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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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異譚4 たった少しの幸せ

なんか、SSみたいになっちった

「アリス~、ああ、愛しのキュロット~。今日も~お尻~可愛い、ね~」


 家庭訪問withストーカーがあった翌日、アリスがカフェテリアに入った途端にふわふわの金髪美少女――シャーロット・ウェストウッドがアリスの背後に歌いながら回り込んでお尻を揉む。


 あまりにも自然(ナチュラル)にお尻を撫でるので、全員が一瞬反応が遅れるも、珠緒は即座に声を上げる。


「アリス、銃」


「ん」


 アリスは珠緒の前に射的で使うコルクを発射する銃を生み出す。


 珠緒は慣れた手付きでコルクを銃口に押し込みハンドルを引く。素早く構え、迷うことなく引き金を引く。


 ぽんっと軽い音を上げてコルクは発射され、狙い違わず変態女(シャーロット)のこめかみに直撃する。


「あうっ」


 衝撃によろける――ふりをして後ろからがばっとアリスに抱き着くシャーロット。


 そのままわきわきとアリスの身体をまさぐるシャーロットにアリスは眉間に皺を寄せ、珠緒を見やる。


「ちょっ、あたし悪くねぇだろ!? ちゃんとこめかみ撃ち抜いたじゃねぇか!」


 アリスに不満げな視線を向けられ、慌てふためく珠緒。


「こらっ、だめッスよ!」


「そうです! セクハラは厳禁です!」


 最年少二人組がアリスから変態をひっぺがす。ひっぺがされた後もシャーロットの指はわきわきと動いている。


「揉ませろ~」


「なんでさっきからミュージカル調なんッスか!」


「この人さっきミュージカル映画見てました! 多分そのせいです!」


 シャーロットを連行する二人の頭にパトランプのカチューシャを魔法で装着した後、アリスはカフェテリアの二階へと上がる。


 朱里に本当の事を知られ、朱里は変わらぬ態度を保ってくれてはいるけれど、他のメンバーがそれをどう思うかは分からない。やはり、ある程度の距離感は保っておくべきだろうと考え、変わらず二階を利用している。


 二階のソファに座り、持って来ていた本を開く。


 映画も良いけれど、やはりアリスは本が好きだ。一人の世界に没入できるから。


 アリスは静かに本を読む。


 いつの間にか現れたチェシャ猫は、何も言わずにアリスの横で丸くなる。


 それを見ていたシャーロットが真似して丸くなる。


「アリス、撫でれ」


 ちらりと隣で丸くなるシャーロットを見やった後、アリスは何も言わずに立ち上がり階下の二人を呼ぶ。


「囚人が脱獄してる。捕まえて」


「「あいあいさー!!」」


 頭にパトランプのカチューシャを付けたままの二人が立ち上がり敬礼する。


 パトランプの側面にあるスイッチをぽちっと押し、うーっというサイレン音がなり、ランプが赤く発光する。


 最年少二人はだだだっと階段を駆け上がると、ソファに丸くなっているシャーロットを連行する。瑠奈莉愛が両腕を掴み、餡子が両足を掴み、まるで担架のように運ぶ。


「あー」


 抵抗する事無く連行されるシャーロット。


 童話の魔法少女は自由人が多いけれど、シャーロットは群を抜いて自由人である。


 邪魔者(シャーロット)が居なくなったら、アリスは読書に戻る。


「アリスちゃん、コーヒー置いておくわね~」


 わざわざ淹れてくれたのか、笑良がテーブルにコーヒーを置いて去っていく。


「ありがと」


「いいえ~」


 アリスは笑良が置いて行ってくれたコーヒーに角砂糖とミルクを入れ、マドラーで混ぜる。


 くいっとコーヒーを飲み、ソーサーに戻す。


 そうして、本へと視線を戻し、空いた手でチェシャ猫を撫でる。


 心落ち着くひと時を過ごしていると、階段をだだだっと駆けあがる二つの足音。


「アリス、ドーナッツ」


「アリス、シュークリーム」


「「皿出せ、この野郎」」


 手にドーナッツボックスを持った唯と一が口悪く皿を出す事を要求する。


 アリスが何も言わずにテーブルに皿を用意すれば、二人はドーナツボックスを空けてドーナッツとシュークリームを更に置く。


「今日の取り分だ」


「味わって食えよ」


「ありがとう」


「「良きにはからえ」」


 皿に置くだけ置いて、二人はすててっと一階へと降りていく。


 アリスはシュークリームを半分に割って、半分をチェシャ猫に渡す。


 チェシャ猫は大きな口を開けてシュークリームを一口で食べる。


「キヒヒ。美味しいね」


「うん」


 アリスも小さくお口を開けてもぐもぐとシュークリームを食べる。


 シュークリームを食べ終わった後、コーヒーを飲む。


 魔法で出したタオルで手を拭いてから、読書に戻る。


 アリスが本を読んでいると、不意に膝に重みを感じる。


 本から膝に視線をやれば、いつの間にか忍び寄っていた詩がアリスの膝を枕にして眠っていた。


 少しだけ考えた後、面倒くさくなりアリスは何も言わずに本に視線を戻す。シャーロットのように構え構えと読書の邪魔をしてくるならともかく、詩には膝を貸すだけだ。


 邪魔をしてくる様子も無いので、そのまま放置する方が楽である。


 アリスは気にする事無く読書を続ける。


 ぺらり、ぺらりとページをめくる。


 時折、マグカップを魔法で操作して手元に移動させ、コーヒーを飲む。


 最初は寝たふりをしていた詩も、少しすれば本当に寝入ってしまったようで、今は健やかな寝息を立てている。


 寝入ってしまった詩にアリスはタオルケットを出して優しくかけてやる。


 穏やかでゆったりとしたひと時。


 一階は騒がしく、少女達が楽しそうに語らっている。


 いつの間にか来ていたのか、朱里や白奈、みのりの声も聞こえてくる。


 楽しそうだなと素直に思う。それと同時に、皆が楽しそうにしている事が、アリスは嬉しい。


 一人で居る事が多いけれど、独りが好きな訳では無い。それは、痛い程よく分かっている。


 けれど、自分から近付く勇気も無い。正体を隠している以上、不用意に近付いて良いとも思っていない。


 だから、一階から聞こえてくる皆の楽しそうな声だけで、アリスは満足している。


 皆が楽しそうなら、アリスも嬉しい。


 皆の楽しそうな声を聞きながら、アリスは読書に(ふけ)る。


 少しだけ、心の片隅にでも居られればそれで良い。


 誰かの心に居られる事が幸せだと、アリスは知っているから。たった少しだって、アリスはとても幸せなのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 日常回、最高…
[一言] こんな生活が続けばいいのに...
[一言] めっちゃ好き、、、
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