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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第5章 ■■■■

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異譚1 少年と怪物

更新、遅くなり申した。

ちょっとやらなくちゃいけない事があったので、そちらに集中していたのと、五章どうしようかなって悩んでたのです。

という訳で、五章開幕です。

 少年がソレ(・・)と出会ったのは偶然だった。


 偶然、浜辺を歩いていたら遭遇してしまったのだ。


 浜辺に打ち上げられたソレ(・・)は、本来この星に居るべき存在では無かった。


 ソレ(・・)は何処に居るのか分からない。誰にも知られてはいけない秘中の秘。それが浜辺に打ち上がっているのは、失態以外の何物でも無かった。


 人とは違う見た目。動物とも、魚とも違う。少年が初めて見た存在。


 形容するのであれば――――怪物。


 普通の人間であれば、怪物を見た時点で逃げていた事だろう。けれど、少年は違った。


 少年は怪物に近付き、弱った怪物に声を掛けた。


 少年の声に、弱った怪物は視線をやるだけで、何かをしてくる事は無い。


 弱った怪物を見て、少年は持っていたおにぎりを差し出した。


 怪物はおにぎりを見て首を傾げるような仕草をした後、それが無害なモノだと分かり、触手で絡めとって自身の口に運ぶ。


 少年は怪物に食べ物を渡した。持っていた食べ物の全てを怪物に差し出した。


 それだけで怪物が完全に復調する事は無かったけれど、足りなかったエネルギーの幾ばくかを補う事は出来た。


 少年は、笑いかけるでも、恐怖を見せるでも、戸惑うでもなく、淡々と怪物を見やる。


 少年が何を考えているのか、怪物には分からない。


 世間を知らない(・・・・・・・)怪物であればなおさらだろう。


 怪物は、自分が目の前の存在と別の存在である事は理解している。


 見た事のない存在への興味が尽きない。


 ただ一つはっきりしている事は、怪物は少年に興味を持ったという事だ。


 それが少年にとって良い事だったかどうかは分からない。けれど、延命に繋がった(・・・・・・・)事だけは確かだった。





 逃げる、逃げる、逃げる。豪雨の中を、少年は逃げる。


 走って走って走って、逃げて逃げて逃げて。生き残るために、必死に脚を動かした。


 街は赤く染まっている。かつての営みは塵と消え、炎が街を飲み込まんと火の手を伸ばす。


 それだけではない。炎に紛れた闇が世界に広がる。


 闇から溢れる魑魅魍魎が人を食らい、建物を食らい、動物を食らう。


 闇は留まる事を知らない。


 少年は必死に走る。


 息を切らせながら辿り着いた先は、逃げ場の無い浜辺だった。


 豪雨によって波の荒れた浜辺は、夜の深い闇を飲み込んで不気味な様相を見せていた。


 背後から迫る闇と魑魅魍魎。目前には少年ではどうする事も出来ない大自然。


「……無理か……」


 諦観と共に少年は言葉をこぼす。


 脚を止め、少年は自身の最期を覚る。


 当然と言えば当然の報いだと、少年は納得する。


 この現象が何なのかは分からない。けれど、弱いまま流された自分が迎えるには当然の最期(結末)だ。


 誰も逆らえなかった。誰も逃れられなかった。気付けば首元に迫っていた毒蛇が、皆の自由意思を奪っていた。


 少年は全てを諦めて立ち尽くし、天を仰ぐ。


 そんな少年を見下ろすように、一体の怪物がいつの間にか目の前に立っていた。


 突然の出来事に驚くも、その怪物が以前浜辺で出会った怪物だと思い至る。


 怪物を見て、少年は自嘲気味に笑う。


「なんだ? 僕を殺しに来たのか? なら殺せよ。さっさと僕を殺せぇッ!!」


 怒鳴り声を上げる少年に対し怪物は、少年を触手で絡めとると、そのまま少年を引きずって海へと向かう。


 荒れる海に向かって、怪物は恐れる事無く歩んでいく。


 海へと引きずられる少年は、自身の死を自覚する。


 こんなに荒れた海だ。大人でも、泳ぎが得意な者でも、入ればひとたまりもない。


 自分には相応しい末路だ。


 引き攣った強がりな笑みを浮かべながら、少年は自身の運命を受け入れる。


 こうして、少年はこの世界から姿を消した。


 海の中では誰も捜しようはなく、また、誰も捜す者はいなかった(・・・・・)



 〇 〇 〇



「チキチキ、第一回アンタの部屋審査会」


 いえーいと少しも楽しそうな素振りを見せずにぱちぱちと手を叩くのは、いつもは括った赤毛を下ろしている少女――東雲朱里。


「審査って、何するの?」


 良く分からない事を言い出す朱里に対して小首を傾げて見せるのは、総菜パンをちみちみ食べる一見少女に見える少年――有栖川春花。


 現在、午前の授業が終わったお昼休み。朱里は春花の机にお弁当を広げ、春花は用意した総菜パンをちみちみと食べている。


 復興が終わり、学校も再開。通常通り授業が行われ、普通の日々を取り戻しつつある。


 季節は夏が顔を見せ始めた頃。もうすでに夏服に衣替えをしており、涼し気な半袖の制服に袖を通している。


 机の上を陣取る毛深い三日月の口を持つ猫――チェシャ猫は暑そうにだらけた様子を見せているけれど、目とお口はいつも通りのにんまり具合である。


「前に言ったわよね。アンタの部屋をチェックするって」


「そうだっけ?」


「そうよ」


 因みに、春花は憶えていないけれど、朱里はちゃんと部屋をチェックすると言っている。


「本当は美容に気を遣ってるかどうかをチェックするつもりだったんだけど……アレ(・・)を見たら、アンタがちゃんと生活してるか定期的にチェックした方が良いと思ってね」


 朱里が言うアレとは、春花が英雄になるまでの記録である。


「ちゃんと生活してる」


「アンタのちゃんとは信用なんないのよ。自分の事に関してはずぼらなんだから」


「そんな事、無いと思うけど……」


 ちゃんと自分の事を管理しているつもりだ。


 朝早く起きて、夜はちゃんと寝て、ご飯もしっかり食べている。お風呂もちゃんと入ってるし、歯磨きだって毎日してる。


 問題無く毎日過ごす事が出来ている。


「まあ、アンタとこの話すると平行線だからね。アンタが普段どんな生活してんのか、アタシがしっかりチェックするから」


「別に普通だけどな……」


「アンタの普通は普通じゃ無いのよ。アンタ、誰かがしっかり見て無いと、絶対に自分の事を後回しにするでしょ。良い? 私生活に潤いが無いと、学校も仕事も張り合いが無くなるし――」


 くどくどと春花に講釈を垂れる朱里。


 その様子をクラスメイト達は物珍しそうに見ている。


 特にみのりは『はわわ』と慌てた様子でそれを眺める。


「ど、どどどどうしたんだろう? あ、あんなに仲良かったかな、あの二人?」


「さぁ、どうかしらね」


 慌てるみのりに対して、白奈は別段気にした様子は無い。


 だが、みのりの言葉通りだ。


 同じ対策軍所属というところ以外で関りが無かった二人が、突然仲良くお昼ご飯を食べているのだ。何かあったのかと勘ぐってしまうのも無理からぬ事だろう。


 好奇の視線にさらされながらも、春花は朱里の長い講釈をちみちみとパンを食べながらも律義に聞く。


「――っていう訳で、私生活ってアンタが思ってる以上に大事なの。分かった?」


「分かった」


「ほんとに?」


「うん。だからチェックしなくて良いよ」


「アンタなんも分かって無いわね。放課後空けときなさい。今日行くから」


 急遽、強制的に朱里による家庭訪問が決まり、春花は不服そうに眉を寄せた。


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― 新着の感想 ―
姉と世話焼き嫁と不審者と笑
[一言] 朱里、みのり、白奈のクラスメート組はアリスの正体を知っていてなおかつ他の人が正体を知っているとは知らないんだよな
[一言] は!?こ、これは、お家でーとのよかん!?
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