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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第4章 破風と生炎

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異譚19 真琴の悔恨

なかなか話が進まんで申し訳無いです。

書きたいことが多すぎるのがいけないのじゃ。

 春花が自室で借りて来た本を読んでいる間に、チェシャ猫は先程あった事を黒奈に報告しに来ていた。


「キヒヒ。アリスに童話の三人が接触したよ」


 唐突に現れたチェシャ猫に驚きながらも、チェシャ猫の報告の方に更に驚いた。


「大丈夫だったの?」


「キヒヒ。問題無かったさ。あの子……真琴だっけ? あの子がアリスにヴァイオリンを聞かせていただけさ」


「そう……なら、良かった」


「キヒヒ。アリスも、真琴の演奏が気に入ったのかな。おりこうさんに聞いていたよ」


「まぁ、機織さんヴァイオリン上手みたいだからね」


「キヒヒ。よく知ってるね。彼女、下手の横好きだなんて言ってたけど、腕は相当良いよ」


「そうでしょうとも」


 言いながら、丁度見ていた真琴の人物評(プロフィール)をチェシャ猫に見せる。


「彼女、ヴァイオリンのコンテストで入賞経験があるみたいね。それも一度だけじゃなくて、何度も」


 チェシャ猫は人物評(プロフィール)を見るために肉球でタブレット端末の画面をタップする。


「キヒヒ。学校も有名な御嬢様学校じゃないか。あれ、でも転校してるね」


「問題行動……いや、ぼかす必要も無いか。彼女、暴行事件を起こしてるのよ。生徒数人を病院送りにしてるみたいね」


「キヒヒ。なるほどね」


 ぺたぺたとタブレット端末を操作するチェシャ猫。


「キヒヒ。問題行動ばかりだね、彼女。だから転校せざるを得なかったのかな?」


「それはそうだろうけど、そうなった原因があるみたいよ」


 チェシャ猫を抱きかかえ、自身の膝に乗せた後、タブレット端末を操作して画面を見せる。


「妹さんが亡くなって少し経ってから、彼女の素行が悪くなったみたいね」


 真琴の妹の死因を見て、チェシャ猫のまんまるお目々がすっと三日月のように細くなる。


「キヒヒ。自殺か……。十三歳? まだ中学生じゃないか……」


「いじめを苦に、なんてよくある理由だけど……こんな事、よくあっちゃいけない事よね。本当に胸糞悪いわ」


 溜息を吐いて、タブレット端末をテーブルに置く。


「でも、これで沙友里が春花ちゃんを機織さんに任せなかった理由が分かったわ」


「キヒヒ。護ろうとしち(・・・・・・)ゃうから(・・・・)、だろう?」


 助けようとしてしまう。それは良い事なのだろうけれど、真琴の場合は度が過ぎてしまう可能性が在った。


 魔法少女としては、助け助けられ(相互助力)は当たり前だ。けれど、護るだけになってしまっては相互助力とは言えない。


 助け合う仲間であって、庇護対象であってはいけない。


「魔法少女は殉職率が高い。前線で戦うなら尚更ね。機織さんが死んだあと、彼女に依存(・・)している子達がまともに戦えるとは思えない。特に、機織さんに助けられた愁井さんはね」


 燐は真琴に助けられた後、真琴の力になるべく魔法少女に成った。魔法少女に成った理由が真琴であり、今も真琴のために戦い続けているのであれば、真琴を失った後に魔法少女で居る理由が無くなる。


「独りっきりで戦えって訳じゃ無いけど、独りになっても戦えるようにしないとね。誰かに頼るだけの力は、弱くて脆いからね」


「キヒヒ。それ、経験則かい?」


「ええ。これでも、色んな異譚を戦い抜いて来たからね。どんな人が死んで、どんな人が生き抜くのかは分かってるつもりよ」


 多くの死を見て来た。仲間も大勢失った。


「まぁ、そこら辺どうするかは沙友里の仕事だから、私は手を出すつもり無いけどね」


「キヒヒ。冷たいね。後輩だろう?」


「関係無いわよ。今の沙友里は童話の最高責任者なんだから。この先、この程度の問題はいくらでも付いてまわるわ。自分で処理できないなら、最高責任者なんて向いて無いのよ」


「キヒヒ。厳しいね」


「それだけ責任のある立場なのよ。それに、それが出来るだけの度量が沙友里にあると判断されて、最高責任者に抜擢されたんだから。出来なきゃ駄目なのよ、それくらい。……まぁ、助力を請われたら、手助けもやぶさかではないんだけどね。こっちからあれこれ手を貸すのは、違うかなって」


 黒奈は沙友里の正式な部下では無い。よって、献身的に沙友里をサポートする必要も無い。


 それに、春花が一人前……とは言わずとも、独り立ちできるようになれば黒奈は対策軍を辞めて普通の仕事に就こうと思っている。


 ずっと沙友里をサポート出来る訳では無いのだ。


「キヒヒ。色々考えてるんだね」


「そうよ。これでも色々考えてるんだから」


 えっへんと薄い胸を張る黒奈。


 けれど、大事な事を見落としている事に、黒奈はまだ気付いていなかった。





「テメェか、童話の新入りは。後輩の癖にオレに挨拶もしに来ねぇなんて、良い度胸してんじゃねぇか」


 第一声でそう声を掛けて、それが間違いである事に気付いた。


 同じ童話の仲間である、燐と織音が挨拶に来ない事で不満を口にしていたので、真琴自ら挨拶に来たのだ。


 真琴は挨拶が無い事を気にしてはいなかった。けれど、燐と織音は違った。


 自分達の慕う真琴に挨拶に来なかった事を不満に思っていたのだ。自分達の事では無く、真琴の事を気にしていたと言う事だ。


 燐と織音が自分を慕っている事は理解している。織音はともかくとして、燐は自分に対して並々ならぬ感情を抱いている事もちゃんと理解している。


 発散させなければ、どこかで必ず爆発し、新人との軋轢を生む事になる。


 だからこそ、真琴は挨拶(・・)に向かった。


 ある一件(・・・・)から、毎回初対面でなめられないようにしていた。今回荒々しく突っかかったのも、侮ってはいけない相手だと分からせるためだった。


 自分は強く在らねばならないのだ。あの時の失敗を繰り返さないためにも。あの二人のために、強い機織真琴で居なければいけないのだ。


 けれど、今回ばかりはその選択が間違いだったと認めざるを得ない。


 真琴の声を聞いた新人(アリス)はブラックローズの後ろに隠れた。その時は顔が見えなかったから、いつもの態度を取り続けた。


 沙友里からは、まだ合流出来ない事しか伝えられなかった。真琴は新人の性格に難があるからまだ合流させないのだと思っていた。


 だが、一瞬だけ見えたアリスの顔を見て、そうではない事が分かった。


 その時分かったのだ。ああ、この子も同じなんだ。自分が、護らなければい(・・・・・・・)けない相手(・・・・・)なのだ、と。


 それと同時に真琴の中で疑問が生じる。


 一目見て、アリスが燐や()同じ側(・・・)の人間である事に気付いた。であれば、問題無く自分にアリスを任せられるはずだ。


 同じ過ちを繰り返さないために彼女達の矢面に立って戦う自分に預けても問題無いはずなのだ。


 それなのに、沙友里は自分では無く目の前の魔法少女にアリスを任せた。


 何故自分に任せてくれないのだと憤りを感じた。自分程適任はいないと自負もしていたからなおさらだ。


 ああいう子は自分がちゃんと護らなければいけないのだ。そうでなければ、こんな事(・・・・)をしている意味が無いのだ。


 だが、沙友里は自分では無くブラックローズに一任している。それが、たまらなく腹立たしかった。


 そんな、鬱屈とした気持ちを抱えていたある日、運命的な出会いをした。


 いつものように訓練室で基礎訓練をしようとした時、妹によく似た少女(・・)を見つけたのだ。


 彼女(・・)の名前は有栖川春花。自ら命を絶つ前の妹と同じ表情(かお)を浮かべた少女だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] はー、なるほど
[一言] これから亡くなるであろう方たちが掘り下げられる今章はジェットコースターでゆっくりと最上部まで登っていくような感覚ですな…
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