異譚20 致命の剣列
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驚異的な速度で降下するアリスを視界に捉えながら、四人は大急ぎで異譚支配者の元へと向かっていた。
「っんのアホんだらぁ!! なーにが先に行くよ!! こちとらアンタを待ってたんだっつうに!!」
文句を言いながら走るロデスコ。
しかし、文句も言いたくなるだろう。
ロデスコの言葉通り、四人はアリスの回復を待っていたというのに、当のアリスが四人を置いて先に行ってしまったのだから。待たされた身であるロデスコとしては、文句の一つや二つ言いたくなる。
「それにしても、アリスが本気を出すなんて珍しいわね」
「そ、そうだね。あと、なんか、焦ってる感じだったね」
スノーホワイトの言葉に、サンベリーナが同意を示す。
「あの、アリスさんのあれって何なんッスか? 自分、見た事も聞いた事も無いッス」
現状、アリスの背後に浮かぶ大剣の数は十本。手に持った大剣を合わせると十一本となる。そして、アリスを護る白銀の鎧。
複数の大剣を同時に展開し射出するという攻撃自体はアリスの十八番であるため、誰もが知るアリスの攻撃方法である。
その際に生成される大剣は全て同じ見た目をしている。場合によっては刺突剣や短剣になったりもするけれど、その場合も全て同じ見た目である。
しかし、今アリスの背後に浮遊している大剣とアリスが手に持っている大剣は全て意匠が違う。
アリスが英雄となってから二年は経つけれど、あの状態のアリスを見た事も聞いた事も無い。
それもそのはずで、アリスがあの姿になったのは過去に二度だけだ。
「あれは致命の剣列よ」
「ヴォーパルソーズ? ヴォーパルソードとは違うんッスか?」
「同じだけど違うの。あの剣一本一本がヴォーパルソード。だから、ヴォーパルソーズなのよ」
「へ!? あの出鱈目な剣があんなにあるんッスか!?」
一撃で地形を変える程の威力の剣。そんなものが十本以上もあると知れば、誰だって驚くだろう。
しかして、アリスのヴォーパルソーズはそう単純な話では無いのだ。
「いえ、出鱈目ではある事には変わりないけれど、あの一本一本に地形を変える程の威力は無いの」
「それじゃあ、劣化してないッスか?」
「それがしてないのよ、アレ。ほんっとうにずるいったらありゃしないわ」
呆れたような声音でロデスコが吐き捨てる。
が、ヴォルフには話の要領が掴めず、困惑したような顔をしている。
「アリスのヴォーパルソードはその威力もあって全てが致命の一撃。けれど、威力は結果でしかないの」
「うー……どういう事ッスか?」
「ヴォーパルソードには全ての属性が組み込まれているの。漏れなく、遍く全ての属性がね」
「ぜ、全部ッスか……?」
「ええ。火も、水も、斬撃も、打撃も、ありとあらゆる属性の集合的一撃。それが、致命の大剣。誰が相手だろうと、致命に成り得るアリス最強の武器」
アリスどころか、全魔法少女最強の武器である事は間違いないだろう。全ての属性を兼ね備えているという事は、相手が誰であれ弱点を突けるという事に他ならないのだから。
ただし、その分燃費がかなり悪い。魔法少女内で最大級の魔力を保有するアリスでさえ最大出力での攻撃は三度が限界だ。
「つ、強いなんてもんじゃ無いッスね……。ヴォーパルソードだけで異譚攻略できちゃうじゃないッスか……」
「そう簡単じゃ無いわ。アリスのヴォーパルソードにも射程はあるし、何よりアリスでさえ全力で撃てるのは三回だけ。それに、地形が変わってしまう事を考慮すると、そう簡単にぽんぽん撃てるものじゃ無いのよ」
「まぁ、ぽんぽこ撃ったけどねアイツ」
考え無しに撃った訳では無いけれど、焦ったり追い詰められると直ぐに力技で解決しようとするのがアリスである。それがまかり通ってしまうのがアリスの凄い所であり悪い所でもあるのだけけれども。
「ヴォーパルソードの欠点は威力が高過ぎる事と少なすぎる回数制限。それでも欠点としては足りないくらいに強力な武器なのだけれどね」
「じゃあ、ヴォーパルソーズを含めると残りは後一回って事ッスか?! あ、後一回撃ったら、アリスさん戦えなくなっちゃうじゃないッスか!」
慌てたように言うヴォルフに、しかし三人は慌てた様子はない。
魔力切れは魔法少女にとって死を意味する。魔力が切れれば変身は解け、結果的に異譚に飲まれるか、異譚生命体に殺されるかのどちらかである。
「そうでも無いのよ。ヴォーパルソーズはヴォーパルソードの属性を解いて一つずつ使うためのアリスの技なの。だから、魔力消費も威力もヴォーパルソードの時よりかなり抑えられているのよ」
「そうなんッスね。なんか、それを聞くとアリスさんってつくづくずるいと言うか強いと言うか……」
「英雄は伊達ではない、って事よ」
「って、話してる間に戦闘区域に突入したわよ! アンタ達、気合入れていきなさい!!」
アリスに遅れて、四人も戦闘区域に到着した。
戦いは激化しており、異譚生命体と魔法少女が入り乱れながら戦っている。
ロデスコは炎の具足を踏み鳴らし、高速で異譚生命体を蹴り殺して前へ進む。
異譚支配者の相手はアリスがしており、異譚支配者が飛ばす岩石弾をアリスは空中でひらりと華麗に躱す。
アリスが手に持つのは斬撃の大剣。振れば斬撃が飛び、瞬く間に対象を一刀両断にする。
縦横無尽に空を飛び回りながら、アリスは大剣を振るう。あまりに無茶な軌道で飛ぶアリスに、他の誰も追従出来ていない。
基本的に星の魔法少女も空を飛ぶことが出来る。星に由来するからか、空を領域として戦う者が多い。
飛べる魔法少女の中でも、星の魔法少女は別格であり他の追随を許さない程だ。
そんな星の魔法少女達がアリスの軌道に付いていけていない。急停止、急上昇に急降下。そのさなかに斬撃の大剣による長距離の斬撃。
星の魔法少女達が付いていけない程の速度と軌道。独壇場を荒らすただ一人の最強。
共闘など考えていない、かなり乱暴な戦い方をしているアリスを見て、ロデスコは舌打ちをする。
常であれば、あのような乱暴な戦い方はしない。他の追随を許さない程の速度で戦うにしろ、誰かの介入の余地は残っている。アリスは、共闘よりも一人で戦う方が強いけれど、それでも共闘を選べるくらいの協調性は残っている。
そんなアリスが共闘という選択肢を切り捨てて戦っているという事実に、ロデスコは違和感を覚える。
何か、焦っているようにも見える。
ロデスコは即座に決断し、援護から前衛に切り替える。
「スノーホワイト!! ヴォルフ任せるわよ!!」
「貴女はどうするの!」
「そんなの、決まってんでしょ!」
迫り来る蟇蛙の異譚生命体を蹴り殺し、ロデスコは前へ前へと進む。
「あの英雄と踊れるのなんて、アタシくらいしか居ないでしょうが!!」
爆発的に加速して、ロデスコは異譚支配者に迫る。
燃え盛る炎の具足の熱がロデスコの髪をかき上げる。それほどまでの熱量を持った炎の具足を、ロデスコは驚異的な速さで異譚支配者に振り抜く。
瓦礫の壁が即座に出来上がりロデスコの進路を阻むも、ロデスコは構わず振り抜く。
「クッキーよりも柔いわねぇ!!」
蹴りの威力をそのままに回転し、更にもう一度振り抜く。
アリスの斬撃を掻き消しながら、ロデスコの蹴りが異譚支配者の身体を吹き飛ばす。
「――っ、ロデスコ……」
「あーら御免遊ばせ?」
空から見下ろすアリスを見上げ、ロデスコはにいっと不敵に笑う。
「お手をどうぞ下手糞ステップの我が儘お姫様。このアタシがエスコートして差し上げるから」