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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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異譚5 お買い物 with ストーカー

 朱里とストーカー二人が家庭訪問をした日から幾日かが経過して、週末。


 春花は一人で(・・・)ショッピングモールへと脚を運んでいた。


「遅いわね、朱里。もう直ぐ集合時間なのに」


「そ、そうだね。あ、で、でも、来たみたいだよ!」


 ショッピングモールのロビーの長椅子に座って待っていると、入り口から私服姿の朱里が入って来る。


 ガーリーな服装に身を包んだ朱里は、春花を見付けて近付いてくるけれど、春花の左右を陣取る二人を見て眉を寄せる。


「なんでアンタ達居んの?」


 春花の左右を固めるのは、白奈とみのり。


 あの日、朱里は春花と二人で(・・・)買い物に行こうと誘った。春花とのその後のやり取りでも他に誰かを誘うなどという話は出ていない。


「あら、酷い言い草ね。あの場に居たのだから、私達も誘われたと思って来たのに」


「別に誘って無いわよ。そんな大勢で行くような用事でも無いわけだしね」


 別段、四人で行く必要の無い用事。


 意地悪で二人を誘わなかったわけではなく、誘う必要が無かったから誘わなかっただけだ。


 それに、以前春花が童話の魔法少女達に囲まれている時に顔が真っ青になったのを朱里は憶えている。


 春花に二年より前の記憶が無いのは知っている。だが、記憶で憶えていなくても身体が憶えている事もある。我知らず覚える、他人に対する恐怖などがそうだろう。


 春花の事情を考慮して朱里は白奈とみのりを誘う事はしなかった。白奈とみのりだけではない。顔見知りになった童話の魔法少女達も誘うつもりは毛頭無かった。


 だが、春花の様子を窺えば、春花はいつも通りの顔色をしている。いや、いつも不健康な程に青白い顔をしてはいるけれども。


「大丈夫そ?」


「? うん」


 朱里の質問の意図が分からなかった春花だけれど、準備は出来ているのでとりあえず頷いた。


「そ。なら良いわ」


 春花が平気なのであれば、朱里からとやかく言うつもりは無い。


 朱里とて友人と買い物をする事を嫌がっている訳では無いのだから。


「それじゃ、行きましょうか。アンタら、付いてくんなら邪魔すんじゃ無いわよ」


「うん」


「ええ」


「わ、分かってるよ!」


 ベンチに座っていた三人は立ち上がり、先導する朱里に付いていく。


 朱里が向かったのはモール内にある薬局の浴用化粧品コーナーのメンズコーナーだ。


 朱里達が高いものを使っていると聞いていたので、高いものを売っているところに案内されるかと思いきや、至って普通の薬局だった事に少し驚く。


「アンタ、髪質柔らかいからね。これなんかどう?」


 朱里はさらっと見て、一つ手に取って春花に見せる。


 だが、見せられたところで春花に良し悪しなど分からない。


 手に取ってみるけれど、裏を見ても表を見ても分からない。


「分からない」


「だと思った。気に入った匂いとかあれば良いんだけどね。テスターも無いしね……」


 幾つか手に取って見比べてみる朱里。


 春花も手に取って見比べてみるけれど、どれが自分に合っているかなど分かる訳も無い。


「これ、どうかしら? 私と同じ匂いのやつなんだけど」


「だ、だだダメだよぅ! こ、こっち使おう? わ、わたしと同じ匂いだから!」


 二人が自身が使っているものと同じ匂いのするシャンプーを差し出してくる。


 春花は二人から渡されたシャンプーを手に取るけれど、どちらも良く分からずに小首を傾げる。


「コイツらの言う事は聞かなくて良いからね。なんでもそうだけど、自分に合ったものを選ばないと意味が無いんだから」


「でも、どれが良いか分からないよ。いつも適当に選んでたから」


「それじゃあ、今回はコレにしときなさい。髪質で選んでみたから、匂いとかは二の次だけど」


「うん、分かった」


「じゃ、次はリンスね。これも、シャンプーと系統を合わせて……」


 そんな調子で、朱里は春花に合いそうなものを選んでいく。


 ボディソープ、洗顔フォーム、タオル。


「白奈的にはどう? アンタ、コイツの肌触ったから分かるでしょ?」


「ええ。うるっともちもとだったから……これとか? 肌弱そうだし、刺激の少ないやつの方が良いと思うわ」


「ど、どれどれ、わたしもチェックしちゃおうかな~」


 後ろから回り込んで、みのりは春花の頬をむにむにとする。


「わ、わっ、すご……! な、なにもしてないのにコレ? た、食べちゃいたいくらいもちもちだよ~! え、えへへ……すごっ」


 春花は特に何を言うでもなく、抵抗する事無くなすがままになりながら商品棚を見る。


 春花の両サイドを挟むように棚を見ていた朱里と白奈は、ノールックでみのりの(よこしま)な手をつねりながら引き剥がす。


「い、痛い痛い! ち、千切れちゃうよぅ!」


「大丈夫でしょ。魔法で治せるんだから」


悪戯(いたずら)ばかりするお手々なら、一回くらい千切っておいた方が良いと思うわ」


「や、やだやだ! い、痛いものは痛いんだから!」


 二人のつねる手を振り払うみのり。


「ふ、ふぇ~ん、ふ、二人がいじめるよ~」


 泣きまねをしながら、みのりは春花の背中にぴたっとくっつく。


「残念。つねるだけじゃ分からなかったみたいね」


「そうね。仲間を手にかけるのは心苦しいけど、仕方ないわね」


 白奈の手には真っ赤な林檎が、朱里の足元には真っ赤な靴が置かれている。


 言わずもがな、商品ではなく二人が魔法少女に変身するための道具(アイテム)である。


「こ、此処で変身するつもりかな!?」


「アンタが離れれば変身はしないわ」


「ええ。貴女が大人しくしてくれるなら、変身はしないわ」


「わ、分かったよぅ! は、離れれば良いんでしょ?」


 渋々といった様子で春花の背中から離れるみのり。


 みのりが離れたのを確認しては、二人は林檎と赤い靴をしまう。


 渦中の春花はまったく気にした様子も無く、一つの商品を手に取る。


「見て。この猫、チェシャ猫に似てる」


 言って、パッケージを朱里に見せる春花。


「はいはい、そうね」


 朱里は春花から洗顔フォームを受け取り、成分を確認する。


「これ気に入ったんなら、これにする?」


「うん」


「そ。なら、それにしましょう。それじゃあ、いったんはこんなもんかしらね」


 買い物かごの中を確認して、買い漏らしが無いかを確認する。


「ええ、そうね。どれも近場の薬局に売ってるものだから、買うのも面倒じゃ無いしね」


 定期的に補充するものではれば、遠くに足を運ぶ必要があるものよりも、近場で済ませられるものの方が良いだろう。特に、春花は面倒になったらまた特売品で済ませてしまうだろうから。


「アンタ、家が隣ならちょくちょくチェックしておいてね」


「あー……その事だけど、ちょっと厳しいかも」


「どうして? ああ、見かけはこうでも、コイツ男だものね。世間の目もあるか」


「そうじゃなくて。私、引っ越す事になったから」


「……なるほどね」


 どうして引っ越しが必要なのかなんて聞かなくても分かる事だ。


 現状、如月家の人間は父親と白奈のみ。であれば、一緒に暮らすのが普通だ。


 今までだって、白奈の我が儘で一人暮らしをしていたのだ。もうこれ以上、我が儘は言えない。


「でも、定期的にお茶でもしましょう。有栖川くんも迷惑じゃ無かったら、ね」


「僕で良かったら、全然」


 どうせ、仕事以外は暇を持て余しているのだ。お茶をするくらいは別に良い。


 それに、白奈には引け目もある。断れるはずも無い。


「ありがとう」


 にっこりと白奈は微笑む。


 笑みを浮かべる白奈を、朱里は少しだけ複雑な表情で見つめていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポが良くて読みやすいと思います。面白いです。 [気になる点] 読者目線というか、朱里がアリスではなく有栖川春花と美容のため一緒に買い物行くのは若干違和感がある。アリスと有栖川春花という…
[良い点] 日常パートずっとしててくれー
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