異譚10 チームウォレット、出動!!
ショッピングモールに緊急招集された十一人の魔法少女。
彼女達のミッションは己の財力を持って子供達を楽しませる事である。
財力が無くとも、己のユーモアセンスをふんだんに発揮し、子供達に笑顔を取り戻すのだ。
「以上。何か質問は?」
アリスが問えば、元々事情を知っていた四人は特に無しと沈黙で答える。
そんな中、笑良はゆるりと挙手をする。
「はいは~い。資金は幾らまでですか~?」
「常識の範囲内で」
「明確に数字にした方がよくなぁい? 人によって金銭感覚違うし」
「確かに」
笑良に言われ、アリスは少し考える。
そして、手をパーにして前へ突き出す。
「これくらい」
「うん、良いと思うよ」
「他に、何かある?」
再度問うが、誰も何も言わない。
「それでは、作戦開始」
アリスの号令と共に、全員が行動を開始する。
七人居る子供達に対して、魔法少女は十二人。瑠奈莉愛を除外すれば十一人である。加えて、新人である餡子も除外しなくてはいけないので、頭数は十人。
アリスから離れない或叶と虹空は、必然アリスが担当となる。一番小さい子達が心配なので、瑠奈莉愛もアリスに付いていく。
この時点で子供達五人に対して、魔法少女は九人である。
朱里と白奈は次女の依溜。
みのりと珠緒は長男の立夢。
唯と一は双子の三女と次男の心凛と朱李埜。
笑良とシャーロットは四女の幸来。
詩は周囲をきょろきょろしながら自分があぶれてしまった事を理解すると、餡子の手を取る。
「……つまり、私達はデート……」
「で、デートですか!?」
「……優しく、リードして……」
「ふぇ!? が、頑張ります!」
そういう事に耐性が無い餡子は顔を真っ赤にして答える。
「馬鹿言ってないで、双子ペアに付いて行きなさい。餡子も、なにか欲しいのあったら詩に言うのよ。今日一日はソイツも財布なんだから」
「え、い、良いんですか!?」
確認してくる餡子に、詩はぐっと親指を立てる。
「ありがとうございます! 私、家にトレーニング機材を置きたくて――」
「……手加減は、してね……」
トレーニング機材など、簡単にアリスの指定した金額を越してしまう。
本気か冗談か分からない笑みを浮かべる餡子に引きずられるように連れていかれる詩。
アリスは二人を抱っこしながら、瑠奈莉愛を見やる。
「それじゃあ、私達も行こう」
「は、はいッス! ……あの、本当にありがとうございますッス。先輩達のせいじゃないのに……」
「気にしないで」
三人と一緒にアリスはショッピングモール内を練り歩く。
或叶と虹空が指差す方にアリスは歩き、二人が満足したら次の場所へと向かう。
ゲームセンターに寄れば、珠緒と立夢がシューティングゲームで白熱していた。
「うわっ、ちょっ、た、珠緒助けて!」
「珠緒さんだクソガキ!」
「ど、どっちも頑張れ~!」
二人がゲームをしている様子を、みのりが後ろから応援する。
ゲームセンターを出て、コスメショップの前を通れば中では朱里と白奈が依溜にリップやらネイルを見せていた。
「来年中学生なら、オシャレも勉強しないとね」
「リップとかスキンケアとか、小さなところからオシャレは出来るからね」
「わぁ……こ、こんなにいっぱいあるんですねぇ! すごーい……!」
三人はきゃっきゃと女子トークを楽しみながら、化粧品を見る。
コスメショップの前を通り過ぎ、スポーツ用品店に向かえば、そこには唯と一、詩と餡子、心凛と朱李埜が居た。
「靴は足に合ったのを使うべき」
「運動靴とあれば尚更」
「これ履きやすい! 色もとっても可愛い!」
「……此処に、三つのボールが、あるじゃろ……? ……好きなのを、選ぶのじゃ……」
「詩先輩! それ全部サッカーボールです! サッカー以外の選択肢をあげてください!」
「サッカーボールは友達が持ってるから、バスケットボールが良い!」
楽しそうに靴やらボールやらを選ぶ六人。
スポーツ用品店を後にして、アパレルショップへと向かえば、笑良とシャーロット、幸来の三人は洋服を選んでいた。
「いや~ん、可愛い~! ね、次これ着てみて?」
「のんのん。こっちのが、可愛い。フリルは正義」
可愛いと言われて照れ臭いのか、幸来は顔を真っ赤にしながらこくこくと頷いて試着室に入っていく。
「……皆、楽しそうで良かったッス……」
図らずも全員の様子を見る事が出来て、瑠奈莉愛はほっと安心したような顔をする。
皆、先程の事など忘れてしまったかのように楽しそうに笑っていた。それが、心底から嬉しい。
おねむの時間が来た或叶と虹空を抱っこしながら、アリスと瑠奈莉愛はベンチに座る。
「……大家族って、とても賑やかなんッスよ。家の何処に居ても妹弟が居るから、寝るまでずっと騒いでるッス」
眠っている二人を見ながら、瑠奈莉愛は優しい笑みを浮かべる。
「それ自体は凄い楽しいッス。たまに喧嘩したりするッスけど、それでも、皆と一緒に過ごす毎日は楽しいッス。……でも、楽しいから幸せって訳でも無いんッス。アリス先輩は、自分の家に来た事があるから分かると思うッスけど、自分家はすっごく貧乏なんッス」
以前、アリスが行った時の上狼塚家の外観はぼろぼろだった。外観だけではなく、その内装も酷いものだった。
床に穴が空き、雨漏りのせいで腐った天井。ぼろぼろになったふすまに、傾いた廊下。
一通り見て回ったから分かる。個人のスペースも無ければ、私物だって必要最低限だった。
玩具も何年も使い古されたようなものばかりで、服だってきっとお下がりを貰って来たりしているのだろう。
騒がしく笑顔の絶えないお家。けれど、笑顔の裏にある苦労を見れば、その生活を幸せと呼べるのかは疑問を覚える。
現に、瑠奈莉愛は今の生活を幸せだとは思っていない。
「お金が無いって、それだけで不幸なんッス。下の子達には何も買ってあげられないし、誕生日にケーキだって買ってあげられないッス。他の子達の普通がこの子達にとっての贅沢なんッス。あっ、だからって、この子達が居なければとか、思った事は無いッスよ? 皆可愛い、自分の妹弟ッス!」
可愛い妹弟だからこそ、他所の子との差を考えてしまう。
「だから自分、魔法少女になったッス。この子達が少しでも普通に暮らせるように、いっぱいお金を稼がなくちゃいけないッスから! ……自分、先輩達にはすっごく感謝してるッス。強くて頼りになって、自分が間違えてたら教えてくれる。そんな先輩達が大好きッス。自分、長女なんでお姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいッス」
にかっと笑みを浮かべる瑠奈莉愛。
「今日の事も、本当にありがとうございますッス! このご恩は絶対にお返しするッス!」
「気にしないで良い。……でも、恩を返すというのなら、一つだけ」
「なんッスか? なんでも言って欲しいッス!」
ぐぐいっと顔を寄せる瑠奈莉愛。
瑠奈莉愛の目を見ながら、アリスは真剣な声音で答える。
「どうか、死なないで。それだけで、私は十分報われたと思えるから」
「――っ」
真剣なアリスの言葉に、瑠奈莉愛は目を見開く。
瑠奈莉愛はアリスの言葉に感銘を受けたように目に涙を溜め、元気よく頷いた。
「はいッス! 自分、死ぬ気で死なないように頑張るッス!」
「矛盾してるような気がするけど、死なないでいてくれるならそれで良い」
「はいッス!」
言いながら、瑠奈莉愛はアリスにがばっと抱き着く。
「自分、アリス先輩大好きッス! 一生付いて行くッス!」
「一生は困る」
「困っても、付いて行くッスよ!」
心底嬉しそうに笑みを浮かべる瑠奈莉愛。
二人の様子が回りに見られている事に気付かぬまま、瑠奈莉愛は暫くアリスに抱き着いた。




