異譚25 旧童話組の変身
気付けば50万字書いてましたね。
50万も書いてれば五章くらい行っててもおかしく無いんだけどなぁ。おかしいなぁ。
装甲車に揺られる事、約二時間。救援要請を受けた魔法少女達はようやく現着する。
「到着だな。全員、変身しろ」
「「了解です」」
真琴の命令に従い、童話の三人は魔法少女へと変身する。
真琴は、いつの間にか手に持っていたヴァイオリンを奏でる。
美しい旋律は色を持って可視化される。可視化された旋律は真琴を包み込み、やがて眩い光を放って霧散する。
現れたのは蟲の鎧を身に纏った少女。
手足と胴体は蟲の外骨格に覆われてはいるものの、所々に魔法少女らしいフリルが自然な感じに組み込まれている。
頭部からは前方に曲がった触覚が生えており、手足の外骨格には凶悪な刺が幾つも生えており、掠っただけで相手を切り裂けそうな程の鋭利さを持っている。
背中には翅を模した外套が靡いており、魔法少女というよりも少年漫画に出てくるようなヒーローのような見た目をしている。
魔法少女名・キリギリス。言いづらいので、縮めてケイティと呼ばれている。
真琴と同時に、燐と織音も変身をする。
燐は手に持ったマッチ箱からマッチを一本取り出し、マッチに火を点けると空中に無造作に放り投げる。
マッチからは煙が上がり、瞬く間に燐を包み込む。
放り投げられたマッチは燃え盛りながら落下し、地面に落ちると同時に火が消える。
火が消えた瞬間、燐を包み込んでいた煙が晴れる。
煙の中から出て来たのは、古めかしく、みすぼらしい恰好をした一人の少女だった。
継ぎ接ぎだらけの古風なエプロンドレスに身を包み、大判の生地の厚いスカーフを寒さから身を護るように肩にかけている。
手にはカゴを持っており、カゴの中には幾つもマッチ箱が入っている。
魔法少女・マッチ。名前に拘りが無かったので、呼びやすい呼び名を選んだ。
織音はというと、パンパンっと手を叩けば何処からともなく幾つもの生地が現れる。
チョークペンシルが生地の上を走り、その後を裁ちばさみが追って生地を切る。
型通りに切り取られた生地は縫い針によって縫い合わせられ、瞬く間に服が出来上がる。
出来上がった服は一人でに宙を舞って織音の元へと向かい、織音は慣れた様子で袖を通す。
ホップ、ステップ、ジャンプと動き回り、出来上がった服を着こなす織音。
ぴったりのサイズ――では無く、若干寸法の狂ったスーツに身を包んだ織音は、最後に裁縫道具の仕舞われたエプロンを腰に巻き、何処からともなく現れたフィンガーレスグローブと一体になったピンクッションを左手に装着する。
まさに仕立て屋といった様相である。
魔法少女名・仕立て屋。見たまんまの名前である。
「へ~、童話の魔法少女って変身が凝ってるのね~」
感心しながら、黒奈は魔法少女ブラックローズへと変身する。
全員の変身が終わったのを確認すると、ケイティは視線を異譚へと移す。
「行くぞ。まずは救出地点まで向かう。作戦通り、戦闘になったらアリスとブラックローズ以外は温存しろ」
「「「了解」」」
「りょ、了解……」
「キヒヒ。分かったとも」
突如、聞き慣れない声が聞こえ、童話の三人は驚きながら声の方を見やる。
声の聞こえて来たアリスの方を見やれば、アリスの頭に一匹の猫が乗っていた。
「あら、車に居なかったから付いて来ないと思ってた」
驚き、警戒をする三人とは対照的に、猫の存在を知っているアリスとブラックローズは平然としている。
「……敵じゃねぇのか?」
「キヒヒ。敵じゃ無いよ」
ケイティの言葉に、チェシャ猫はにんまり笑顔で答える。
「この子、アリスちゃんの……ペット?」
「キヒヒ。案内人さ。後、癒し担当」
アリスは頭の上に乗ったチェシャ猫を自身の胸元まで移動させ、そのまま抱っこする。
「……まぁ、敵じゃねぇなら良いか」
「良いんですか? あんな得体のしれない生物……」
「でも可愛いです! 撫でて良いです?」
「キヒヒ。良いとも」
「やったです!」
テーラーは笑みを浮かべながらチェシャ猫をなでなでする。
「おい、緊張感持て。撫でるのは後でやれ」
「はいです! ある程度満足したです!」
「気ぃ引き締めて行け。最低侵度とは言え異譚には変わりねぇからな」
ケイティは緩んだ気を引き締めるように言ってから、異譚へと向かう。
残りの四人も、ケイティへ続く。
ブラックローズはアリスをいつでもフォローできる位置で、テーラーとマッチはケイティをフォローできる位置で移動をする。
そうして、五人は異譚へ脚を踏み入れる。
直後、暴風が彼女達を襲う。
「――っ!! こりゃぁ、想像以上だな……!!」
吹きすさぶ暴風は全てを巻き上げ、全てを削り取っていく。
暴風によって宙に浮いた自動車や家電製品が建物に幾度も衝突し、建物を削っていく。
削り、空いた穴から吹き込む暴風が室内の物を巻き上げ、内と外から建物を破壊していく。
空を見やれば、幾つもの竜巻の柱が見え、ゆっくりとだが確実に移動をし、街を破壊し続けている。
風で飛んできたトラックを左手の一振りで吹き飛ばしながら、ケイティは舌打ちをする。
「チッ、こりゃあ救援を送る訳だ……」
「魔法少女ならいざ知らず、凡人共では脱出不可能ですね」
「ですです! 風もそうですけど、風に乗って飛んでくる物も厄介です!」
「後、アレも厄介ね」
ブラックローズの視線の先には空を飛ぶ巨大な影達がある。
「んだ、アレ……」
「さあね。敵で在る事は間違いないと思うけど」
「なら、襲ってきたら迎撃だ。アリス、戦えるか?」
ケイティがアリスに視線を向ければ、アリスはこくりと頷く。
「なら進むぞ。これ以上厄介な状況になる前に、一般市民を避難させる」
ケイティを先頭にし、後方にマッチとテーラー、その後ろにアリス、殿をブラックローズといった形で進む。
前方から障害物が飛んできた場合はケイティが、左右から来た場合はアリスが、後方からはブラックローズが対処する。
前方から飛来する障害物を、何でもないようにケイティは拳で弾く。
左右から飛来する障害物は当たる前にその動きを止め、明後日の方向に飛んで行く。
背後から飛来する障害物は、まるで後ろに目でも付いているのかという程の反応速度でブラックローズが吹き飛ばす。
「良い安定感」
「楽ちんです!」
マッチとテーラーに今のところ仕事は無いけれど、警戒は怠っていない。
いつでも魔法を発動できるように抜かりなく構えている。
暴風の中を警戒しながら進めば、星に覆われた建物が目に入る。
正確には、幾つもの星が散りばめられた夜空のような膜が建物を覆っているのだ。
「到着だな。入るぞ」
結界を張っている魔法少女を探し、結界の一部に穴を空けて貰って中へ入る。
「救援だ。中に入れてくれ」
「助かったよ。さぁ、中に入って」
通された建物は既に半壊しており、天井も吹き曝しになっていた。
一時しのぎで選んだのだろう。かなり荒れてはいるが、荒れる前はスーパーマーケットだった事が分かる。
「あら。あらあらあら? 誰かと思えば、暴力女じゃないの」
「あ?」
挑発的な声が真琴に向けられる。
声の主の方を見やれば、そこには真琴が二度と会いたく無い人物が立っていた。
「――ッ!! テメェは……!!」
「お久しぶりね。二度と会いたくなかったわ」
吐き捨てるように言ってケイティを睨みつけるのは、一人の星の魔法少女。
彼女の名は、蟹江美子。彼女は――
「なんでテメェが……!!」
「あら、見て分からない? 私、魔法少女なのよ。疵物でもなれるなんて、お互い運が良かったわね」
――真琴の妹を自殺へと追い込んだ張本人なのだ。
 




