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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第4章 破風と生炎

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異譚29 再会

先日レビューをいただきました。とても感謝です。

モチベが上がるので、感想、評価、ブクマ、いいね、レビューは感謝しか無いです。

これからも、頑張ります。

 ブラックローズ達は二つ目の救出地点(ポイント)へ到着すると、先程と同じように結界を少しだけ開けて貰って中へと入る。


 今度の救出地点(ポイント)はホームセンターであり、こちらもスーパーマーケット同様に酷い有様になっている。


「黒奈か?」


 建物内に入って早々、ブラックローズは声を掛けられる。この姿で『ブラックローズ』と呼ばれる事はあっても、本名で呼ばれる事は殆ど無い。


 そして、その声は聞き慣れた声でもあった。


 声の方を見やれば、そこには中年の男性が立っていた。


 姫雪(きゆき)(うるし)。黒奈の父親であり、白奈の祖父に当たる人物だ。


「お父さん! って事は!」


 漆がこの場に居ると言う事は、白奈も一緒に居ると言う事だ。


 ブラックローズは慌てて周囲を見渡せば、端っこの方に座っている白奈が目に入る。


 誰に何を説明する事無く、ブラックローズは一瞬で白奈との距離を詰める。


 たった一歩の跳躍で白奈の前まで行くものだから、周囲に強風が吹き荒れる。


「白奈!」


 がばっと白奈を抱きしめるブラックローズ。


「お母さん……?」


「良かったぁ……本当に良かったぁ……」


 安堵したように声を漏らし、ブラックローズは強く白奈を抱きしめる。


 だが、白奈は眉間に皺を寄せてブラックローズを押し退ける。


「止めてよ……そうやって心配するふりするの」


「そんなっ、ふりなんかじゃない! 此処に来るまでだって、ずっと心配してたんだよ? 白奈に何かあったら、私……」


「心にも無い事言わないでよ! 家族より他人を取ったくせに!」


「止めないか白奈」


 静かに漆が白奈を諫める。


「黒奈、お前もだ。魔法少女なら、私情を挟むな。魔法少女で居ると決めたなら、最後まで魔法少女で居ろ」


 漆に叱られ、ブラックローズは自身の失態を覚る。


 安全の確認、避難経路の確認、避難までの段取り。魔法少女の仕事を放って白奈の所まで来てしまった。


 これでは、ケイティの事を言えない。


「……なら、ブラックローズって呼んでよ。お父さん、白奈をお願い」


「ああ」


「白奈。全部終わったら、ちゃんとお話しよう」


「……」


 ブラックローズの言葉を、そっぽを向いて無視する白奈。


 無視をされても仕方が無い。それだけ、白奈を蔑ろにしてきたのだから。


 ブラックローズは二人に背を向けて、仲間の元へと戻る。


「ごめんなさい。これじゃあ、貴女の事言えないわね」


 四人に頭を下げて謝罪するブラックローズ。


「まぁ、親子喧嘩ならオレよかマシだろ」


「ですです! 娘さんなら仕方無いです!」


「仕事さえしていただけたら、別になんでも良いです」


 三人はブラックローズの行動を咎めはしなかった。


 だが、アリスは違う。アリスはしょんぼりと眉尻を下げている。


「……私の、せい……?」


 アリスにも二人の会話は聞こえていた。


 家族より他人を取った。白奈は、確かにそう言った。


 ブラックローズはアリスの指導役であり、殆ど一日中アリスと一緒に居た。アリス(自分)が原因だと容易に理解できる。


 眉尻を下げるアリスを見て、ブラックローズは優しく微笑む。


「そうじゃ無いよ。私が悪かったの。だから、アリスちゃんは気にしないで。ね?」


 これはブラックローズの本心だ。けれど、その本心が真っ直ぐ相手に届かない事もある。


 アリスはブラックローズから視線を外して白奈の方を見る。


「……っ」


 白奈は膝を抱えて座ったまま、アリスの方を見ていた。


 必然、目が合う。


 後ろめたさと申し訳無さから、アリスは目を逸らす。


 そんなアリスに気付いた様子も無く、ブラックローズはしっかりと気持ちを切り替える。


「それじゃあ、準備を始めましょう。アリスちゃん、さっきと同じように防塵マスクと防護服をお願い出来る?」


 ブラックローズに言われ、アリスはこくりと頷く。


 先程と同様に、瞬き一つの間に全員の前に防塵マスクと防護服が現れる。


「全員、防塵マスクと防護服を着用してください! 分からない事があれば、近くの者に声を掛けてください!」


 ブラックローズが良く通る声で防塵マスクと防護服の着用を促す。


「それじゃあ、避難経路の確認をしましょう。此処の責任者の人! 避難経路の確認したいんだけど!」


 この場の責任者の元へ向かうブラックローズの後に続く四人。


 その後姿――アリスの背中を白奈はじっと見つめる。


 直感で分かった。アリスが(くだん)の子供であると。


「白奈。防護服、着れるか?」


「……うん」


 白奈は立ち上がり、目の前に突如として現れた防護服に袖を通す。


 本当は着たくなかった。自分よりも優先された相手が用意した服なんて、身に着けたくなかった。


けれど、此処で白奈が駄々をこねれば、迷惑をかける相手はブラックローズとアリスの二人だけに留まらない。多くの人に迷惑をかけてしまう。それが分かるだけの分別はあった。


「凄いな。サイズぴったりだ」


 防護服を着た漆は感心したように言葉を漏らす。


 一瞬で人数分を用意し、しかも個々のサイズに合わせてある。


 白奈だって、魔法少女の事は知っている。アリスの魔法がどれだけ凄いのかも、この一瞬で理解できた。


 だからと言って、認められる訳が無い。


 自分から家族を奪った相手を、絶対に認めてはいけないのだ。


 アリスさえ居なければ、家族は分裂しなかった。自分が蔑ろにされる事も無かった。こんなに苦しくて、悲しい思いをする必要だって無かった。


 誰一人として幸せになっていない。アリスと出会ったから、如月家は皆不幸になったのだ。


「あんな子……居なきゃ良かったのに……」


「キヒヒ。聞き捨てならないなぁ」


 白奈の呟きに、思わぬところから返答があった。


「――っ」


 声が聞こえてきたのは白奈の足元。


 白奈が慌てて足元を見やれば、そこには大きな口の猫――チェシャ猫が座っていた。


「キヒヒ。一応、君のお母さんにお世話になっているからね。挨拶でもと思ったんだけど……そんな気分でも無いかい?」


「君も、魔法少女なのかい?」


 驚いた様子ながらも、漆はしゃがみ込んでチェシャ猫に問いかける。


「キヒヒ。違うよ。(ぼく)はアリスの案内役さ。君が黒奈のお父さんかい?」


「ああ。姫雪漆だ。娘が世話になっているね」


「キヒヒ。お世話になってるのはこちらの方だとも。感謝してるよ、とても」


 チェシャ猫は二人の目を見てしっかりとお礼を言う。


「……迷惑かけられてる相手からの感謝なんていらない」


「止めなさい、白奈」


「お爺ちゃんはどっちの味方なの!? こいつらが居たから家族がバラバラになっちゃったんだよ!?」


「勿論、白奈の味方さ。けどね、私はこの子達を敵だとも思っていないよ」


「どうして!? 家族をバラバラにした張本人なのに!?」


「決断をしたのは黒奈と幹仁(みきひと)くんだ。そして、間違えたのも黒奈と幹仁くんだ」


 幹仁とは黒奈の旦那であり、白奈の父親である。


「お互いに折れなかったんだろう? 折衷案も妥協点も見付けずに、決めた事だからと離婚を選んだ。白奈や美奈を本当に思うなら、二人はもっと話し合うべきだった。お互い譲れないものがあったとしてもだ」


 漆は白奈の頭を優しく撫でる。


「白奈が許せないと思うのは当然だ。この子達に責任が無いにしても、白奈がそう思ってしまうだけの出来事だったんだろう? だから、白奈の気持ちを否定したりはしないよ。けどな、世の中には誰かが手を差し伸べきゃいけない人達が居るんだ。その選択をした黒奈を、私は間違いだなんて言えないんだよ」


「でも、だって……っ!!」


 堪えきれず、涙を流す白奈。


 だって、アリスさえ居なかったら家族はずっと幸せだったのだ。関わらなければ、家族はバラバラにならずに済んだのだ。


 納得出来ない。飲み込みたくない。理解だってしたくない。


 そんな白奈の頭を、漆は優しく撫でる。


「帰ったら、皆を集めて話し合おう。お爺ちゃんも協力する。もう一度、皆一緒になれるようにな」


 漆の言葉に、白奈は堪えきれず嗚咽をこぼす。


「キヒヒ。(ぼく)も君達を苦しめたかった訳じゃ無いんだ。ただね、あの子の心の治し方(・・・)()は知らなかったんだよ」


 いつの間にか白奈の肩に乗っていたチェシャ猫が、白奈の頬に自身の頬を寄せる。


「止めて!! 止めてよ!! 貴方達の事なんて知りたくない!! どうでも良いそんなの!!」


「キヒヒ。でもね、聞いて欲しいんだ。水しか飲めなかったあの子が、ようやくご飯を食べられるようになったんだ。だから、(ぼく)は君達にありがとうって言うんだ。お礼の言葉しか出ないんだよ。(ぼく)にとっての全て(・・)を救ってくれた、君達には」


 だから、ありがとう。


 そこに、厭味のような意味合いは無い。純粋に、心の底から溢れ出る感謝の言葉。


 知りたくなかった。知るべきでは無かった。少しだって、耳にしてはいけなかった。


 相手の事情を知れば、相手を理解してしまえば、同情の余地が生まれてしまう。


 自分の気持ちが揺れてしまうのを感じる。黒奈は確かに選択を間違えたけれど、間違った行動をしていなかったのだと分かってしまう。


「もう……止めてよぉ……っ!!」


 何が正しいのか分からない。誰が正しいのかも分からない。


 分からない中で自分が不幸で居続ける事に、ただただ納得できなかった。


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― 新着の感想 ―
この世に絶対不変の正しさはなく主観的な正しさがあるのみ
[気になる点]  この話をみて、春花が過去に向かう展開がありそうな気が……。チェシャ猫って……
[一言] まぁ、難しいよね……
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