異譚2 家庭訪問 with ストーカー
またまた遅れ申した。
昨日更新しようとしたんですが、夜の七時に眠ってしまい、そのまま朝の七時まで寝てました。
授業が終わり、放課後となり、朱里は春花の家へとやって来ていた。
「んで、なんでアンタも来てるわけ?」
朱里は一人で春花の家をチェックするつもりでいた。別段誰かを誘うような事でも無いし、春花の交友関係を考えると誘うような相手も居ない。
だからこそ、春花の隣をしれっと陣取っている白奈が付いてきている意味が分からない。
「知らなかったの? 私、有栖川くんの隣の部屋に住んでるのよ。ね?」
「うん」
白奈の言葉に正直に頷く春花。
白奈の言う通り、春花の隣の部屋に白奈は住んでいる。なので、白奈が付いてくる事になんの問題も無い。
だが、違和感は在るけれど。
「へぇ、そう。じゃあ、アンタはなんで来てるわけ?」
「わ、わたし?」
唐突に水を向けられるみのり。
そう、付いて来ていたのは白奈だけではなかった。みのりは何食わぬ顔で、堂々と、元々そういう予定ですよとでも言わん表情で付いて来ていた。
朱里はなんで付いて来てんだこの二人? と疑問には思っていたけれど、特に何も言わずに此処まで来た。
春花もなんだか付いて来てるな、でも白奈は帰る場所が同じだし、みのりは白奈に用があるのだろうと考えていた。
「そうね。何か用でもあるの?」
「うぇっ!? え、えっと、えっとぉ……」
すかさず、白奈は梯子を外す。何せ、みのりに用は無いし、春花を目的で来ている事は理解している。
白奈はみのりの事を友人だと思っているけれど、アリスだけではなく春花にまで擦り寄ろうとするだなんて不潔であるとも考えている。みのりは友人だけれど、いや、友人だからこそ、不潔不埒を許してはいけないのだ。
というのは建前で、春花に擦り寄る輩は誰であろうと許すつもりは無い。アリスに色恋沙汰はまだ早い。黒奈だってそう言うはずだ。ウチの子にはまだ早いのだ。
ゆえに、邪な存在は消し去って然るべきだ。例えそれが友人であっても。
白奈の心中などつゆ知らず、白奈に梯子を外されたみのりはあわわと慌てる。
朱里は眉を寄せて、春花は不思議そうな顔でみのりを見る。白奈は二人に見られていない事を良い事に、にやりと悪い笑みを浮かべている。
慌てふためき、考え抜いた結果、みのりはにへらっと誤魔化すように笑みを浮かべる。
「ふ、二人の話が聞こえて来たの! と、友達として有栖川くんの生活が気掛かりだから、つ、付いて来ちゃったんだ! てへっ」
ぺろっと舌まで出して見せるみのり。
そう、みのりがとった行動とはただの開き直りである。
此処まで来て助けてくれそうだった白奈が梯子を外してきたので、もうどうする事も出来ないと判断したみのりは、開き直って許して貰おうとしたのだ。
朱里はともかくとして、春花はきっと許してくれるだろう。
「盗み聞きしてたの?」
「ち、違うよぅ!! 聞こえて来ちゃったんだよぅ!!」
「……僕、友達居たかな……?」
振り返ってみて、自身に友人が居た記憶が無い春花は、おかしいなとばかりに小首を傾げる。
「そ、そんな寂しい事言わないでよぅ!! わ、わたし達、友達だよぅ!!」
「アンタ、コイツとプライベートで遊んだ事あんの?」
朱里が春花に訊ねれば、春花は首を横に振る。
「無いよ」
「じゃあ学校で話した事は?」
「ややあるよ」
「一緒にお昼ご飯食べた事は?」
「無いよ」
「プライベートな話をした事は?」
「ややあるよ」
「……なんでアンケート風の回答なのかはともかく、友達と呼べるほどの接触は無いって訳ね」
朱里はみのりの方を見やると、びしっと此処まで来た道を指差す。
「アンタ、帰んな」
「い、犬みたいに言わないでよぅ!!」
「アンタ、考えても見なさいよ。友達でも無い奴が盗み聞きして、あげく勝手に付いてくるって、控えめに言ってアンタ……キモイわよ?」
「き、ききききもく無いよぅ!! そ、それに、ちゃんと友達だよぅ!! ね? ね!?」
春花に詰め寄ろうとするみのりの前に、白奈が立ち塞がる。
「悲しいわ、みのり。まさか友人がストーカーだったなんて……」
「す、すすすすすストーカー!? ひ、酷い言いがかりだよぅ!! それに、そんな事言ったら、し、白奈だって勝手に付いて来てるじゃん!!」
「私は、帰る場所が一緒だからよ」
「で、でも一緒に帰る約束してないでしょ!? ね!? そうだよね!?」
朱里に確認を取るみのりだけれど、朱里は至極面倒くさそうな顔で二人を見る。
「もう面倒だからアンタ達さっさと帰りなさいよ。アンタ達は別に呼んでないんだし」
「「ぐふっ!?」」
呼んでない。つまり、誘われていない。要約すると、別に誘っても居ないのになんで来る訳? という事である。
友人に言われるとそこそこ心に来る言葉である。
「さ、ストーカーシスターズは置いておいて、さっさと入るわよ」
「あ、うん」
二人を置き去りにして、先に春花の部屋へと向かう朱里。
春花は二人を振り返りつつも、朱里に付いていく。
が、ぴたりと脚を止めて二人を振り返る。
「……せっかく来たんだし、上がってく?」
小首を傾げて春花が問えば、二人は一度顔を見合わせた後、すぐさまばっと春花の方を見やる。
「「是非!!」」
「じゃあ、どうぞ」
二人が来る事を確認したので、春花は前を向いて自身の部屋へと向かおうとする。
が、前では朱里は呆れたように春花を見ていた。
「ストーカーを二人も家に招き入れるだなんて、アンタも物好きね」
「でも、なんだかかわいそうだし……」
「まぁ、可哀想な奴らである事は確かね」
ちらりと春花の背後を見やれば、嬉しそうな顔で春花に付いてくる二人の姿が。
春花は後ろの二人を気にした様子も無く、自身の部屋の前まで行き、部屋の鍵を開ける。
「じゃあ、上がって」
「「「お邪魔しまーす」」」
春花に促されて、三人は部屋へと上がる。
「は?」
部屋に上がり、居間に入った瞬間に朱里が不機嫌そうな声を上げる。
部屋の中はあまりにも殺風景であった。
ベッド、ローテーブル、箪笥、ノートパソコンの置かれたテーブルとチェア。春花の部屋にはたったそれだけしか置いてなかった。
「……いや、ミニマリストって事もあるし、まだ怒るのは早いわ。落ち着きなさい。落ち着きなさい東雲朱里」
自身を落ち着かせるために言い聞かせる朱里。
「座ってて。お茶持って来るから」
春花が促せば、白奈と朱里はローテーブルを挟んで座る。
「わ、分かったよ!」
みのりは、すかさずベッドの上に正座をする。
そんなみのりを、二人は無言で引きずり降ろした。




