表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第4章 破風と生炎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/490

異譚27 無双

 準備と避難経路の確認を済ませれば、即座に行動を開始する。


「これから異譚の外へと向かいます! 必ず我々がお守りいたしますが、それは皆さんの協力あってこそです! 我々の指示に従い、絶対に列を乱さないでください!」


 注意事項を述べた後、魔法少女達は避難民を囲うように結界を作りだす。この結界は外部からの衝撃を護るという意味合いもあるけれど、異譚による侵食を防ぐという効果が含まれている。


 結界は魔力の消費量が多いので、侵食力の弱い異譚であれば使う事は無いのだけれど、今回は外の乱気流があるので使わざるを得ない。


 ただ、結界も万能では無い。結界を張っている魔法少女の集中力が乱れれば、結界に穴が空く。結界を張りながら迎撃をする事が出来る魔法少女も居るけれど、今回の編成では半分が結界に集中しなければ維持が出来ない者だ。


 恐らくだが、異譚の外に出るまでに何度か結界に穴が空くだろうと、この場に居る全員が考えている。自信が無いからではない。異譚とは油断した者の喉元を簡単に食い千切るのだ。


 慢心も過信もしない。失敗する可能性を十分に考慮しながら事に当たる。それが魔法少女の鉄則である。


 結界に穴が空けば、中に乱気流が入り込み、砂塵で満たされるだろう。視界がいきなり潰されれば人間は誰でもパニックになる。そのため、アリスの用意した防塵マスクと防護服は大変にありがたいものだ。


 防塵マスクがあれば砂塵の中でも目を開けられないという事も無いし、防護服が在れば服の中に砂塵が入る事も無く、肌から酒気を吸収する事も無い。


 通常より視界が限られ、防護服の蒸し暑さが難だけれど、命あっての物種だ。それくらいの不快感は我慢してもらうしかない。


 ともあれ、準備を万端にする事が出来た。


 一行はスーパーマーケットを囲う結界を解き、異譚の外へ向かうために歩き出す。


 童話の魔法少女達は、問題を起こしたという事もあって人々の目に入らないように殿を務める。


 対して、美子はもう一度問題を起こされても困るので先頭に配置されている。


「アリスちゃん。人数をどうにか出来るっていうのは、どういうことなの? 結局、人手が増える前に出発してるけど……」


「ですです。大丈夫なんです?」


 ブラックローズとテーラーが訊ねれば、アリスはこくりと頷く。


 アリスはゆっくりと視線を空へ上げる。


「キヒヒ。論より証拠だね」


 そう言って、チェシャ猫は姿を消す。


 戦闘要員では無いチェシャ猫が姿を消すと言う事は、この後に戦闘行動が起こるという事。


 それを即座に理解したブラックローズは視線を空へと向ける。


 空からは、無数の飛翔体が地上に高速で降りて来ていた。


 遥か上空を飛んでいる時は小さく感じた体長も近くまで来ればそれが間違いであったと分かる。


 個体差はあるものの、その体長は二メートル~三メートルもあり、その見た目は(あり)のようでありながらも、背には毛に覆われた蝙蝠のような翼が生えている。


 短い触覚に人間のような皮膚と目、爬虫類のような耳と口をしている。肩と尻の付け根辺りにはそれぞれ二本一対の手足を持ち、手足の先には鋭い鉤爪が付いている。


 奇怪極まる空からの刺客にブラックローズは臨戦態勢を取る。


 臨戦態勢を取ったブラックローズに気付いた他の魔法少女達も、空から迫る異譚生命体へと気付き臨戦態勢を取る。


 その間に、アリスの攻撃準備は既に整っていた。


 アリスの周囲に浮かぶ無数の剣。


「射出」


 アリスの静かな号令の後、無数の剣は予備動作無しで射出される。


 射出された剣は乱気流を斬り裂きながら、異譚生命体へと飛翔する。


 横から、正面から、背後から、無数の剣は異譚生命体を貫く。


「面倒臭い……」


 アリスは視線を横へずらし、更に生成した剣を視線の先へと射出する。


 横合いから自動車もかくやの速度で迫っていた異譚生命体達をアリスが射出した剣は無造作に貫く。


 前も、後ろも、右も左も、上さえも、全てがアリスの射程距離(テリトリー)


 アリスが迫り来る異譚生命体を殲滅するまでにかかった時間はわずか三分。


 戦闘が終われば、アリスはぺちっと手を叩く。それだけで、今まで散々異譚生命体相手に猛威を振るっていた無数の剣が消失する。


「終わり」


「……すご……」


 誰かが思わず漏らした言葉。その言葉に、その光景を見ていた全員が心中で同意していた。


 数は異譚生命体が上だった。倍以上の数を誇る異譚生命体をものともせず、たった一人が、その場から動く事も無く殲滅してみせたのだ。


 誰にも真似出来ない、圧倒的な力。


「……」


 皆の視線が集まっている事に気付いたアリスは、ブラックローズの後ろに隠れる。


「……進まないの?」


「そ、そうね。もう進んで大丈夫よ!」


 ブラックローズが前に居る魔法少女達に声を掛ければ、魔法少女達も避難民達に移動再開と声を掛ける。


 進みだした列の後ろを、童話の魔法少女達も付いていく。


「キヒヒ。どうだい? 中々のものだろう?」


 いつの間にかアリスの頭の上に現れていたチェシャ猫が我が事のように言う。


「ええ、そうね。アリスちゃん一人で十も二十も手数を増やせるなんてね……」


 アリスの魔法についてはある程度知っているつもりだったけれど、これは認識を改める必要がありそうだ。


「凄いです! 偉いです! お姉さんがなでなでしてあげるです!」


 テーラーはにこにこ笑みを浮かべながらアリスの頭を撫でる。


 チェシャ猫は珍しく空気を読んでアリスの肩に移動する。


「どう思います、ケイティさん」


「ん、ああ……便利っちゃ便利だけど……」


 ケイティもアリスが一瞬にして防塵マスクと防護服を生み出したのは、テーラーが興奮気味に報告して来たので知っている。


 万能な魔法。そう思っていたけれど、少し万能過ぎるような気がしてならない。


 魔法少女は良くも悪くも特化した能力を持つ事が多い。


 ケイティは近接特化。


 テーラーは補助系。


 マッチはアリスに似た(・・)魔法だけれど、アリス程万能では無い。


 星と花はバランス型が多いけれど、それでも段々と己の得意な分野に特化していく。それ以外もある程度出来るけれど、特化した項目があると言った感じだ。


 だが、アリスの魔法は最早別次元だ。


 攻撃、防御、補助、どれをとっても能力値が高過ぎる。


 魔法少女と言う枠に収まる魔法では無い。ケイティの感想はそれだけだった。


 それでも、そんな事をアリスに言う訳にもいかない。アリスはその力を確かに護るために使ったのだ。そんなアリスを落とすような事を言える訳が無い。


「……あんまし、無理すんなよ。駄目そうならオレ達も援護すっからよ」


 言って、ケイティは乱暴にアリスの頭を撫でる。


 ケイティが撫でた後、マッチも無言で無造作にわしわしと撫でる。


「貴女は雑魚担当。美味しい所はケイティさんに献上するように」


「……分かった」


 マッチの言葉に、アリスは特に考える事も無く頷く。


 素直に頷いたアリスを見て、マッチも頷く。


「素直な子は好きよ」


 それだけ言って、マッチはケイティの元へ歩調を合わせて戻る。


「キヒヒ。ぼさぼさだね」


「……元々」


 風のせいで、髪は元々ぼさぼさだ。けど、風よりも随分と心地が良いとは思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ここまで万能さを引っ張るというのはやはり何かしら理由があるんだろうな 理由のない無双は共感しづらいからこれからの展開に期待してます 既にいくつか情報落ちてるけどどう繋がっていくのだろ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ