡す。俺はお前達の言うところの神とは違うぞ?」
「それは承知の上さ。けれど、君が出てくれると非常に場が盛り上がる。それに、君も会いたいだろう? 愛しい愛しい想い人に」
「当然だ。だが、一つ訂正だ」
「何かな?」
「想い人では無い。我が姫君だ」
断言する少年に、赤い服の女はぷふっと吹き出したように笑う。
「何がおかしい?」
「いやいや。そりゃあおかしいとも。答えを貰っていない、想いを伝えてもいない、そもそも君が眼中にない相手を姫君だなんて……誰が聞いても、おかしいと思うけど?」
「黙れ。答えなど必要無い。そも、あの日見たノートの内容。それが既に答えだ」
「そうかな? そうだと良いね?」
くふ、くふふふ、と気味悪く笑う赤い服の女に、少年は不快感を露わにする。
「用が済んだのなら疾く失せろ。貴様との時間は例え一秒でも不快だ」
「どうしてかな? 嫌われるような事をした覚えは無いけれど」
「嫌われるような事しか出来ないのが貴様だろう。そうでなくとも、俺からすれば貴様は存在そのものが不快極まる」
「それは正常な感性をお持ちな事で。私達のカテゴリーからして、私達を不快に思うのは酷く正常な事だよ」
「俺が不快に思うのは貴様と、俺の邪魔をする奴だけだ。種別など関係無い……ああ、後、もう死んでるが特別嫌いな奴は一人居たな」
遠い昔を懐かしむように赤い服の女から視線を外す少年。
「まぁ、もう関係の無い話だ。さっさと失せろ。貴様の思惑はどうあれ、乗ってやる」
「そうかい。それじゃあ、よろしく頼むよ」
言葉の直後、赤い服の女はすっと一瞬で姿を消す。
「……まったく。不気味な奴だ」
手に持った鍵を空中へと向ける。
「だがまぁ、我が姫に会うためだ。利用されてやる」
鍵を向けた先の空中に鍵穴が現れる。暗く、淀んだ闇が伺える、見ているだけで心底から不安を掻き立てられるような鍵穴に、少年は迷わず鍵を差し込む。
「待っていてくれ、我が姫。今、迎えに行く」
少年は鍵を捻る。
――ガチャリ
どこかで鍵が開く音が響いた。
〇 〇 〇
一学期が終われば学生達は夏休みに入る。
夏と言えば、夏祭り、海、プールに里帰り等々、様々なイベントが盛りだくさんの季節だ。
ヴルトゥームの襲撃から異譚はなりを潜め、穏やかな日々が続き、無事に一学期を終える事が出来た。
魔法少女達も例外ではなく、出動日以外の休日で各々が夏を満喫している。
「アンタ、何処にも出かけないわけ?」
夏らしく涼しげな恰好をした朱里が、くるりとペンを回しながら春花に訊ねる。
春花は朱里の問いに小首を傾げながら答える。
「今、出掛けてるよね?」
「あぁ……アタシの言い方が悪かったわ。どっか遊びに行かないわけ? 対策軍のカフェテリアで勉強とかじゃなくてさ」
朱里の言う通り、二人は今、対策軍のカフェテリアに居る。共同カフェテリアにて、向かい合って学校で出された夏休みの宿題に取り掛かっているところだった。
夏が始まってまだ一週間と経っていないけれど、あまりに味気無い夏の始まりに朱里はつまらなそうな顔をする。
「特に予定は入れてないよ」
「どっか行きたいとか無いわけ? 夏と言えばレジャーの季節でしょ? 海とか山とか、遊園地とか動物園とか」
朱里はくるくる回していたペンを置いて春花に訊ねる。
もう完全に勉強中断モードに入っているので、春花もペンを置いて勉強を中断する。時計を見やれば、勉強を始めてからかれこれ二時間は経過している。休憩をするには丁度良い時間だ。
「特に無いかな」
「アンタ枯れてるわねぇ、ほんとに。まぁ良いわ。予定は無いって事で良いのね」
「うん」
「それじゃ、こっちで勝手に組むから、無理なら無理って言いなさいよ。アタシ、この夏に行きたいところ結構あるから、覚悟しときなさいね」
「分かった」
特に疑問を覚える事も無く、春花は頷く。
「とりあえず、海には一回行きたいわね。後、プールも」
言いながら、朱里は携帯端末で行き先候補の写真を春花に見せる。
「あらあらぁ、楽しそうなお話ししてるわねぇ」
行き先候補の写真を春花に見せていると、朱里の横に自然と少女が座る。
朱里の横に座ったのは、オムライスセットの乗ったプレートを持った笑良だった。
「海行くの? それともプール? 私も一緒に行きたいなぁ」
「良いわよ、別に。そのたるんだお腹を見せつける自信があるならね」
「た、たるんで無いわよぉ! ちょ、ちょっと、お肉は付いちゃったけどぉ……」
恥ずかしそうにお腹周りを気にする笑良。
「冗談はさて置き、一緒に行く分には構わないわよ。ね?」
「うん」
あっさりと同行を許可する二人に、笑良は目をぱちくりさせる。
「あらあらぁ? デートじゃないの?」
「「は?」」
突拍子も無い笑良の言葉に、二人は思わずぽかんとした表情で笑良を見る。
「あ、ごめんなさい。今の言葉は忘れて。ね?」
二人の反応を見た笑良は即座に謝罪して話を逸らす。
「私もプールとか行きたいと思ってたから、お言葉に甘えて一緒に行かせてもらうわね」
「ええ。分かったわ。……となると、他の奴らも誘わないと後が面倒臭いわよね」
「全員で行く? あ、でも、流石に対策軍を空けるわけにはいかないわよねぇ……」
「プールと海でメンバー変えても良いかもね。そうすれば、全員が此処を空ける事も無い訳だし」
「そうねぇ。でも、一応道下さんに確認して、全員で行けるかどうかも聞いておきましょうか」
朱里と笑良の二人で話を詰めていくのを見ながら、春花はすっかり氷が溶けてしまったアイスココアを呑む。
海やプールに行くなら水着を買っておかなくてはいけないなと考えながら、春花は重要な事に思い至る。
「ねぇ」
「ん、どうしたの?」
「僕、泳げるか分からない」
「マジ?」
「うん。まじ」
春花は中学の頃にプールの授業を受けていない。それ以前の記憶も無いので、泳げるかどうか分からないのだ。
「じゃあ、まずは特訓ね。特訓だけなら、アタシと二人で行きましょうか」
「分かった」
自然と二人で行動すると決める朱里と春花。
その様子を見て、笑良は思う。
『自然と二人きりで行動しようとしているのに、二人にその自覚が無いってどういう事!? これって恋の予感なの!? どうなのぉ!?』
傍から見えれば美少女二人でも、実態は男女である。
男女二人でお出かけとなればそれは即ちデートである。その行き先がプールとなれば尚更だ。
わーきゃー騒ぎたい気持ちを抑えながら、笑良は笑顔を保つ。
二人の反応を見るに、きっと下手に刺激してはいけない事柄なのだ。当事者同士でゆっくりと話を進めなければいけないパターンなのだ。
と、勝手に理解して、うんうんとしたり顔で頷く笑良。
実際の所、朱里は手のかかる弟程度にしか思っていないし、主体性の無い春花はただ流されるままに頷いているだけなのだけれど、笑良には二人がいじらしい仲であると勝手に解釈してしまい、後方保護者面を決め込んでいる。
三人の思惑が絡み合う事は無いまま、夏休みの予定が詰め込まれていった。




