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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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異譚11 共通夢

「それじゃあ、ありがとうございましたッス!!」


「「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」」


 子供達はそれぞれ買って貰ったお土産を持ち、瑠奈莉愛達はにこにこ笑顔で帰っていく。


 最初はどうなるかと思ったけれど、最後は笑顔で帰って行ったのでアリスは安堵する。


「さて、良い時間だからもう帰る……とは、ならないわよね」


「ええ。シャーロット」


「なんじゃい」


「クルールー教団について何か知ってるんでしょう? 説明して貰える?」


「うい。けど、此処じゃできん」


 流石にショッピングモールでするような話では無い。


「それじゃ、本部に行きましょうか」


 魔法少女達はショッピングモールから対策軍本部へと向かった。





 瑠奈莉愛達は楽しそうにお喋りをしながら家へ帰る。


「見て、姉ちゃん! 買って貰ったボールにサインして貰った!」


 朱李埜(とりの)が魔法少女達のサインの入ったバスケットボールを嬉しそうに瑠奈莉愛に見せる。


「良かったッスね! ……って、それだと使いづらくないッスか?」


 見れば、あの場に居た全員のサインが入っている。きっと世界に一つしかない童話の魔法少女のサインボールだろう。


 大変貴重な品物なので使ってしまうのが勿体無いと瑠奈莉愛は思ってしまうけれど、朱李埜(とりの)はどうやらそうは思っていないようだ。


「え、全然使えるよ? いっぱい遊んでねって言われたし」


「そッスか……うん、まぁ、そうッスね! そのためにプレゼントしてくれたんッスから!」


 楽しむために買ってくれたものだ。飾るために買ってくれた訳では無い。


 それに、サインよりも本人達の存在の方が瑠奈莉愛にとっては貴重である。優しくて、強くて、頼りになる先輩や仲間。友人は多い方だけれど、色んな意味で頼れる相手はそうは居ない。


 勿論、お金を頼りにしている訳では無い。ただ、長女である瑠奈莉愛は甘える先が無いので、少し長女で在る事を忘れられる時間も欲しいとは思ってしまっているのも事実なのだ。


 そういう意味で、甘えても許してくれる相手が出来た事が、瑠奈莉愛は嬉しい。


 だが、甘えてばかりもいられない。異譚に赴けば背中を預け合う仲間だ。甘えていては足を引っ張るだけ。異譚で甘えていては自分を含め、誰かが命を落とす事になる。


 甘える時は甘えて、しっかりする時はビシッと決める。メリハリが大事なのだ。


 アリスを見ていればそれが良く分かる。普段は刺の無い雰囲気を醸しだしているけれど、異譚に赴けばまるで抜身の剣のように鋭い雰囲気を纏っている。


 優しい雰囲気を常に醸し出している笑良やみのりでさえ、雰囲気が堅くなる。


 先輩達から見習う事は多々ある。そういう部分をしっかりと吸収して、いずれは今日の事を恩返し出来るように頑張って行こうと思う、瑠奈莉愛だった。





 ところ変わって対策軍本部にある童話の魔法少女のカフェテリア。


 カフェテリアでは瑠奈莉愛以外の童話の魔法少女が集結しており、先の騒動の原因である『クルールー教団』についてシャーロットから説明を受けていた。


「クルールー教団、イギリスでも、ちっと問題」


 イギリスの端末からダウンロードした情報をスクリーンに投影するシャーロット。


 情報は全て日本語訳されており、自動翻訳であるため多少の文法のずれは生じるものの、理解できない範疇では無い。


「ちっと、けっこう、そこそこ前から、活動してる」


 発端は一人の女性。


 彼女は就寝中に、夢の中である啓示を得たそうだ。


『魔法少女は悪である。悪に騙されるな。我らが大司祭、クルールーの目覚めを待て。目覚めの時、大いなるクルールーは世界を席巻し、悪の支配から汝らを解放するだろう』


 夢の細部は憶えていないらしいけれど、要約するとこのような内容のようだ。


 元々、スピリチュアルに傾倒していたような女性であり、彼女はこの夢を啓示だと捉えた。彼女は自身が見た夢の内容を即座にSNSに投稿した。常日頃からそう言った内容をSNSに投稿しているので、別段おかしな投稿では無かった。そして、今回の投稿もまた、彼女にとっても、彼女を知る人物にとってもおかしな内容では無かった。


 周囲の人間も、『ああ、また何か変な事を言っているな』程度の認識だったのだ。


 だが、それを変な事だと思わない人間も居た。


 彼女のSNSの投稿へのリプライに『私も同じ夢を見た』『今日まさに同じ夢を見たところです!』『クルールー、私も夢で聞いた』など、多数の反応が寄せられた。


 彼女の見た夢に同調するならともかくとして、彼女と同じ夢を見たと同調するのはあまりにもおかしな出来事である。


 だが、彼女等にとってそれは啓示であり、決しておかしな事では無かった。むしろこうして意見が集まり、同士が集まるのは自然な事だと捉えていた。


 着々と彼女と同じ夢を見た者は増え続け、しまいには彼女達は自らをこう名乗るようになった。


「それが、クルールー教団。過激派宗教団体」


「イギリスとか日本だけじゃないのね」


「うい。今や、世界中に居る」


 クルールー教団の分布図を見る限り、シャーロットの言う通り世界中に支部を置いている。


「最近まで、名前も聞かなかったわよねぇ?」


「てか、今日初めて知ったわ」


「日本、活動はこぢんまり。ワシの嫁の存在、大きい」


 日本には、圧倒的なまでの力を持つアリスを筆頭に、有力な魔法少女が多い。そのため、異譚の脅威はあるけれど、魔法少女の力強さを理解している者が多い。


 異譚から護ってくれる、絶対的な抑止力。それは、魔法少女への信頼の表れでもある。


 加えて、アリスと言う分かりやすい英雄が居るところでは、反魔法少女派である彼等の主義主張は弱くなる。傍から見れば、信用を築き上げたアリスと比べて、彼等はぽっと出の世迷言集団である。そんな相手の言葉を信じる者は少ないだろう。


 一方、異譚の被害が大きく、目立った魔法少女が居ない国では、クルールー教団は幅を利かせやすい。


 魔法少女は異譚への抑止力としては不十分であると国民が考えており、魔法少女への信頼が低下してしまっている。魔法少女への不信感が、クルールー教団の主張を受け入れやすくしてしまっているのだ。


「ま、後はお国柄もあるわよね。日本はアイドル的に魔法少女を表に出してるけど、完全に軍人扱いで表舞台に出さない国もある訳だし」


「……逆に、魔法少女が、神聖視されてるとこも、ある……」


「そ、そういう国はクルールー教団の支部無いね」


「でも、大事なのはクルールー教団の分布とかよりもその原因よね。同じ内容の夢を見るっていうのはあると思うけれど、こんなに大人数で夢を見る事なんてある?」


「まぁ、総人口が億超えてるんだから在り得なくは無いと思うけど……」


 偶然と考えるには出来過ぎている。全員がクルールーという固有名詞を憶えているというのも不可解だ。


上位存在(ヴルトゥーム)の件もある。それに、実害もある以上、警戒をしておくに越した事は無い」


 異譚とはまた別の存在。異譚を広げる元凶。異譚支配者の元。上位存在。


 上位存在がヴルトゥームだけでは無い事は、今までの異譚の数が証明している。


 前回はヴルトゥームに勝つ事が出来た。けれど、それはヴルトゥームが上位存在の中でも弱い存在だったからだ。たった一柱で地球を侵略し得る力を持つヴルトゥームが上位存在の中でも弱い個体だというのは信じ難い事だけれど、炎の異譚支配者はヴルトゥームよりも強かった。


 あれの本体が地球に来れば、今のアリスにでも勝ち目があるかどうかは分からない。


 ともあれ、今重要なのは、この夢が上位存在による介入の可能性があるという事だ。


「上層部には通達する。それと、向こうが私達を敵視している以上、今回以上の実害が出る可能性も十分にあり得る。皆も気を付けて欲しい」


 最後にアリスがそう締めくくり、情報共有会議は終了した。


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― 新着の感想 ―
日常というほんのささやかな幸福を脅かす存在。良くないですね…。不穏なフラグをびしびし感じます。
最悪だ…なんで日常の幸せを壊すんだよ…
[良い点] 徐々に世界観が明らかになってきて、面白くなってきました
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